第61話 面倒なタイプ







「ここに呼ばれた理由、分かりますよね?」



 俺は目の前にいる人達に、全力の作り笑顔を向けた。

 威圧感も込めているのだが、全員怖がっている様子はない。


 むしろ嬉しそうな顔をしている。何故だ。

 本気で怒っていると思われていないのか。



「久しぶりだな。なかなか顔が見られなくて寂しかったぜ。婚約者様?」


「その話は、すでに破棄されてる。頭でもおかしくなったか?」


「……馬鹿だからな」


「てめえら、俺が羨ましいからって、ひがむなよ」


「ああ?」


「は?」



 俺が話をしようとしているのに、勝手に険悪になっている。

 全く、人の話を聞かない勝手な性格だ。

 俺は大きなため息を吐くと、注目を集めるためにテーブルを強く叩いた。

 さすがに大きな物音がしたから、驚いてこっちを見てくる。



「俺の話を真面目に聞いてください。大事なことなんですから」



 俺は怒っている。

 それを全く分かっていないから、さらに怒りが湧いてくる。


 こちらを見てくる三人は、絶対に俺が呼び出した理由を知っているくせにとぼけている。

 このままだと、話をうやむやにされる。



「西寺のことです。まさか名前も聞いたことがないなんて、そんな馬鹿な話はしないですよね」


「西寺? ああ、あいつか」


「爽やか野郎だな」


「……ムカつく」



 似たような感じで顔をしかめているから、心当たりはあるようだ。



「そういう考えで、西寺を脅したんですか?」



 この前会った時、西寺から聞き出したのは驚くべき話だった。

 記事で俺と恋人だという話が出て、この三人は新聞部を完膚なきまでに潰した。


 そしてそれだけでは足りず、西寺に脅しをかけたらしいのだ。



『やましい気持ちがなかったから良かったけど、俺が本当に恋人だったら消されていたかもな』



 なんてことのないように言っていたけど、脅しをかけられたのだから怖かっただろう。

 その話を聞いて、俺の中に湧き上がったのは純粋な怒りだ。


 俺の友達に何をしてくれたんだ。

 そして、どうしてこんなことをしたんだ。


 これは一度理由を聞かなくてはと、こうして集めたわけである。



「あの記事は捏造でした。西寺は友人です。それなのにどうしてなのか、俺は聞いているんですよ」



 理由によっては、絶対に許さない。

 その気持ちで睨んでいると、ずびっと鼻をすするような音が聞こえた。


 急になんだ。

 音がしているのは、山梔子の方だった。



「え、どうした?」



 山梔子は静かに泣いていた。

 声も出さず、涙だけを流していたのだ。

 あまりにも痛々しく見えて、俺は慌てて頬に手を伸ばす。



「どこか痛むのか。それとも体調が悪かった?」



 口調が乱れてしまうが、そんなことはどうでもいい。山梔子は我慢するタイプだから、もし体調が悪いのだとしたら危険だ。


 顔を触って熱が無いか確認し、怪我をしている可能性もあるかと、体を確認した。



「大きな怪我はしていないようだけど……どうした?」



 涙は止まったが、今度は顔が赤い。

 熱は無かったと思ったのに、急に上がったのか。



「……ん。もっと触ってくれ」



 でも山梔子は穏やかな表情で、嬉しそうにすり寄ってくる。

 元気そうだから心配しなくても大丈夫か。

 そのまま撫でていると、脇からブーイングが聞こえてくる。



「なんでそいつばっか構うんだよ」



 テーブルにあごを乗せて、天王寺が文句を言い始めた。

 口を尖らせている姿は、まるで子供だ。



「なんでって、泣いていたら手を差し伸べるのは普通のことでしょう」


「なんで俺に敬語を使うんだ」


「いつもそうだったからです」


「俺にも触れ」


「それはちょっと……」


「なんで。そいつみたいに、泣けばいいのか?」


「どうしてそんな話になるんですか」



 態度だけでなく、言葉も子供みたいだ。

 なにが気に食わないのだと、山梔子から離れようとするが、手を掴まれてしまった。



「離れるな」



 こっちはこっちで、構ってほしい犬のようだ。

 腕を伸ばした変な格好のまま、俺は天王寺と話をしようとしたが、背中に衝撃が走って意識がそちらに否が応でも向けさせられる。



「いっつ……暁二お兄様?」



 殴られたかと思ったが、そうではなくて後ろから突撃されたようだ。

 犯人の姿を確認しながら、俺は収拾がつかなくなりそうな予感に息を吐く。


 腰の辺りにしがみついている次男は、俺より少し背が高いぐらいだが、重いことに変わりはない。

 嫌がらせなのか、体重を徐々にかけてくるせいで引きちぎられそうだ。


 全くなんなんだ。

 おかしな言動ばかりする三人に、頭が痛くなってきた。



「……西寺に手出しをしないと約束してください。そうすれば、今日は終わりにしますので」



 言質さえとれれば、こんな状況からすぐに抜け出せる。

 三人には冷静になる時間が必要な気がする。



「とにかく、西寺は大事な友人なんです。今度なにか変なことをしたら、俺が許しませんから」



 返事がないのにじれて、一方的に要求を述べた。

 とりあえずは、これでいいか、

 脅しをかけられないように、西寺と一緒に行動すればいいし。


 そう結論を出して、手や腰にまとわりついているものを引きはがそうとしたが、逆に力がこもった。



「……あのですね」



 どういうつもりだと文句を言おうと口を開いたが、それより前に次男が鋭い目をして叫ぶ方が早かった。



「どうしてそいつばかり! 俺のことを捨てるのか!」


「はい?」






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