第97話 交流会の前に
紆余曲折と妨害はあったけど、交流会は滞りなく行われることになった。
それでもまだ納得していない顔をされて、必殺技を繰り出した。
「俺の決めたことに反対するなら、嫌いになりますよ」
これで、みんながみんな大人しくなるのだから面白い。
あまり使いすぎると効果が半減するから、ここぞと言う時にしか使っていないが。
向こうの学園からは、生徒会から一人寄越してくるらしい。
誰だかは教えてもらえなかった。
その態度についても不満の声が上がったので。もっと気を遣ってほしい。
当事者の俺が受け入れたおかげで、話はトントン拍子に進んでいき、そう時間の経たないうちに日程が決まった。
勉学に支障が出ないように、特にイベントごとのない期間。そして一週間という長さに変更はなかった。
もしも期間を延長しようとしても、それは絶対に阻止されただろうから、無駄な争いが増えずに済んだ。
「本当に行くのですか? 今からでも体調が悪いということにして」
「高坂。さすがにしつこい。もう決まったことなんだから、素直に見送ってくれ。一週間だけと思って、ゆっくり休んでいればいいから」
「休んでなんかいられませんよ! くそっ。今から編入すれば、傍で守ることが出来るか?」
「権守。絶対に無理だから、そんな無謀な計画を立てるな。ちゃんと自分の身は自分で守るし、定期的に連絡を取るから。それに俺の身に何かがあったら、向こうの管理責任が問われるんだから、きっと丁重におもてなしされるはずだ」
「……信用なりません」
「信用してくれ。約束の時間までは余裕はあるが、ギリギリには着きたくないんだ。余裕を持って行動するのが、最低限のマナーだろ?」
最後まで何か起こるとは予想していたけど、あの高坂までもが駄々をこねる子供のような態度をとるなんて。
どれだけ向こうの信用がないんだ。
でも当日にドタキャンなんて、俺だけの話じゃなく学園同士の関係性にヒビを入れるかもしれないので、構っていられる余裕はそれほど残っていない。
納得のいっていないという感情を前面に出して、高坂は唇を噛み締めている。
その後ろで、権守は恨めしそうな顔をしていた。
編入を考えるぐらい、今回護衛から外されたのが我慢ならないようだ。
その件については、もう何度も説明を重ねたのだが、いっそ意地になっているのではないか。他の人達が寝ている時間に、出ることにして正解だった。そうじゃなかったら、邪魔が増えていただろう。
時計を見て、まだ少しぐらいなら時間があるのを確認すると、二人に近づきプレゼントしたネクタイピンを軽く押す。
すぐに手を離し、そのまま自分のシャツのボタンを外すと、中からチェーンを引っ張り出した。
そこにはネクタイピンと同じ、ブラックダイヤモンドを加工したものがついている。
「これとそれは、実は中に装置を仕込んでいるんだ。もし俺が助けを必要とした時に、この石を特殊な方法で動かせば、二人のそれに合図が出るようになっている」
俺はそれをいじりながら目を伏せる。
「……あとGPSも埋め込まれているから、場所を知ることも出来る」
勝手なことをして、と怒られるだろうか。
個人情報がダダ漏れで、そしてその事実を今まで言わなかった。
本当ならもう少し後のタイミングか、隠しておいたままにしようと思っていた。
でも安心させるための材料を提示しておかないと、一週間の滞在中に我慢しきれずに突入してきそうだ。
「簡単には壊れない作りになっている。心配になったら、いつでも確認してくれていい」
さて、どんな反応をしてくるだろう。
二人の様子を薄目で窺うと、感極まったとばかりの表情を浮かべていた。
「あ、相お坊ちゃま。そこまで私に気持ちを許して下さっているんですね。光栄です」
「お、俺も、こんなっ、いいんですか?」
どうやらいいように受け取ってくれた。
怒られて捨てられたとしても、仕方ないことをしたのにも関わらずだ。
「言うのが遅くなって悪い。もし自分の場所を知られるのが嫌な場合は、機能をオフにする方法もあるから」
「いえ。何もしなくても結構です。やましいことはございません」
「俺もです! むしろ知ってもらえると嬉しいです!」
それはそれでどうなのかとも思うが、本人が大丈夫ならいいか。
「これで安心だろ?」
「……完全に安心とは言えませんが、わがままを言って困らせるのも駄目ですよね。少しでもおかしいと思われたら、すぐに連絡してください。どんなことがあっても、すぐに駆けつけると約束いたします」
「分かった。帰ってきたら、三人でどこか出かけるか。今度は時計でもお揃いで買うか?」
ご褒美があった方が待っているモチベーションになるかと思い、軽い気持ちで提案した。
「ありがたき……幸せです」
「俺、俺、もしかして天国にいるのでしょうか」
「大げさだなあ」
でも思っていた以上の効果があって、感動の涙まで流し出した。
俺は苦笑しながらも、そろそろ行く時間だということに気づき、二人の肩を軽く叩いた。
「それじゃあ、行ってくるから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます