第112話 学園の崩壊?





「……おかしいな。誰もいない」


「ねー。そろそろ疲れたー」


「ごめんな。もう少し調べたいから、付き合ってくれるか」


「それじゃー頑張るー」



 嫌々言って立ち止まろうとする鬼嶋を励ましながら、学園の中を見ていく。

 どこに行っても、荒れ果てて誰もいない。

 人っ子一人いなくて、平日なはずなのにおかしいと、さすがに警察に連絡するべきかと考えた。


 でもまだ理由が分からない状態で、下手に動けない。

 もし勝手に連絡して学園の不利益になることをしたら、さすがに申し訳なくなる。

 ある程度の状況を理解してから、どうするか判断したい。

 だから鬼嶋をなだめつつ、色々な場所を見て回っていた。


 それにしても酷いありさまだ。

 見るところ全てが壊れていて、一人でやったこととは到底思えない。

 暴動でも起きたのだろうか。



「ハルちゃんは何が起きたと思う?」



 全く分からず鬼嶋に尋ねてみる。

 一緒に同じ光景を見たから、俺が気が付かなかったことを思いついたかもしれない。

 期待をしつつ聞くと、首を傾げ目を細めた。



「そうだねー、俺としては気に入らないかなー」


「気に入らない?」


「バレバレっていうかー。ムカつくっていうかー」


「どうしてこうなったのか分かったのか?」


「なんとなくの予想だけどねー」



 がじがじと親指の爪を噛み始めたから、そっと腕を掴んで止めた。



「爪がボロボロになるから噛むのは駄目だ。それで、こうなった原因はなんだ?」


「言っていいのー?」


「ぜひ教えてくれ」


「んーとねー。たぶん、というか絶対、あいちゃんのせいだと思うー」


「俺?」


「俺の予想だけどー」



 俺が何をしたのだろう。

 ありえないと笑い飛ばしたかったが、鬼嶋が嘘をついているようには見えなかった。



「それじゃあ、俺はどうすればいいと思う?」


「俺に聞くのー?」


「どうしたらいいか困ってて、アドバイスみたいな感じで教えてくれないか」


「しょうがないなー。ここで人が集まる場所に行けばいいんじゃないかなー?」


「人が集まる場所……」



 全校生徒となったら、場所は一つしかない。

 そこに行って何が起こったのか分からないかもしれないが、妙に自信満々の鬼嶋を連れて俺はホールに向かった。





 確かに、中から人の気配がする。

 一人や二人ではなく、もっと大勢だ。


 こっちは高坂と権守に任せていたから、連絡も来ないし空振りだと勝手に考えていた。

 でもこの感じだと違う。



「一体、何をしているんだ」



 俺だけが仲間外れにされたのだろうか。

 そう思いたくないが、ネガティブな方向に進む。



「そんな悲しい顔をしないでー」



 知らず知らずのうちに、唇を噛みしめていたらしい。

 眉を下げた鬼嶋が、そっと指で触れてきた。



「悪い。……大丈夫だ。きっと俺が知らなくてもいいことをやっているんだろう」



 それが、俺を陥れるものではないという保障はない。

 駄目だ。心配かけないようにしたいのに、どんどん気持ちが落ち込む。



「あいちゃんが望むなら、ここから連れ出してあげるよー?」



 そんな俺の腕をとって、鬼嶋が引き寄せてくる。

 腕の中は心地よくて、そのまま逃げてもいいかと思ってしまった。



「あー。あいつら、まじで殺してやろうかなー」



 俺を抱きしめた状態で、低くうなりをあげる。

 腕の力が強くて、でも今はそれが救いになった。



「殺さないでくれ……そうだな。もし駄目だったら、その時は連れ去ってくれるか?」


「今すぐでもいいのになー。でも、しょうがないから待ってあげる。駄目な時はちゃんと言うんだよ。溜め込んだら許さないから」



 完全に納得いっていない感じだったが、背中を軽く二度叩いて体が離れていく。



「あいちゃんなら大丈夫。怖がらずに行ってきなー」



 その言葉だけで守ってもらえるようで、俺は怖いけど中へと入る覚悟が出来た。






 中に入ると、全員がステージの方を向いていた。俺にはまだ気づいていない。

 存在を知らせるのは簡単だが、もう少し様子を見てみよう。

 あそこまで学園が荒れていた理由も気になる。


 あんなふうになっているのに、どうしてみんな平気そうな顔をしているのだろうか。

 俺に知らないところで起こっているせいか、ものすごく苛立った。


 ステージの上には、俺の知っている顔が並んでいた。

 楽しそうな雰囲気ではない。むしろ殺気が飛んでいる。

 俺がいないことを考えれば、その殺気が誰に向けられているのか察しがつく。


 大丈夫だと思っていたのに、いつの間にか破滅の道に進んでいたのか。

 違うと頭で否定しても体が震える。


 逃げたかったけど鬼嶋の励ましを思い出し、もう少し留まる。



『みんな分かっているな』



 天王寺が呼びかけている。

 誰も何も言わないということは、分かっているわけだ。



『五十嵐相についてだ』



 名前が出てきた。幻聴じゃない。

 俺のことで集まっていて、学園が荒らされていたのも俺のせいなのだ。


 怖い。怖くて震えが大きくなり、視界がぶれる。

 でもそんな視界の中、くっきりとある人物の姿が見えた。



「どうして?」



 連絡が来ないのは、まだ何も見つけていないからだと、気付かないふりをしていた。

 ここを真っ先に探すはずだと、嫌な予感はしていた。



「……高坂」



 そこにいるということは、俺を裏切ったわけだ。

 心が砕けた音が、遠くで聞こえた。





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