第84話 生徒会長へ





「俺、生徒会長になるから」


「はいっ?」


 最初のセリフを言ったのは俺じゃない。

 天王寺だ。

 そして驚いた方が俺だった。



 確かに天王寺は、ゲームの設定上は生徒会長だ。

 でもそれは今じゃない。もう少し後のことである。


 これも、俺が変えてしまった影響なのか。

 大丈夫なのだろうか。時期が早すぎて、落選なんてことにならないか。

 そうなったら申し訳なさすぎる。



「どうして急に生徒会長になろうなんて思ったんですか?」



 早めようと考えた要因は何か、とりあえず尋ねてみる。



「この学園には変えた方がいいものがたくさんある。俺の手で変えた方が早いだろ」


「そういうことですか。なるほど」



 天王寺は気まぐれな性格だから、今回もそれが理由で早まっただけか。それならいいが。



「生徒会長になるのは応援しますけど、選挙はまだ先ですよね。それまで待つつもりですか?」


「いいや」


「えっ……まさか」


「ああ。リコールを申し込むつもりだ」



 リコール。それは現生徒会は不信任として、辞めさせるやり方だ。

 それには全生徒の八割以上の賛成か、現生徒会がふさわしくないという証拠を出すしかない。


 そしてそれは、学園創立以来一度も行われていないと言えば、どれだけ無茶な話なのか分かってもらえるはずだ。



「勝算はあるんですよね?」


「いいや。でも今の奴らよりも、俺の方が良いに決まっている」



 そんな感じで、本当に大丈夫なのか。

 絶対に戦略を立てるべきだと思う。楽観的に考えすぎだ。



「俺に何か手伝えることはあります?」



 あまりにも考えなしなので、逆に手を貸したくなってきた。

 そういう風に思わせるのも、一種の才能なのかもしれない。



「手伝ってくれるのか?」


「時間がある時ならですけど。それにどこまで手助け出来るかは微妙ですが」


「いや。一緒にいてくれるだけで嬉しい。元気になる」


「俺としては、実用的な手助けをしたいんですけどね」



 まあ、俺に出来ることというのも限られてくるから、言葉通り応援だけするのもいいか。



「あなたなら、きっと良い生徒会長になりますよ。俺が保障します」


「保障してくれたからには絶対になる」



 ゲームの時だって、俺様生徒会長キャラだったけど、仕事はきちんとしていた。

 そういうところを、もっとアピールすれば月ヶ瀬にも魅力的に映るはずだ。



「それで、リコールの宣言はいつ行うんですか?」



 リコールを行うには、まず宣言を出す必要がある。

 学園長に書類を提出し認められれば、全校生徒にリコール宣言を出せるようになる。

 書類を作ったり、確認してもらったりするので、どうしても時間がかかるのだ。


 早めに、出来れば今すぐにでも始めなければ、その分生徒会長になるまでの時間が延びてしまう。

 そこら辺のことを、天王寺は分かっているのか。



「ああ、心配しなくても大丈夫だ。すでに手は打ってある」



 そう言いながら、人差し指を立て上を指した。

 ちょうどそのタイミングで、上にあるスピーカーから音声が流れ出す。



『ただいま、天王寺帝翔さんの現生徒会に対するリコールの書類が、学園長に受理されました。本日より一ヶ月後、メインホールにて決定を下します。全校生徒の皆様におかれましては、投票を行う可能性がございますので、この期間にどちらを選択するのか考えておいてください。以上です』



「な? 大丈夫だって言っただろ?」



 確かに大丈夫だった。

 でもまさか、こんなに早いと思わなかった。



「最初から手を回していることを、教えていただければ良かったのに。無駄な心配をしました」


「悪い悪い。そこまで心配してくれると思っていなくて。でもまあ、今の放送で分かったと思うけど、一ヶ月後にリコールの集会が開かれることになった。その日に俺は生徒会長になるから、よろしく頼む」


「すごい自信ですね」


「俺がなると言ったんだから、これは決定事項だ」


「そうですか」



 ここまで自信満々だと、いっそ清々しい。



「その時は、俺を役員にしてください、なんて」


「それはいい考えだな」


「えっと、冗談ですよ?」



 俺がなれるわけがないから、少し困らせるために言っただけだった。

 それなのに乗り気になってしまって、逆にこちらが困っている。



「やっぱり副会長がいいか? いや、でもそれは来年にとっておいて、経験を積むために庶務とかそういったところからかもいいか」


「本当に、俺の話を聞いてください」


「待てよ。確か生徒会長になったら、補佐を選ぶことが出来るんだったな。役員にするよりも補佐にした方が、一緒にいる時間は増えるか。補佐を経験しても、役員になる時に役立てるだろう。俺って天才か。いい考えすぎる」


「おーい」



 このままだと本当に生徒会に入れられそうだ。

 阻止しようと声をかけているのに、今後の予定を楽しそうに立てている。


 生徒会役員になる未来なんて、俺の中には欠片もなかったから、突然目の前に現れて戸惑ってしまう。


 結局訂正することも出来ずに俺は、天王寺と分かれることとなった。

 当選して欲しいような落選して欲しいような、そんな微妙な気持ちだ。






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