第68話 親衛隊集会へ
山梔子には、俺に何かが起こったりしないかぎりは手を出さないように、何とか約束させた。
今週は二回会うことを条件にだったが、トラブルになるよりは全然マシである。
俺と何度も会えることが嬉しいと、機嫌の良くなったから、誰彼構わず捕まえるようなことはしないだろう。
風紀委員は、そういう集団じゃないはずだが、山梔子が真面目すぎるのだろうか。
集会は、この前とは違った場所でする。
それはここ何日かの間に、さらに隊員が増えて手狭になったからだそうだ。
俺は何もしないのに勝手に増えているのは、もしかして知らないところで勧誘でもしているからだった恥ずかしすぎる。
あとでイチには確認しておこう。そしてもしその通りだったら、絶対に止めさせる。
「緊張しているのか」
考えごとをしていると、心配そうに顔を覗き込まれた。
「いや。たくさんの人の前に出るのは、初めてじゃないから大丈夫。ただお互いの考えを、いい形で上手く合わせられればいいなって思っていた」
イチは軽く大丈夫だと言っていたけど、隊長や他の隊員が同じ考えとは限らない。隊長は今まで暴走していた前科がある。
話が平行線のまま喧嘩別れなんてことになったら、目も当てられなかった。
「大丈夫だ。みんな相の思い通りにいく。相が絶対なんだから」
「それじゃあまるで独裁政治みたいで嫌だ」
「でも相の親衛隊だろう。仕切って何が悪い」
「恐怖や抑圧して言うことを聞かせたら、いずれは求心力を無くす。あくまでも俺の力でついて行きたいと思わせた方が長続きする」
「相は凄いな。先のことまで、きちんと考えている」
「……ただ臆病なだけだ」
自分が死にたくないから、敵を出来る限りは作りたくない。そんな弱い考え方だ。
山梔子は口下手なせいで、励ます言葉が思いつかなかったらしい。
そのまま無言が続き、俺達は気まずい空気の中、イチに教えられた場所へと向かった。
「やあやあ。来てくれてありがとう。隣の人は、今を輝く風紀委員のエース山梔子君だね。お噂はかねがね」
「誰だお前」
何となく予想していたが、山梔子とイチの相性は悪い。
会って数秒も経たないうちに、主に山梔子の方から嫌いオーラが溢れ出した。
「怖い顔しないでよ。さすが番犬」
「番犬?」
「あれ、五十嵐様は知らないの? 親衛隊が結成する前までは、山梔子君が君のことを守っていたんだよ」
「秀平が? 本当か」
「……ん」
全く知らなかった。
でも山梔子本人が肯定しているから、事実のようだ。
「そっか……ありがとうな」
本来ならば自分で対処するべきことだったのに、まさか迷惑をかけていたなんて申し訳なさすぎる。
でも謝罪の言葉よりも、感謝の言葉の方がいいと思った。だから笑顔でお礼を言えば、頭に手が置かれた。
「俺が勝手にしたことだ。相が傷つけられたく無かった」
「完璧なボディーガードぶりだったからね。それでついたあだ名が番犬ってわけ」
「相を守るのは俺一人でも十分だ。お前らは必要ない」
話題が変わっていても、親衛隊に対する敵意は忘れていなかったみたいだ。
唸るように威嚇していて、さすがのイチも苦笑いになった。
「俺は別に争う気は無いのに、どうしてそんな敵意を向けてくるのかな」
「存在が気に入らない」
「それは、どうしようも出来ないなあ」
山梔子の言うことを聞こうとすれば、それはもう顔を合わせないようにするという解決策しかなくなる。
「本当に気に入らない。……でも今日は、相のために何もしないでおく」
ここに来る前に、きちんとお願いをしておいて良かった。
完全に納得している感じではないが、渋々といった様子で見守る宣言をしたので胸を撫で下ろす。
「それは良かった。まあ、俺達も風紀に目をつけられるのは勘弁したいから、仲良くしようよ」
「お断りだ」
「あらら」
相性が悪すぎて、逆に仲が良くなりそうな感じがしたが、それは山梔子が否定をしそうだから口にはしないでおく。
「もう少し話したいところだけど、みんなを待たせているし、そろそろ行こうか」
イチは、今日もまた変装をしている。
もしかして親衛隊の時は、基本的にこの姿なのかもしれない。
「そういえば、また人数が増えたって言っていたが、今は何人なんだ?」
俺が知っている段階では、六十五人。
あの会場でも、あと何人かは入るぐらいの余裕はあった。
「えっと、たしか今は……」
会場の扉に手をかけ、イチはいたずらっ子のように笑った。
「ちょうどこの前、記念すべき百人が入ったところだよ」
人がこんなに集まると圧巻される。
新入生代表としてこれより大人数の前に立ったこともあるが、距離感や関係性が違う。
前よりも緊張していて、思わず拳を握りしめた。
「大丈夫か?」
「ああ」
緊張しているのが伝わったのか、山梔子が尋ねてくる。
圧巻されて緊張もしているけど、逃げ出したくなるほどではない。
でもきちんと行動しなくては、と背筋が伸びる。
百人。
まさかこの短期間で、ここまで人数が増えているとは想像もしていなかった。
扉が開く音に反応して、こちらを見た人がざわめく。
それが段々と伝染していき、黄色い悲鳴や野太い叫びが聞こえてきた。
あまりの声量に、耳を押さえたぐらいだ。
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