第98話 いざ交流会へ





「……ここ、だよな?」



 地図を片手に、俺は山を見上げた。

 新幹線と電車、バスを乗り継ぎ、ようやくここまで辿り着いた。


 でもまだゴールじゃない。

 地図の情報によると、ここから山を登る必要があるのだ。

 桜小路学園もそうだけど、セキュリティのために人里離れた場所に建てられている。行く方としたら、たまったものではない。



 迎えに行くという提案はあったのだが、俺から断った。

 申し訳ないというのもあるし、ゆっくり見たり考えたりする時間が欲しかった。


 でもあまりの遠さに、少しだけ後悔している。



「あー。間に合うかな」



 ここからは歩いて行くしかない。

 小さく息を吐き、迷っている暇はないと歩くことにした。



「……うちの学園よりも不便そうだな」



 山の上にあるというのは、とてつもなく不便だ。でも桜小路学園と同じで、全寮制だから何とかなっているようなものか。

 そうだとしても、帰省の時が大変そうである。



「もし迎えを頼んでいたら、何で来たんだろう」



 普通に考えて車だが、同じレベルのお金持ち学校だから、普通では考えられないような手段が出てくるかもしれない。その時のことを想像したら、断っておいて正解だった。



 学園へと続く門の前が待ち合わせ場所になっていて、そこに案内役の生徒と落ち合う予定だ。誰が来るのかは知らない。教えてもらえれば、ある程度相手について調べておいたのに。

 まさかそれを阻止するため、と考えるのは疑いすぎか。



「こっちもこっちで大変だけど、あっちも大丈夫かな」



 俺が雪ノ下学園に滞在する間、桜小路学園には誰かが行く。

 置いていくのも心配だったが、来るのをとてつもなく反対されたから、お門違いの敵意を向けていないのかも心配になってくる。

 一応今回の目的は、自分達の学園には無いものを感じ、戻ってきた時に役立てるようにするというものだ。


 グジグジと考えていても、心配は尽きない。それだと学べるものも学べなくなる。

 気持ちを切り替えて、学園で使えそうな技術を持ち帰ることだけに集中しよう。



 頬を何度か叩いていると、やっと待ち合わせ場所である門が見えてきた。

 時間の十五分前だから、遅れずに辿り着けた。

 道中が大変だっただけあり、ある種の達成感がある。


 制服に乱れがないか確認して、やや急ぎ足で向かった。

 俺の見間違いじゃなければ、すでに誰かが立っている。

 もし目的の人物だとしたら、これ以上は待たせられない。



「すみません、お待たせしました」



 みっともなく見えないぐらいのスピードで近づくにつれて、完全に待ち合わせ相手だと確信した。

 そうじゃなければ、わざわざ今制服を着てあそこに立っている理由がない。変人という可能性も無くはないが、今回は除外していいだろう。


 どのぐらいの時間ここにいたかは知らないけど、とりあえず待たせたことへの謝罪をした。



「全然待っていませんので、気にしなくてもいいですよ」



 すぐに分かった。ただの一般生徒じゃない。

 たぶん生徒会とか、そういった立場の生徒だ。


 桜小路学園が、白を基調とした制服を着ているとすれば、雪ノ下学園はピンクを基調とした制服を着ている。


 学園の名前を考えると、配色が逆な気がするが。

 お互いに、クリーニングが欠かせないんじゃないかと、なんだか心配してしまう。



「はじめまして。あなたは桜小路学園から来られた五十嵐相さんですね。山を登ってくるのは大変だったでしょう」


「はじめまして。はい、五十嵐相です。一週間よろしくお願いします。いえ、自然を楽しめたので全く疲れていないです」


「それは良かったです」



 濃い緑色の髪と瞳。

 物腰が柔らかいからか、まるで王子様のようだ。

 そして重要なのは、姿がはっきりと分かること。それが意味をしているのは、ゲームの主要キャラということだ。


 でも俺は全く知らない。

 知っている攻略者の中に、雪ノ下学園関係者はいなかった。


 これは一体どういうことか。

 俺の記憶があやふやなせいで覚えていないのか、それとも俺の知らない情報なのか。

 キャラを知らないから、どういう性格なのか、どう対処すればいいのか全く不明だ。



「私は雪ノゆきのしたすいです。この学園の生徒会長をしております。今回、五十嵐さんの案内役を務めさせていただきますので、よろしくお願いします」


「……生徒会長さんでしたか。わざわざ俺のためにお時間を割いていただき、申し訳ありません」



 俺がここに来ることになった、一番の原因。

 主要キャラだと思っていたが、まさかラスボスに近い人と、こんなに早くに出会うとは。

 運がいいのか悪いのか分からない。


 気づかれないように警戒を強めながら、差し出された手を握る。

 絶妙な力加減で握り返され、そのちょっとした触れ合いで、古城のような腹の中を見せないタイプだと感じた。


 一週間、大丈夫だろうか。心配になってくる。



「この一週間が、五十嵐さんにとって良きものになることを願っています」


「ありがとうございます。勉強させていただきます」



 お互い腹のうちは見せずに、表面上は穏やかな最初の出会いとなった。



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