第115話 この世界の
「この世界を作った……」
「正確に言うと、この世界を作った人の記憶を持っているって感じかなー」
「いつから?」
「気づいた時には、全部分かっていたよー」
「……それは」
俺よりも、ずっと孤独を感じていたんじゃないか。
ゲームで鬼嶋のキャラが出てきたのかを知らない。
個性的な性格や見た目をしているが、あくまでそれは俺が勝手にそう感じているだけだ。
もしかしたら他にも、ゲームには関係ないけど、俺の目にははっきりと分かる人が他にもいるのかもしれない。
高坂だって、その一人だ。
俺が見つけられなかったら、ただのモブとして存在が消えていても、気づかなかったというのも考えられる。
そう考えたら、ものすごく怖くなった。
俺の周りにいる攻略者じゃない人達を、いつか他の人と判別出来なくなるんじゃないか。見つけられなくなるんじゃないか。
その人との思い出自体も消え去ってしまったら、俺はそれに気づくことも無く日常を送るんだろうか。
想像しただけで血の気が引いた。
「この世界はゲームだよな。でも色々と変わったことがある……何故なんだ?」
俺というイレギュラーな存在。変わったシナリオ。不明な未来。
鬼嶋なら説明出来るのでは。そう期待して尋ねたが、首を横に振った。
「確かに大まかな設定や人物は、俺達が作ったゲームの世界だねー。でも今は、ほとんど別物だと言っても過言じゃないよー」
「別シナリオで、こういったストーリーがあったとか、そういう話でもないのか」
「そうだねー。だからここは、俺達が知っているストーリー通りに進むとは限らないしー、エンディングを迎えるかどうかも分からないってことー。あいちゃんの存在もイレギュラー、俺と……他にも最初からこの世界のことを知っていた人間の存在も、偶然かもしれないねー」
「俺は、俺だけが異質ではないってことか」
「そー。もしゲームの補正力ってものがあるとしたら、俺達の存在がいつ消されるかは分からないよー」
「……そうだな。まっさきに俺の存在が消されそうだ」
俺のせいで色々と変わっている。
もしゲームに意思があるとすれば、一番邪魔だろう。
「もしかしたらそうかもねー。でも今のところ大丈夫だってことは、こうなることこそが望みなのかもしれないー」
「望み。誰の望みだろう」
「さすがに分からないー。でももしそれが消えたら、俺達はいらなくなる」
「それに怯えながら生活していくのか」
「一つの区切りは、エンディングに設定されている卒業式かもねー」
「その先に進んだ時、ゲームの強制力から解放される可能性もある……」
「そう。ゲームの終わり、その後の未来がある。と思いたいよねー。……もしもそのまま人生終わりって考えるよりはさー」
確かにそれも怖い話だ。
ゲームが終わった途端、俺達の人生も終わる。
でも仮にそうなったとしても、痛みもなく無な気がする。自分が終わったことに、きっと気がつかない。
「俺達の今の状況が、ハルちゃんも知らないゲームとして出ているという可能性は?」
「まあ……無くはないかなー。自分が死んだ記憶はないけど、もし仮に死んでいたとしたら続編が出るのはありえる話だねー。その場合、主人公はあいちゃんてことにならない?」
「俺?」
「だって月ヶ瀬君がそのまま主人公だったら、俺達ともっと関わっていなきゃおかしいでしょー?」
「それもそうか」
信じられないことではあるけど、今一番色々な人と関わっているのは俺だ。
「もし、俺が主人公だとしたら……怯える必要はなかった……?」
主人公という立ち位置はあれだけど、怖がる必要がないと分かるのは俺にとっていいことだ。
「別に逃げなくていいのか。それじゃあ、俺は今まで……無駄な心配をして、無駄な努力をしていた?」
そして俺が変えてきたと思っていた変化は、実はゲームのシナリオ通りだった?
頑張ってきたこと、やってきたこと、その全てを否定されたみたいで愕然とする。
「は、ははっ、馬鹿みたいだ。俺を主人公とするなら、お母様を幸せにしてくれれば良かったのに」
そうすれば家族みんなが笑い合う、そんな光景を見られた。絶対に起こらない、ありえない想像だけど。
「俺の存在価値って……なんだろう。どうして俺なんだ。俺は……一体誰なんだ」
俺が、俺だと思っていたことさえも、ゲームの設定だとしたら。
そこまで考えたら吐き気が襲いかかってきた。
口を押さえ、体を前に倒す。吐き出しはしないが、それでも気持ち悪さが酷くて、涙が地面にぽたぽたと落ちていく。
「落ち着いて、まだそうだと決まったわけじゃないよー。それこそこの世界は、全くゲームと関係がないことだってありえるでしょー。俺達が今まで生きていたこと、やってきたことは、俺達自身が選んできたんだよー。誰かに決められたわけじゃない」
俺の気持ちを落ち着かせるように、背中を優しく撫でられる。
服越しにも温もりが伝わってきて、ここに生きていると実感出来た。
それでもすぐに涙が止まらず、しばらく同じ格好でいた。
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