第129話 俺達家族は






「!?  どういうことですか? お父様は一人息子だったはずでは?」



 伯父の存在なんて知らない。

 言いづらそうにしていたということは、あまり存在を周知したくないのか。



「父が愛人に産ませた子で、認知はしなかった。その代わり、手切れ金代わりに大金を渡していた。それからは、一切関係のない人間のはずだったが……向こうは違った」


「お母様を選んだのも、偶然ではなく故意だったってことですか?」


「ああ。自分はくすぶっているのに、俺は財産も地位もなんでも持っている。全てが順調だと恨んでいた。それで、秘かに冷のことを調べて、一人になったところを狙って襲った」



 だから不起訴になったのか。

 本来ならば、母を愛しているから極刑にしても足りないはずだ。それなのに、おかしいと思った。



「……さっき、捕まっていないと言いましたよね。今はどうしているんですか?」


「それが……施設に強制入院させたのだが、そこから脱走して所在が分からない。だから月ヶ瀬さん達に危害を加えないように、保護をして定期的に様子を確認していた」



 なるほど、そういうことだったのか。

 半分とはいえ血の繋がった兄の家族、しかもあんなに純粋でいい人達だ。厳重に守るのも頷ける。


 この話が本当なら、今の俺達もゲームの中の俺達も、悲しいすれ違いをしていた。

 少しでもお互いに歩み寄れれば、もっと家族らしくなれたはずなのに。でもこの話は、そうそう言えるものでもない。

 ゲームの中の俺にいたっては、わがまま放題のお坊ちゃまだったから余計にだ。


 全てのつじつまが合って、そしてお互いに誤解も解けた。

 でも、俺達の間には気まずい空気が漂ったままである。


 父や兄達は、俺を冷遇してきたことの後ろめたさがあって、俺は今まで話さなかったことの後ろめたさがある。歩み寄るのを怖がっているのだ。



「……一つ、お願いしたいことがあります」


「な、なんだ?」



 罵詈雑言を浴びせたり、家を出ていくと言うとでも思ったのか、顔色が悪く焦りや悲しみの感情が見える。

 怖がっていたのは、お互いだ。



「今度、お母様のお墓に行きたいです。……家族で」



 これで、さすがに意味は伝わった。

 信じられないといった表情から、歓喜の表情に徐々に変わっていく。



「ああ。冷の好きな花を持っていこう」


「好きな食べ物も持っていこう」


「それでいっぱいにしような」



 いつの間にか抱きしめ合っていた。

 みんなの目から涙がこぼれ落ちて止まらなかった。


 この日、俺達は本当の家族になれたのだ。






 初めて知った事実、存在。

 全ての元凶な気がする伯父のことを殴ってやりたいが、どこかに消えてしまっているから出来ない。


 五十嵐の力を持ってしても見つからないなんて、よほど運がいいのか頭がいいのか。どちらにせよ一筋縄ではいかないだろう。


 それでも月ヶ瀬にとっては、親であることに変わりはない。

 俺が介入しても意味は無いか。

 気になるが、今はいない人のことを考えても時間の無駄だ。

 頭の隅に、とりあえず追いやる。



 他にもどうにかしなくてはならない問題は、山のようにあるのだから。



「鬼嶋君は、親衛隊に入れるべきです!」


「えーっと……」



 その中でも早急に解決するべきなのが、鬼嶋親衛隊入隊問題だ。

 俺にベッタリとくっつくようになった鬼嶋を、学園のみんなが完全に受け入れたかというと、そうとも言えなかった。

 いなくなる騒ぎを起こしたから表立っては何もしてこないが、うっぷんは溜まっているらしい。


 だから少しでもそれを無くすために、親衛隊に入隊させるべきだという案が出ているのだ。そうすれば俺の近くにいる理由にもなるし、隊の中で指導も出来る。


 だからどうにかしようと、最近親衛隊のメンバーが代わる代わる俺のところに来て、直談判するようになった。

 絶対に駄目というわけではないが、鬼嶋が入りたがると思えない。そう思ってごまかしてきたけど、そろそろ相手も限界らしい。



「このままだと、大暴走が起こります」


「……大暴走って……鬼嶋は雪ノ下学園から来たばかりなんだ。生徒会補佐だから学園のことを教えている。ということで我慢出来ないか?」


「どう考えても、もう教える必要はないですよね!」



 それは同感だ。

 鬼嶋はすでに学園に慣れていて、むしろ俺より詳しい時もある。たぶん教えることは無いはずだ。


 分かっていても突き放したりしないのは、仲間意識のせいかもしれない。



「別に一緒に活動して欲しいとか、そこまでは望んでいません。ただ、名前だけでも入れておかないと、みんなが納得出来ないんですよ」


「そう言われてもな……わ、分かったよ。聞くだけ聞いてみればいいんだろ」



 またごまかそうとしていたのだが、それを察知して上目遣いされた。

 俺よりも小さくて弱そうな子に頼まれると、良心が痛んで断れない。


 そういうのも、とっくにバレていて利用されている。それでも可愛いものは可愛い。


 絶対に嫌だと言われるだろうけど、聞いたという実績があれば文句も出ないだろう。



「ありがとうございます!」



 顔を輝かせているところ悪いが、鬼嶋を従わせるつもりは全くない。


 お願いをして、機嫌が悪くならなければいいけど。そっちの方が心配だった。




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