第4話

若かりし頃、飲むと言ったら京橋か梅田が多く、ある冬の日友人と京橋で合流し、飲み屋を探して放浪していた。


今のように食べログのようなものがない時代。頼りになるのは『勘』である。いつもの商店街を抜けて、どこもいっぱいで、何度も何度も同じ場所をぐるぐるするが入れそうな店がない。駅前にある2件の立ち飲み屋も考えたが流石に若い女子2人で入るにはハードルが高く、彷徨っていた。


半分諦め、『もうどこまででも行くでー!』と笑いながら、普段行かない道を行き、猫の後をつけ、路地も抜け、階段を降り、どこをどう行ったかわからないが突然みんな立って飲んでいる店を見つけた。立ち飲みと言っても完全に『青空の下』で飲んでいるのである。でっかいストーブがゴウゴウと鳴っている。何気にみんなが食べているものを見ると、マグロが山盛りだったり、ウニが山盛りだったりと、びっくりメニューが所狭しと並んでいる。何だここは!?私の好奇心がムクムクを膨らみ、どうやってこの中に参加すればいいのかわからないが、入りたくてしょうがない。とにかく青空の下なので入るも何もないのだが。無理矢理空いてそうなテーブルに立つが、メニューも何もない。飲み物は自分で取りに行くらしい。通りがけの店員を捕まえて食べ物を他人の料理を指差して注文する。てんこ盛りのマグロ、かっぱ巻きの上にイクラがてんこ盛りのもの、何かネギがいっぱいかかってるもの、適当に頼むと少し落ち着いて周りを見渡す。サラリーマンも多いが女性も多い。真冬なので寒くてストーブを行ったり来たりしながらお酒を飲む。ふと後ろを見るとお墓が立ち並ぶ。山盛りのマグロに青空の下で飲む酒の冷たさ、そのシュールさに笑いが込み上げてくる。『いい店見つけた♪』寒さゆえ、お腹が満腹になったらそそくさと退散である。また来ようと友人と約束し、来た道を思い出しながら帰る。


女の勘はすごいな。


後日談ではあるが、もう一度来店しようとチャレンジしたが見つからず、再チャレンジでようやく見つけたが定休日。夕方の誰もいない店はちょっと寂しい。夜だからこそキラキラと魅力的に映ったのかもしれない。


またあの店に行きたいなぁと、思い出すたびに誰かを連れて行きたい衝動にかられるほど魅力的な店である。大阪に帰るたび、京橋を通るたび、あそこにたどり着けるかわかんないけど、行きたいなぁと後ろ髪を引かれるのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る