第117話 見つかって





「だから、俺が急に休みが欲しくなって、鬼嶋に付き合ってもらっただけです。きちんと連絡せずに行ったのは、すみませんでした」


「相君は、そんな無責任な人間じゃないはずだよね。脅されているのなら、そうだと言っていいんだよ」


「違いますって。本当に俺が付き合わせただけなので、処罰は俺だけにしてください」


「それは……」







 俺達の元に来たのは、予想以上にたくさんの人達だった。

 今まで知り合った人、ほとんどがいるんじゃないか。いない人を見つけた方が早い。


 今いないのは、父親と月ヶ瀬の親と、桜小路学園、雪ノ下学園の学園長、前学園長、雪ノ下だけ。

 つまりそれ以外の人は、ここにいる。


 ここまでの人がいると、大げさじゃないかと思ってしまう。


 別に学園の秘宝や情報を持ち出したとか、そんなわけないよな。

 今は代表して古城が、尋問するように話しかけてくる。


 目が笑っていなくて、そして怒っているようには見えないのに恐ろしい。

 俺は自然と正座をしながらも、鬼嶋は悪くないと頑なに言い続けた。

 言い訳をする前に、彼の身が拘束されてしまったのだからなおさらだ。


 正座をしている足の感覚が無くなってきたが、我慢しながら話をする。



「どうしていなくなったのかな?」


「だから疲れたからですって。交流会もあって疲れていた時に、学園が酷いありさまになっていて、この騒ぎに便乗して少しの間、休ませてもらおうと思っていただけです」



 先ほどから同じ話の繰り返しだ。

 俺にというよりも、全員鬼嶋に殺気を向けているのも気になるところだ。



「停学でもなんでも受け入れます。……というか、なんで学園が、あんな酷いことになっていたんですか? 学園で暴動でも起こったのかと思いました」



 そもそも逃げる原因となったのは、学園が荒れていて、さらには俺に関することで集会を開いていたからである。


 何が起こったのかぐらいは聞く権利はあるだろうと問いかければ、気まずそうに視線をそらされた。絶対に何かを隠している。



「そ、れは別に関係のない話だよ。大事なのは、どうして鬼嶋君と、二人きりで、こんなところにいるかだ」



 話をそらそうとしてくる。

 俺に関わることだから言えないのか。


 悲しくなってうつむく。



「言えないのなら、俺が言ってあげようかー?」



 そこで拘束されている鬼嶋が会話に割り込み、誰かが止める前にぶちまけ始めた。



「どうせ俺の存在が邪魔だからってー、あれ全て俺がやったことにでもしようとしていたんじゃないのー? でも作戦をねってからやらなかったからー、色々なところで抜けがあったって感じかなー」


「なっ!」



 慌てて拘束していた高坂が口を塞ごうとしたが、俺が手で制した。



「執事さん達を仲間に引き入れて、いざ俺を糾弾しようとしていたら、当の本人とあいちゃんがいなくなって驚いたんじゃないのー。でも俺からしたら、こんな穴だらけの計画で陥れられるわけがないでしょって感じかなー。……あんまり人のこと舐めるなよ」



 いつものひょうひょうとした表情が消え、ハイライトのない目で自分の周りにいる人間を威嚇する。

 それでも解放する気は無いらしく、今聞かされた話と総合してみると、俺と鬼嶋は怒っていい気がしてきた。というか、どう考えても俺達は逃げたこと以外は悪くない。



「……今の話は事実ですか?」



 たぶんその通りだとは思うが、確認をする。

 どうして鬼嶋のことを、そんなに目の敵にするのか。学園をあんなに破壊するのは、いくらなんでもやりすぎだ。


 誰か止める人が一人でもいなかったのかと、それぞれの顔を見た。でも気まずそうに顔をそらされたので、誰も反対をしなかったようだ。



「どうして鬼嶋をそんなに嫌うんですか。さすがにやりすぎですよ」



 学園のあの騒ぎが、全て鬼嶋の仕業だということになっていたら、どうなっただろう。

 もちろん俺は信じなかったし、ずっと一緒にいたとアリバイを主張したはずだ。

 でもなんの切り札もなしに陥れようとするわけがないから、捏造した証拠を出してくる。


 監視カメラに似た姿が映っていたとか、凶器に指紋があったとか、目撃者がいるとか。

 いくら俺が無実を訴えたところで、数に押されて負かされる。

 それを狙ったのだろう。


 鬼嶋は危険人物として退学となり、プライベートでも近づくのを禁止される。

 俺を守るという名目で、高坂達が張り付いて会いに行くこともままならない。

 そうやって引き離している間に、きっと洗脳するように鬼嶋の悪い話ばかりして、今後一切関わらないと俺が言ってようやく一人での外出を許可される。


 鬼嶋のことは悪い夢だったと思ってすぐに忘れた方がいい、そんな言葉が聞こえてきそうだ。



 あの時、何も考えずに逃げたのが、実は一番正解の行動だったということになる。

 そうなると、怒られている今の状況に物申したくなってきた。


 俺の怒りを感じたのか、まっさきに反応したのは月ヶ瀬だった。

 駆け寄ってきて、太ももに飛びついてきたのだ。



「っ」



 しびれているところに、その衝撃は良くない。

 何とか悲鳴は飲み込んだが、太ももに月ヶ瀬がいるせいで崩せない。

 崩せなければ血の巡りも止まったままで、しびれが治ることも無い。


 まるで地獄のような状況だ。






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