第60話 新聞部の崩壊






「あれ、新聞部なんですか!?」



 現在三人の人間の手によって逃げ回っているのは、俺が探していた新聞部の人達だった。

 まさかの事実に思わず叫んでしまう。



「ああ、知らなかったんだったな。あれが、お前の記事を書いて載せていた馬鹿どもだ」


「えっと、もしかして相当怒っています?」


「この状況じゃなかったら、同じことをしていたな。あの程度、生ぬるいぐらいだ」



 あれが生ぬるいとしたら、殺す勢いじゃないか。ものすごくツッコミたかったけど、肯定された時が怖いので止めた。



「とにかく、あの人達に記事の訂正をしてもらいたいので、この騒ぎを止めてもらえませんか」



 話を出来る状況に持っていかなければ、訂正もなにもあったものじゃない。

 きっと内向的な性格に見えるから、もう体力はとっくに尽きている。今まで見守る形になっていた俺も悪いが、一刻を争う。


 長男の服のすそを握って、少し高い位置にある顔を見れば、ぐうっと喉が鳴る。



「……お前が望むのなら。待っていろ」



 そう言ってスマホを取りだし、何か操作をしはじめる。

 山梔子の件があったから、俺は警戒をしてその様子を眺めていた。



「よし。後始末をする業者に発注をした。一時間もしないうちに、全て元通りになるから安心しろ」


「え、ちょっと」



 大丈夫と言いながら、俺の手首を掴み校舎の中に入ろうとする。

 業者に頼んだから安心しろと言われても、未だに爆発音やその他もろもろの音が聞こえている。全く安心出来ない。



「でもまだ記事のことを伝えていません」



 西寺のためにも、これだけは譲れない。

 足に力を込めて踏ん張り、その場に留まろうとすると、長男がこちらを向いて口角を上げた。

 その顔に、とても悪いものを感じる。



「一時間後には無くなっている部活の記事なんて、誰も気にとめない。真実とも思われない。安心しろと言ったからには、全て完璧に処理させるさ」



 もしかしたら、一番やばいのは長男かもしれない。

 俺は刺激しないように逆らうのは止めて、大人しくついていくことにした。


 新聞部の人には、心からのご冥福をお祈りしておく。相手が悪かったとしかいいようがない。

 それに俺も怒っているから、助けるなんて優しさは持ち合わせていなかった。



 その日、桜小路学園で活動していた部活の一つが消滅した。

 所属していた部員は満身創痍の状態で、恐怖に怯えた様子で口を閉ざしていたため、何故消滅したのか知る者はほとんどいなかった。


 でも、まことしやかに噂が流れた。

 五十嵐相に手を出すと、存在を抹消される。



 俺にとって最悪なことに、これでますます普通の友達を作るのが困難になったのだった。








「俺の知らない間に、そんなことになっていたんだ」


「こっちは本気で大変だったんだ。楽しまれても困る」


「はは、バレたか。爆発なんて見てみたかったな」


「当事者じゃないから、そんなことが言えるんだ」


「ごめんごめん。でも俺のために動いてくれて、本当にありがとう」



 あの騒動のことを、西寺は後から聞いたらしい。

 記事のことも後から知ったようで、謝罪をしに俺の部屋を尋ねてきた。

 完全に俺が悪いから、すぐに謝罪を止めてもらった。


 今はこうして、お茶を飲みながら騒動の話をしている。



「それにしても凄いな。自分の家族のために、そこまでのことをするなんて」


「五十嵐家の名誉を汚されたから、それを怒っていたんだろう」


「俺は理由は他にもあると思うけど」


「理由なんて他に無いだろ」



 高坂が淹れてくれたお茶と、西寺のおかげで落ち着いてきた。

 ここ最近はありえないことばかり起こったから、精神的に疲れていた。



「五十嵐君って、本当に不思議だな。この学園にふさわしい家柄のはずなのに、そういう感じが全くしない」



 それは俺が本物じゃないせいだ。

 ここにいてもいいのか、そんな違和感はいつも付きまとっていた。

 俺の気持ちを、感じとられていたとは。思っている以上に、西寺は賢い。



「それに自己評価が低くて、家族とも一線を引いている。もしかして何かあった?」


「何か、とは」


「んー。……でも家族の問題は、他人が口出しすることじゃないよな。俺のデリカシーが無かったね。この話は忘れてほしい」



 西寺から始めた話だったのに、向こうから一方的に止められてしまった。

 消化不良な感じはしたけど、わざわざ家のことを蒸し返すのも良くない。



「それよりも俺と恋人同士なんて話になって、本当に悪かった。今回は早く何とか出来たから良かったけど、ものすごい迷惑をかけるところだった」


「俺としては、別に噂は全く嫌じゃなかったけど。でもまあ……」


「もしかして何かあったのか?」


「ええと。その噂に関することといえば、関することなんだけど」



 噂は完全に消えたはずだったのに、まだ言っている人間がいたのか。

 勝手に自分の中で終わらせようとしていた、その判断は早すぎた。

 ウロウロと視線をさまよわせている西寺の手を握り、視線をそらさずにまっすぐ顔を見る。



「教えてくれ。何があったんだ」



 絶対に何も見逃さない、そんな強い気持ちでいると、頬を赤くさせた西寺が口を開いた。



「えっと。実は……」






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