第5話飛んでも八分歩いて五分

割烹料理屋緒方を正樹とヒロキが出たのは、夜の10時過ぎだった。

「キャプテン、飲み過ぎだよ~」と、千鳥足のヒロキは言う。

「まだまだだぁ~!タクシーで光一が来る店まで行こうよ!この足じゃ歩けん」

2人はタクシーに乗り、光一が指定した、居酒屋早水はやみずへ向かった。

タクシーの運転手が言う。

「今夜は何軒目ですか?」

「次で三軒目だよ」

ヒロキは紅い顔で話す。

「キャプテンと僕の同級生が22年ぶりに帰って来るんですよ!」

「ほう、それはそれは。楽しみですね」

「はいっ。キャプテンも楽しみでしょ?」

正樹はぐったりして、

「ああ」の一言。

近いと思われた、居酒屋早水にはタクシーで10分かかった。

「はい、到着しました。1540円になります」

正樹は尻ポケットから財布を出して、タクシー代を払った。

お釣りは運転手に渡した。人のいい個人タクシーのおじさんだったからだ。

「ヒロちゃん、タバコ吸ってから店入ろうよ!」

「僕も我慢してた」

2人して、早水の喫煙所でタバコを吸い始めた。

「光一、もう店かなぁ~。ま、待たせたんだから5分くらいはいいだろ?」

「ま、そうだけど。キャプテン、顔がにやついてるよ!」

そう言われた正樹は、

「ヒロちゃんもずっとにやにやしてるじゃん。懲役モンだぜ」

2人は同時に店内にはいる。

「お二人ですか?」

「いや、三人で予約した小森の連れなんですが」

「はい、予約席はお二階の座敷です」

2人は、受付の女の子の胸に目がついつい行ってしまった。

男はいつまでも、バカなのである。


階段で二階に上がった。

『予約席』

と、ある座敷席にはまだ光一はいなかった。

この店は繁盛している。大学が近いせいか、若い男の子、女の子が数人働いている。

女の子の店員がおしぼりを持ってきて、お飲み物は?と、聞かれたが三人揃ったらと、正樹が応えた。

ヒロちゃんはおしぼりで、手を拭いた。

正樹は、顔を拭く。

「キャプテン、顔を拭かないでよ」

「何で?」

「オッサンくさい」

「ヒロちゃん、もうオレ達42だよ、42!あの娘らからすると、もうオッサンだよ!」

「キャプテンは学生時代はモテモテだったのに、こんなオッサンになるとは……」

ヒロキは酔うと、正樹の事を『キャプテン』と、呼ぶのだ。


「キャプテン、今何時?10時15分」

「光一君、また遅れたね」

「もういい、光一なんか!先に飲んじゃえ」

2人メニューを見なくても居酒屋早水では、鳥刺しと焼酎のお湯割りだ。

ちょうど、女の子が側にいた。

「お姉ちゃん、地鶏の刺し身と焼酎のお湯割りセット」

「……」

ヒロキが口を開く。

「お姉ちゃん、まだ、バイト日が浅いんだね?」

「……お待たせ」

「姉ちゃん誰だよ!」

「……光一だよ」

「エェーッ!」

2人はまだ、何も知らないが叫んでいた。






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