第63話 親衛隊の集会






 三千花に教えてもらった情報をもとに、俺は親衛隊が集会を開くであろう場所に来ていた。

 来ることがバレたら逃げられる可能性を考えて、お忍びでだ。


 それにしても本人に認められていないし、不在なのに、どんな集会をするのだろう。

 みんなで仲良くドッジボールだったら、見逃してもいいのだが。



「……そういう感じには見えないな」



 高坂に頼んで、カツラに眼鏡という変装がずれないように気を付けながら、人が続々と集まっている会場を見渡す。


 小ホールという名の建物だが、四十三人は余裕で入るぐらいには広い。

 そこに椅子を並べて、集会の準備をしていた。

 届け出をして片付けもきちんとすれば、中身がどういったものであろうと許可される。


 いくら自由な校風だとしても、こういう集まりを認めるのは駄目だと思う。

 現に俺の親衛隊ではまだないが、過激派が集まっているところでは退学騒ぎも起きている。


 勉学に励むのが学生の本分じゃないのか。

 でも家のために交友関係を広げるのは、間違いだと決めつけられないか。

 そうだとしても、人を傷つけていい理由にはならないことだけは確かだ。


 椅子を並べ終えて、俺は目立たないように後ろの席を選んで座る。

 全体の雰囲気も把握したいので、全員が見える位置にした。



「それにしても……凄いな」


 まだ隊長や幹部の姿は見えないが、みんな緊張した面持ちで大人しく待っている。

 やらかした話を聞いているわりには、ある程度教育されているらしい。



「もしかして君、集会は初めて?」


「っ」



 感心していたせいで、話しかけられた時に大げさな反応になってしまった。

 まさか声をかけられるとは思っていなかった。

 バレたのかとひやひやしながら隣を見ると、茶色の髪に分厚い眼鏡をした人がと目が合った。

 目が合ったといっても、本当に分厚い眼鏡をしているから、ちゃんと合っているのかどうかは確かではない。


 口元に笑みを浮かべていて、なんとなくだけど年上の雰囲気がした。



「えっと……はい、そうです。今日が初めてです」



 誰だかは知らないが、話しかけられたからには答える。これで無視をして怒らせたら、目立ってしまう。



「そっか。見た感じ一年生だね。緊張しているみたいだけど、別に取って食べられるわけじゃないからリラックスリラックス」



 どうやら見た目よりも積極的な性格のようだ。

 口元しか見えない不気味さはあっても、悪い人じゃない。

 緊張しているのは別の理由だけど、話しかけてくるぐらい酷い顔でもしていたのか。



「ありがとうございます。それにしても、凄い人の数ですね。ここにいるみんなが親衛隊なんて驚きです」


「確かに今年入ってきた新入生の中では、今のところ一番規模が大きいからね」


「そ、うなんですか」



 そんなこと一言も、三千花は言っていなかった。

 忘れていたのか故意か、後者の可能性が高い。



「そうだよ。この早さは今までにそうそうないスピードだから、最大規模になるのも夢じゃない」



 それは、絶対に持て余すから勘弁してほしい。上限を決めたいぐらいだ。

 そういうことが出来ないか、後で確認しておこう。



「君は、どうして親衛隊に入ろうと思ったの?」


「へ?」


「なんか気になって。教えてくれない?」



 親衛隊じゃないから、理由なんてあるわけない。

 しかも理由を作ったとしても、自画自賛しているようで羞恥プレイのようなものだ。


 返答に困っている俺を、何も言わずにじっと見てくる。

 口元の笑みも消えて、何かに感づいたようだった。



「君」


『ただいまより、五十嵐相様親衛隊定期集会を始めます』



 助かった。

 ナイスタイミングだ。

 口を開こうとしていたところで、司会のアナウンスが流れたおかげで、運よく話が中断された。


 隣から視線を感じるが、気づかないふりをしてステージを見る。

 五人の生徒がそこには立っていて、真ん中にいる少し背の低い人が前に出てきた。



『お集まりいただき、ありがとうございます。五十嵐相様親衛隊隊長の菖蒲あやめです。今日も活動報告をしていきたいと思います』



 遠目ではあるが、菖蒲と名乗った隊長は可愛いタイプだった。

 本人に親衛隊がいてもおかしくないぐらいに。



『五十嵐相様の親衛隊は、今週十人増えたので、現在六十五人になっています。内訳はホームページに載せてありますので、気になる人は確認してください』



 十人増えて、さらに俺が聞いている人数よりも多くなっている。しかもホームページまであるらしい。

 知らない間に、とんでもない方向に進んでいる。

 ここは、本当に俺の親衛隊なんだよな。別の人と間違っていないよな。出来れば間違っていてほしい。


 でも現実は非情だ。



『六十五人という数字は、確かに多いかもしれません。しかし五十嵐相様に、なんの障害もなく学園生活を送ってもらうためには、まだまだ人手が足りません。未だに立場もわきまえずに話しかけようとしている愚か者がいて、それを毎回阻止するのに限界が来ています。でも止めるわけにはいきません』



 憂いを帯びた表情だが、言っていることはとんでもない。

 俺の友達作りを邪魔していた事実を知り、無意識のうちに唇を噛みしめていた。





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