第96話 兄弟校





「きょ、暁二お兄様、落ち着いてくださいっ」



 次男を後ろから羽交い締めにしながら、俺は落ち着かせるために必死に叫んだ。

 でも全く聞く耳を持ってくれない。

 完全に怒っているせいで、俺の言葉が入ってこないのだ。


 どうしてこうなったんだ、遠い目をしながら意識を少し前に飛ばした。







「兄弟校と交流、ですか」



 生徒会室で仕事をしていると、古城が書類を片手に微妙な顔をして入ってきた。

 そして伝えられたのが、別の県にある兄弟校との交流の話だった。



「とはいっても、今回は規模を小さくやる予定だけどね」



 兄弟校の存在はちらりとゲームでも出てきたかもしれないが、誰がいてどういうところなのか全く知らない。



「こちらと向こうと、それぞれ代表者を選んで一週間交換するという話で……」



 代表者を選んで交換する。

 こちらとあちらと、それは結構重要なことなんじゃないか。


 一体誰を選ぶのか。

 古城が微妙な表情を浮かべているのも気になるところである。



「こっちからは誰を選ぶんだ」



 天王寺が誰もが気になっていることを聞いた。



「それが……向こうから指定があってね」



 そこで古城と視線が合う。

 偶然じゃない。俺以外の人も、すぐに気がついた。



「まさか……」


「……そのまさか。向こうが指定してきたのは、五十嵐相君をぜひにとのことだったんだ」



 一瞬の沈黙の後、勢いよくテーブルが叩かれる。



「そんなの許すわけないだろ!」



 叩いたのは次男だった。

 そして今にも古城に掴みかかろうとしている。



「どこで相君を知ったのか、こちらも断ったんだけど向こうも頑なでね。お互いの学園長まで話がいったから、もう決定したも同じことなんだ」


「ふざけるな! 俺は認めていない!」



 次男の許可は必要なくても、俺の許可は必要なんじゃないか。

 そう思うがすでに決定されたと言われてしまうと、口出しして相手との関係性を壊せなくなる。



「向こうが出した条件は、それだけですか?」



 表情のかたい菖蒲が聞くと、古城は首を横に振る。



「来るのは相君一人だけにしてほしいと、付き添いはいらない。護衛も向こうでつけるからいらないと言われたんだ」


「どこまでもふざけている。今すぐ俺が抗議しに行く!」



 さすがにそれはまずい。

 本気で乗り込もうとしている次男を止めるために、俺はゆっくりと近づいた。


 そして今に至る。





 俺も驚いているが、次男をどうにかしなくてはという気持ちの方が大きくて、純粋に驚いていられない。

 なんとかなだめて、乗り込むのをとりあえず諦めてもらったが、また何かのきっかけで怒り出すか分からない。

 その前に、納得出来る形に持っていきたかった。



「俺は別に構いませんが、本当に俺でいいんですか?」



 俺のことを何で知って、そしてどうして読んだのか。それを教えてもらいたい。



「俺を選んだ理由を何か言っていましたか?」


「いや。表面的なことだけ。お互いにいい刺激を与えられるだろうって」



 当たり障りのない答えだ。

 ということは、あえて本当の理由を隠している。怪しい。



「ただ、初めに断った時に、向こうの生徒会長たっての願いだって言われて」


「生徒会長がどんな人か知っていますか?」


「僕も詳しくは。天王寺君と同じように、生徒会長になった経緯が特殊だったとだけ」



 これは、ますます怪しくなってくる。

 みんなも同じ意見のようで、乗り込むとまでは言わないが、不穏な空気が流れている。



「誰もついていけない理由は? 企業秘密があるからとは言わないよね」



 あのイチでさえも、いつものヘラヘラとした様子はなく、嫌そうな顔を隠そうとしていない。



「あまり人数が増えると、もてなしが難しくなるからと言っていたけど、本当の理由は違うだろうね」


「それも受け入れたとは、まさか言わないよね」


「今は交渉している段階で、それも押され気味なのは否定出来ない」


「どうして押されるの? 別に立場は対等なはずなのに」


「それは……兄弟校の交流は前にも計画されたことがあったけど、その時はこちらの都合で直前になって中止せざるを得なくなって。その引け目があるから、学園長も強くは言えないみたいなんだ」


「なにそれ。大人の都合ってこと」


「本当に申し訳ない」



 古城も説明しながら、どこか悔しそうだ。

 色々と頑張ってくれていたらしいが、どうしようも出来なかったらしい。



 一人で行ったことのない場所に、一週間滞在する。それは、とても心もとない。

 でも相手に一人で来いと宣戦布告のようなものをされているのだから、逃げるのもしり込みするのも嫌だ。



「俺は大丈夫。いい勉強になるだろうから、ぜひ行かせてください」


「本当にいいの?」


「いいんです。むしろ指名してもらえるなんて、名誉なことじゃないですか」


「そうかもしれないけど……一人じゃ危ないよ?」


「危ないってそんな、行くのは学園ですよ。大袈裟ですって」


「いや、そうとも限らないだろ」



 ここで、今まで静かにしていた天王寺が手をあげた。


 みんな完全に反対する気満々と言った感じで、なんで俺が説得しなきゃいけないのかと段々と面倒臭くなってきた。


 これは必殺技が必要か?



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