第123話 天王寺と権守の独占欲




 それにしても、菖蒲とイチの反応は面白かった。

 キスをすると言ったら、顔を真っ赤にさせて、気絶までしてしまうとは。


 二人が好意を向けてくれているのは知っていたが、あんなに分かりやすい反応をされると気分がいい。


 翻弄されてばかりだったから、とても楽しかった。



「もう少しやっても良かったかも」


「何をだ?」


「うわっ!?」



 急に話しかけられて驚いた。

 いつの間に来ていたのだろうか。


 そこには天王寺と、権守がいた。

 天王寺は一人で、権守は高坂と来ると思っていたから、この組み合わせは予想外だった。



「別になんでもないです。それよりも二人、珍しいですね」


「別にもう敬語を使わなくていい。その方が楽なんだろ」


「それじゃあ、敬語無しで」



 敬語に慣れていたけど、ここで断ったら駄目だと感じた。

 すぐに敬語を止めれば、天王寺が満足そうに頷く。



「そういえば、どうして二人で来たんだ?」



 この組み合わせになった理由が気になって、尋ねると顔をしかめられた。



「こいつが勝手に着いてきたんだ」


「一人で行かせたら、相様に何をしでかすか分かりませんので」


「は? 別にいいだろ。婚約者の関係性なんだから」


「あなたが勝手に言っている関係ですけどね」


「俺に楯突く気か?」


「望むところです」



 睨み合いながら説明してきたが、喧嘩をするぐらいなら一緒に来なければいい。今言っていたように、お互いを監視するためだろうが。



「喧嘩は駄目だ。とりあえずこっちに来て座ろう」



 大きな喧嘩に発展する前に、先ほどまで座っていた切り株に案内する。

 権守が座るのは、と躊躇していたから命令という形で座らせた。



「二人は俺に何を言いたい?」



 ここに来た人は、何かを伝えたがっている。数人を相手にしてようやく分かったので、座ってすぐに話を促した。


 これまでの人達には泣かれたり怒られたりしたから、自然と姿勢が伸びる。

 二人は俺にどういった感情を向けてくるのだろう。



「それじゃあ、俺から」



 緊張しながら待っていると、天王寺が手をあげた。



「俺と、結婚してくれ」


「……………………は?」



 聞き間違い、じゃないよな。

 でも結婚というワードはおかしい。

 全く思いもよらなかったところを突いた話に、どう反応したらいいのか困ってしまう。



「結婚、って言ったのか?」


「ああ、そうだ」



 念の為に確認したが、聞き間違いの可能性が消えた結果となった。

 そうなると残るのは、求婚されたという事実だけ。



「おい。相様を困らせるな」



 どう返事したものかと戸惑っていると、見かねた権守が天王寺の腰あたりを肘で小突いた。

 不敬ともとれる行動にひやっとする。でも天王寺は全く気にしていない。



「困らせたいわけじゃない。結婚したいから、したいと言っただけだ。それの何が悪い」


「相様は、あんたなんかと結婚しません。少しどいてください」



 まだ言い足りない天王寺を押しのけて、今度は権守が話す番のようだ。

 少し変な空気になったが、きちんと元に戻してくれるだろう。



「相様。俺の……ご主人様になってください」



 期待した俺が馬鹿だった。もう言葉が出ない。

 この二人は一体どうしたんだ。ショックでおかしくなったのか。その方がいくらかマシなのに、取り乱している様子はない。



「ご、ご主人様っていうのは、一体どういう……」



 頼むから変な意味ではないようにしてくれ。

 そんな特殊性癖は手に負えない。


 頭が痛くなって、こめかみを押さえながら聞くと、目を輝かせた権守が近づいてきた。

 その分、距離をとったのは仕方がない反応のはずだ。



「話を聞いて、相様がとても強い人だというのは分かりました。俺の助けなんか必要ないかもしれませんが、本当の意味で主従関係を結びたいんです!」



 ……変な意味じゃなくて良かった。

 これでSやMなどの話題になっていたら、返事をせずに逃げていただろう。



「俺に裏切られたとか、そういう風に思っていないのか?」



 ちゃんと俺の話を聞いていたよな。

 そう心配になるぐらい、二人には負の感情がない。



「裏切られた? なんでそう思うんだ?」


「だって、騙していたようなものだ」


「でも相は相だ。出会った頃から何も変わっていない」


「俺は今の相様だから、お傍にいたいと思ったんです」


「これまで過ごした日々は、確かに存在している。それで十分だ」


「先に言われて悔しいですが、俺も同じ気持ちです」



 確かに俺になってから過ごした時間は、俺のものだ。そこに偽りはない。



「そう、だな。権守。新たに主従関係を結び直そう。……ご主人様はさすがに止めてほしいが」


「はい! 光栄です!」


「俺との結婚は?」


「それはちょっと……保留にしてもらえませんか?」


「いいんですよ、相様。優しくする必要は無いですから、絶対にお断りだと言ってください」


「は? なに、横から口出してくるんだ。潰されたいのか?」


「その前に、こちらから潰します」


「は?」


「あ?」



 すぐに喧嘩に発展させようとするので、俺は二人になら絶対に効果のある言葉を叫んだ。



「喧嘩しないで元の場所に帰らないと、もう知らないからな!」



 その効果は絶大で、飛ぶように帰って行った。




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