第77話 隠しきれない気持ち






「申し訳ございません」


「私は謝罪ではなく、どうしてこうなったのか理由を聞いているんだ」


「申し訳ございません」


「えっと、高坂、そのぐらいで」


「相お坊ちゃま止めないでください。護衛として連れていたのに、まさかご迷惑をおかけしたとは。私の管理不足です」


「結局何も無かったんだから」


「きっかけを作ろうとしただけでも重罪です」



 高坂が完全に怒っていて、今すぐにでも権守をクビにするとか言い出しそうだ。

 もう少し反省した態度をとれば、少しは違うのかもしれないのに、謝罪の言葉を口にするが誠意がこもっていない。



「誠に申し訳ございません。せっかく月ヶ瀬様と久しぶりにお会いする機会だったのに、別の方をつけるべきでした。……いえ、私が行くべきだったのです」


「いや、それも俺が休んで欲しいと言ったからで」


「そうだったとしても、任せるべきではなかったのです」



 高坂に休んでもらったはずなのに、これじゃあ意味が無い。

 軽率な行動をとった俺が悪いのであって、権守も巻き込まれたに過ぎない。

 それで処分されるのは可哀想だ。



「分かっているな。失敗することは許されない。それは護衛対象の死に繋がるからだ」


「心得ています」


「それならいい。相お坊ちゃまは許せとおっしゃっているが、今回のことは見逃せない。それ相応の処分をさせてもらう」



 このまま何もしなかったら、一人の人生がここで終わる。しかも俺のせいで。

 高坂が権守の処分を言い渡す前に、俺はその間に入った。



「相お坊ちゃま。申し訳ございませんが、大人しく見守っていてください」


「それは出来ない。処分するというのなら、俺にも責任があるはずだ」


「ございません。全て権守と私の責任です」



 高坂も頑ななだ。権守に対して、とても厳しすぎる。

 俺の知らない確執でもあるのかと、少し気になった。



「権守を処分するというのなら、俺にも考えがある。権守は五十嵐家で雇った護衛なんだろう? 俺個人で雇い直せば、なんの問題も無くなるな」


「相お坊ちゃま!」



 高坂が叫ぶが、俺の言う通りだから反論は出来ない。

 個人的に資産を持っているおかげで、一人ぐらいな護衛を雇っても問題はなかった。



「俺はどっちでも構わない。結局同じことになるからな。辞めさせるか?」




「…………はったりでも、考え無しに口にしたわけでも無さそうですね。相お坊ちゃまの大事な資産を減らすわけにはいきませんので、クビにはいたしません」


「わがままを聞いてもらって助かる」


「ただし罰は受けてもらいます、それは止めないでいただけますか?」


「あまり、いじめてやるなよ」


「大丈夫です。頑丈なので、そう簡単に壊れません」


「……物みたいには扱わないようにな」



 そういえば権守の意見を聞かなかったけど、

 もし辞めたいと思っていたのなら悪いことをした。

 俺と高坂が交渉をしている時は、ずっと静かだったけど、何を思っているのだろう。


 どうしたのかと振り返ってみると、りんごのように真っ赤な顔が見えた。

 見ていなかった間に熱でも出したのか。早いな。



「嫌だったか? もしかして辞めたかった?」


「違うっ。……逆に、俺でいいのか? そこまでしてもらえる価値なんて」


「価値はこれから示してくれ。高坂も認めてくれるぐらいのな」


「その道は険しいですよ。そう簡単には認めませんので」


「だってさ。俺のために頑張ってくれるか?」



 顔から火が出るのではないかというぐらいの赤さ、そうなりつつも俺の手を掴んできた。



「絶対に後悔させない。高坂さんよりも、あなたのそばにいられるように強くなる」



 これは本当に強くなりそうだ。

 まだまだ未熟だけど、強くなりたいという気持ちを持たなければ成長もしない。

 俺の顔を守るためだとしても、心強い味方になるかもしれない。



「それは楽しみだな。高坂、学園には使用人を二人までなら連れていってもいいんだよな」


「その通りでございますが、まさか権守を連れていくおつもりですか?」


「いいじゃないか。俺が授業に出ている間は、高坂も権守も暇になるだろう。その時にでも特訓をしてやってくれ」


「かしこまりました。いつまで触っているんだ。離れないか」



 微妙に納得してなさそうだが、俺が命令をしたから渋々といった感じで受け入れた。

 でも権守に対しては厳しさもあるけど、どこか親のような接し方をしているように感じた。

 高坂は結婚をしていないから、本当の親子ではないはず。私生児という可能性は、高坂の性格から考えればありえない。


 俺の知らないところで、使用人同士の何かがある。そんなことであろう。



「お、お坊ちゃま」


「どうした?」



 手は離したが、未だに距離の近い権守は鼻息荒く話しかけてくる。



「俺、俺、お坊ちゃまも顔はとても好きです。でもそれだけではなくて、えっと、好きなんですけど、顔だけじゃないっていうか」


「そうか。とりあえず落ち着け」



 俺よりも大きいから、近づかれると圧がかかる。引き気味に話を聞いているのだが、本人は気がついていない。



「あなたのそばにいられるなんて、もう死んでもいい!」


「これ以上、相お坊ちゃまに無様な姿を見せるんじゃない」



 潰されるんじゃないかというぐらいまで来た時、鈍い音と共に高坂が権守に何かをした。

 俺の位置からでは見えなかったが、気絶して倒れたのを考えると、どこかを攻撃したのだろう。



「失礼いたしました。学園に戻るまでには、最低限のマナーを身につけさせますので」


「お、おう。ほどほどにな」



 自分よりもはるかに大きいはずの体を、いとも簡単に引きずりながら高坂は消えていった。

 調教という言葉が浮かんだが、すぐに頭から消し去る。

 深く考えない方が、精神的にいい。考えたら、高坂のことを今までと同じようには見られないだろうから。





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