第2話招かれざる客

正樹は古びた、『居酒屋・千代』の暖簾をくぐると、

「あっ、こんばんは。まさちゃん」

カウンターから、70代の老婆が声をかけた。

「久しぶりだね、千代ちゃん?……あ、隣の女の子は誰?」

「うちの孫よ。りーちゃん。こちら西正樹さんと言ってね。常連さんなの。ほらっ、挨拶して」

アイドルになるくらいの、飛び抜けてかわいい女の子が正樹に挨拶する。

「こ、こんばんは。いらっしゃいませ。うちのおばあちゃんがお世話になってます」

「名前は?」

りんです」

「じゃ、今夜から凛ちゃんヨロシク」

「ヨロシクって、まだ、私の店じゃない。お連れさんは、奥の座席にいるよ!」

ババアの店にしては、外見こそ古いが内装は抜群に清潔感が漂い、思うほど狭くない。これから、凛は千代の看板娘になるだろう。


「正樹君こっち!」

ヒロキは既に生ビールをフライングして飲んでいる。

「ヒロちゃん、何時からいるの?」

「塾講師は教えるだけが仕事じゃないの。夕方5時からいるよ!」

正樹のG-SHOCKは、19:05を表示していたので、もう、2時間も飲んでる事になる。

正樹は早速、凛ちゃんに生ビールを注文し、オススメを聞いた。

枕崎の初ガツオだそうだ。それも、ついでに注文した。

正樹はハイライトに火を着けた。

ヒロキもそれを見て、マルボロに火を着けた。


ここの居酒屋の良いところは、自由に喫煙できるところにある。

2人が紫煙を燻らせていると、

「はいっ、生ビールです。カツオは後でお持ちします」

「凛ちゃん、いい働きっぷりだね。よっ、看板娘!」

「もう、西さんったら~」

凛ちゃんは立派な女将になるだろう。

「ヒロちゃん、先ずは乾杯だ」

2人はジョッキを軽くぶつけ、正樹はグビグビ生ビールを飲んだ。

「いや~、今日は暑かったね。もう、僕は半袖シャツ」

「正樹君、遅霜には注意だよ!ここは九州の北海道って呼ばれるんだからね」

「分かってるよ。だから、茶畑に扇風機みたなヤツあるもんね」


「お待たせしました。初ガツオのたたきです」

「ありがとう」

正樹はカツオにタップリとニンニクスライスを乗せて食すのが好きだ。

「正樹君!」

「何?ニンニクスライスのお代わり?」

「じゃなくて、覚えてる光一の事」

「……ああ、覚えてる。同級生で弓道部で、一緒だったよな?」

「そう、その光一が成人式以来、22年ぶりに、九州に帰ってくるよ!」

「何しに、今頃帰ってくんだ?」

「さ、さぁ。また、僕たち2人に会いたいってさ」

「光一は、招かれざる客だな!」

「何で?」

「オレたちの友情を軽んじ、22年も放置したんだ!」

「正樹君。会って昔のバカ話しようよ!お願い」

ヒロキはすがる想いで、正樹に懇願する。

「ま、会うだけだぞ」

「え、いいの?じゃ、この店は僕のおごり」

「あ、ありがとう」

2人は深夜まで、飲んだのである。




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