第120話 西寺と山梔子の想い






 古城を置いていきつつ戻ると、そこはまるで葬式会場かのようになっていた。



「えっと……どうした?」



 空気が暗い。どんよりと負のオーラが漂っている。

 引き気味に何があったのか尋ねれば、鬼嶋が飛びついてきた。



「ここくらーい。ジメジメしてて嫌だー」



 泣き真似をしながらも、本当に嫌そうだったから、一度場所を変えるべきかと考える。

 でもそれを実行する前に、鬼嶋が引き剥がされ、俺の両脇にそれぞれ腕が絡みついた。



「うおっ」



 そして何かを言う暇を与えてもらえず、外へと逆戻りさせられる。

 途中ですれ違った古城は、頑張れとだけ言って見捨てた。性格が悪い。


 引きずられるまま、先ほどまで古城と話していた場所に来た。

 そこでようやく腕を解放されて、俺は連れてきた人物の顔を見ることが出来た。



「……西寺……秀平」



 二人は何も言わずうつむいていた。

 ここに連れてきたのだから、何か話があるのだろうが時間がかかりそうだ。



「えーっと、ごめん」


「……それは、何について謝ってるんだ?」


「今まで何も言わなかったこと」


「俺達が、それで怒っていると思っているのか」


「そうじゃないのか?」



 そうじゃないとしたら、他に何があるだろう。

 分からずに言葉を待っていると、目の前でいきなりひざまずかれる。



「ちょっ……」



 突然のことに慌てるが、それぞれに手を取られ動けない。



「俺は五十嵐が困っている時、相談してもらえなかったことが悔しい。初めての友達なのに、苦しみにも気づけなかった」


「それは……俺が言わなかったから」


「俺も、気づけなかった。俺の苦しみに気づいて、解放してくれたのに。俺は助けになれなかった」


「俺が助けたわけじゃ、ない」



 西寺と友達になったのは、最初は純粋な理由じゃなかった。

 山梔子の苦しみを癒したのだって、ゲームの設定を知っていたからだ。



「俺は二人に酷いことをした。友人だと言ってもらえる資格はない」



 そうだ。俺は二人の好感度が高いのを知って、今までどこかで蔑ろにしていた部分があった。

 他の人の時よりも、一緒にいる時間が少なかったはずだ。

 それなのに友達だなんて笑えない。そんな資格、俺にはない。


 一緒にいられないと伝えて、手を離してもらおうとするが、痛くはないが強く握られていてビクともしなかった。



「どうしてそう思うのかな。俺は、五十嵐と出会えて良かったし、これからもずっと一緒にいるつもりなんだけど」


「俺だって。相の傍を離れるなんて考えられない」


「……でも」


「悩んでいるなら、これからもっともっと思い出を作っていけばいいんだよ。隠し事がなくなったから、俺達親友にレベルアップしてもいいと思わない?」


「西寺」


「相が好きだ。守りたい。ずっと傍にいたい。離れるなんて、そんなこと言わないでくれ。考えただけで気が狂いそうだ」


「秀平」


「ゲームなんて関係ない。ここにいるのは俺の意思だよ。これからも五十嵐と友達でいたい。それだけ」


「相が相だからこそ、好きになったんだ。ゲームのせいじゃない。この気持ちは俺のものだ」



 ここまで思ってくれていたとは。

 驚いているし、それ以上に喜びが胸を占めている。

 本当に、これからも一緒にいていいのだろうか。



「俺は……俺も二人と一緒にいたい。二人が、許してくれるのなら。離れたくなんかない」


「許すなんて……こっちからお願いするぐらいだよ。五十嵐は人気者だからなあ。でもこれからは遠慮なく、グイグイ行くつもりだから」


「これからも、ずっと相と共に。出来れば俺だけと過ごして欲しい」


「あっ。抜けがけするなよ。俺だって、五十嵐と二人で仲良くしたいからね」


「駄目だ」


「決めるのは五十嵐だから、山梔子先輩の許可はいりません」


「断固拒否する」



 言い争いながらも、それぞれが手の甲にキスを落とした。

 まるで忠誠を誓う騎士のような姿に、俺はまた顔が熱くなる。


 なんでだろう。友達のはずなのに、心臓がドキドキしている。

 赤くなった顔は隠したいし、うるさい心臓を押さえたいけど、両手がふさがっていて出来ない。



「少しはドキドキしてくれた?」


「あ、ああ」


「俺のこと、もっと意識してくれ」


「ぜ。善処する」



 恥ずかしい恥ずかしい。今にも倒れてしまいそうだ。

 とにかく動いていたくて、意味もなく口を開けたり閉じたりする。



「もっとその可愛い顔を見ていたいけど、後が怖いから我慢するね」


「また今度、ゆっくりと話そう」



 名残惜しげに手を離した二人は、俺の頬をするりと撫でて帰って行った。

 俺も一緒に帰ろうとしたけど、それは止められた。



「まだまだ、五十嵐と話をしたがっている人はたくさんいるから。待っててあげて」


「よろしく」



 よろしくと言われても、といった感じだったけど、大人しくその場で待つことにした。


 次は、誰が来るのだろう。

 顔の熱を冷ましながら待っていると、足音が聞こえてきた。

 一人じゃない、二人いる。


 誰だろうと振り向くと、そこには腕を組んで睨みつけてくる三千花と、手を振ってくる桜小路の姿があった。



「やっほー」


「……覚悟は出来ているのよね?」



 出来ていないとは言えない圧があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る