第80話 親衛隊と
「それは大変でしたね」
「えー。自業自得だよ」
「イチは黙ってて!」
「はーい」
定期的に開催しているお茶会で、お土産を渡せば大好評だった。
その流れでお土産や護衛を巡るゴタゴタを話せば、菖蒲は同情してくれて、イチは俺が悪いと切り捨てた。
確かに今回は俺が悪い。
ちゃんとそこは自覚している。
「でも、もう少し仲良くしてくれても良くないか?」
お互いを知る前から嫌っていて、そして聞く耳を持たない。
仲良く出来そうな感じもあるのに、どうしてこんなにも頑ななのだろうか。
「いやあ、それは無理じゃないかな。状況が状況だから」
「僕もそう思います。今のところは、多分無理かと」
菖蒲までそう言うのだから、今のところは無理なのだろう。諦めるしかない。
「そんなに面白いことになっているなら、俺も呼んでくれれば良かったのに。絶対に楽しかったよなあ」
「だから絶対に呼ばなかったんだよ」
イチを呼んだら、場をかき乱されるのは目に見えている。
「その方がいいですよ。イチはそういうところを楽しんで、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して放置しますから。巻き込まれた方はたまったものじゃありません」
菖蒲も賛成するということは、やっぱり愉快犯なのだ。
「人生にはトラブルがつきものだよね。平凡な人生なんて、なんの面白みもない」
「俺はその平凡な生活を送りたいんだよ」
「はは。絶対に無理だって。相君はトラブルに巻き込まれる星の下に産まれてきたんだから」
「そんなのはごめんだ」
トラブルに巻き込まれる星の下ってなんだ。そんな星の下は嫌だ。お断りである。
「相君はどうするつもりなの?」
「どうするつもりって?」
「みんなで仲良しこよしは無理。それなら選ぶしかないでしょ。誰と一緒にいるか」
「……誰と一緒にいるか」
誰かを選んで、誰かを切り捨てる。
それをしろと、イチは言っているのだ。
「……選ばなきゃ駄目か」
「無駄な争いを起こしたくないなら、俺としては選んだ方がいいと思うよ」
「俺が選ばないと争いが起こるのか?」
「そうだね。今だって起こっているでしょ」
誰と一緒にいたいかなんて考えたこともなかった。
味方を増やすことばかり考えて、誰というところに全く注目していなかった。
月ヶ瀬ならばルートを選ぶ、ということで一人に絞るとは思っていたけど、俺はただの登場人物に過ぎない。
「まあ、相君が誰も選べないって言うなら、友情ルートを開拓しなきゃいけなくなるけど、それは酷い行為だともとられるからね。納得出来ない人も出てくるかもよ」
「そうか」
俺がどんな選択をしても、全員が全員納得するかは微妙だ。
主人公じゃない俺に、世界はきっと優しくない。
「そう、だよな」
「落ち込む相君に提案しよう」
「提案?」
「俺達親衛隊と一緒にいれば、万事解決すると思わない?」
「ん? 今も一緒にいるだろ」
「そうじゃなくて。誰を選んでも遺恨を残すかもしれないなら、親衛隊のみんなと仲良くきゃっきゃっうふふしていた方が楽しいと思わない? ガチ恋もいるけど、基本的に親衛隊にいるのは憧れで入った子ばかりだから。みんなと仲良く学園生活を送れるよ?」
「確かにそれは魅力的で楽しいかもしれないな」
こういう場をもっと増やして、それ以外でも友達のような関係を築けたら心強い。
攻略者達には劣るにしても、親衛隊のメンバーの中に名家も多い。
いざと言う時の助けになってくれるはずだ。
「俺とあーちゃんは大歓迎だし、他のメンバーも同じだよ。みんな相君のことが大好きだからさ」
「大好きかあ」
そんなにまっすぐ好意を伝えられると、嬉しいけどどうしたらいいか戸惑う。
俺のために、ここまで言ってくれる人がいる。
その優しさに甘えた方が楽だろう。
「提案はありがたい……でも、今はまだ、えっと会う時間は増やすけど、親衛隊にだけ絞るというのは、もう少し待ってくれないか? もう少しやりたいことがあるんだ」
まだ俺には一年以上の時間が残っている。
親衛隊のところに行くのが逃げだとは言わないが、もう少しあがきたい。
先延ばしにするという答えに、イチが反対するのではという心配があったけど、予想に反して優しい表情を浮かべている。
「一応こういう選択もあるってことを伝えたかっただけだから、答えは急がなくてもいいよ。すぐに切り捨てられなかったってことは、望みもあるみたいだしね」
愉快犯ではあるが、俺のことを心配している気持ちも本物のようだ。
「あーちゃんも、そう思うよね?」
「ここで僕に振る? いいところを持っていっておいて……二番煎じに聞こえるかもしれませんが、僕達はいつでも相君のことを思っていますから。もっと頼ってくれてもいいんですよ」
「分かった」
親衛隊と仲良くするようになったのは、最初は完全に自分のためだけだった。でもいつの間にか、俺の中に占める割合が大きくなっている。
「二人が俺の親衛隊で本当に良かった。ありがとうな」
感謝を伝えたくなったから言っただけなのに、二人とも顔を押さえた。
「本当そういうところ……」
「僕には刺激が強すぎます」
「どういうこと?」
聞いても教えてくれなかったくせに、こういうことは止めろと注意されてしまった。
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