第93話 親衛隊結成






 月ヶ瀬、桜小路共に無事? 親衛隊が結成された。


 隊長、副隊長に選ばれた生徒に、今のところ問題行動は見られない。でもメンバーがそろえばきっと統率が取れなくなる。

 そうなる前に、早めに意思疎通をはかっておいた方がいい。



 そういうわけで話し合いをすることにした。

 場所は様々な可能性を考えて風紀委員会室に決め、山梔子に同席してもらう。

 一緒に仕事がしたいと、前々から言っていたのでいい機会だ。


 どことなく嬉しそうな山梔子、俺、隊長二人、副隊長二人、そしてアドバイスをもらうために菖蒲を呼んだ。


 この面子に囲まれて緊張しているようで、入ってきた時から表情がかたい。

 もしかしたら怒られるとでも勘違いしているのか。



「今日は来てくれてありがとう。そんなに緊張しなくていい。別にとって食おうとは思っていないからな。今日呼び出したのは、分かっているだろうが結成した親衛隊についてだ。四人とも、どこかの親衛隊に所属しているか、していたことがあるか?」



 四人が顔を見合わせて頷く。



「そこで親衛隊の基本的な流れだったり、やることは把握しているよな。でも隊長や副隊長になると、また違う。それについては、ちゃんと理解しているのか?」



 これには誰も頷かなかった。



「ただの隊員だった時とは違って、責任もあるし、模範にもならなくてはいけない。その覚悟があって結成したんだよな?」



 ここで少しでも迷う素振りを見せたら、向いていないから辞めるべきだと伝えるつもりだった。

 少し脅されて怖がる人間に務まるほど、生易しいところではない。


 試すように冷たい視線を向けると、震えながらもこちらに強い視線を返してきた。



「僕は月ヶ瀬様のことが好きです!」


「その気持ちは負けません!」


「何不自由なく学園生活を送ってもらうために頑張ります!」


「逃げる気はありません!」



 俺に震える弱さはあるが、いい表情だ。

 わざと冷たくしていた目を緩めて、四人に笑いかける。



「よし。その意気だ」


「へ……?」



 拍子抜けしている。本当に怒られるとでも思っていたのか。

 厳しいところを見せた覚えはないのに、そんなに俺は怖いのかと悲しくなってくる。



「その覚悟があれば大丈夫だ。でも初めてで上手くいかないこともあるだろうし、情報を交換しよう。そのために呼んだんだ」


「そうだったんですか……びっくりした……」



 胸を撫で下ろす四人は、どちらかというと中性的なタイプだ。

 可愛い生徒には格好いい生徒が。格好いい生徒には可愛い生徒が、親衛隊の主なメンバーになることが多い。今回は前者のようだ。



「改めて自己紹介をしよう。俺は生徒会長補佐の五十嵐だ」


「僕は五十嵐様親衛隊隊長兼生徒会書記の菖蒲です。今日はアドバイスしてほしいと言われて来ました」


「風紀委員長の山梔子だ。親衛隊を結成した中で、事件になった行動を予め知ってもらう。あとは第三者的な立場として参加する」



 俺達のことを知らないわけはないが、一応軽く自己紹介しておく。



「つ、月ヶ瀬様親衛隊隊長の小林です。二年生です」


「同じく月ヶ瀬様親衛隊副隊長の鈴木です。二年生です」


「桜小路様親衛隊隊長の田中です。三年生です」


「桜小路様親衛隊副隊長の伊藤です。二年生です」



 他の人達にまぎれそうな容姿と名前。

 今度会った時に覚えていなかったら可哀想だから、頭に叩き入れた。


 じっと顔を見つめていて、なにか引っかかるものを感じた。

 同学年もいるから廊下ですれ違ったのかとも考えたが、ようやく思い出せた。



「俺の親衛隊の集会で会ったことあるよな」



 四人全員、集会で話したこともある。

 俺の親衛隊経験者だったのか。

 それならそうと、先に言ってくれれば良かったのに。すぐに思い出せなくて可哀想なことをした。

 絶対に菖蒲は俺より先に分かっていたのに、どうして教えてくれなかったのか。


 一人で首を傾げていると、顔を真っ青にした四人が勢いよく頭を下げた。



「も、申し訳ありませんでした!!」



 どうして急に謝った。

 土下座をしそうな勢いに、一体何が起こったのかと慌てて止める。



「どうしたんだ。なんで急に謝る」



 俺の知らない間に、この数秒で何かやったのか。

 今にも泣き出しそうで、あまりにも可哀想だったから思わず目元に触れていた。



「ぴょっ」



 変な鳴き声が聞こえてきたが、今は目の前のことの方が重要だと涙を拭った。



「謝る必要は無いから、何があったのか教えてくれないか?」


「ひゅえっ」



 四人それぞれに頼めば、真っ赤な顔をしてそのまま後ろに倒れ込んでしまった。

 突然のことに菖蒲と山梔子に助けを求めれば、よく向けられる表情をしている。



「五十嵐様……そういうところです」


「それはよくないと思う」



 ため息混じりに言われ、さらには遠回しに責められた。



「俺が悪いのか?」



 相手が気絶してしまっている今、誰も俺の無実を証明してくれる人はいなかった。





 目を覚ますまでの間、どうして急に謝りだしたのかを菖蒲が説明してくれた。

 元々俺の親衛隊に所属していて、そしてこの前月ヶ瀬や桜小路に魅力を感じた。



「別にそれは悪いことじゃないだろ?」


「複数所属するのを禁止されているわけじゃありませんし、そういう人はたくさんいます。しかし、さすがに本人にバレるのは嫌だったんでしょう」



 分からなくもないが、それで土下座までするのは大げさだ。



「菖蒲頼んでもいいか?」


「はい、なんなりと」



 まだ何も言っていないのに、まるで頼み事が何かを分かっているように菖蒲は笑った。






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