第59話 爆発と







 何だこの状況。

 俺は目の前の光景に、介入するべきかどうか迷っていた。


 長男と一緒にいた時に聞こえてきた爆発音は、なにか別の音と勘違いしていると思った。

 生活する上で、爆発なんてありえないのだから当たり前の思考回路だろう。


 でも実際、俺の目の前で先ほどから爆発が起こっている。しかも地面がえぐれるぐらいの威力のものだ。


 なにかの撮影だと言ってもらえた方が、まだ気が楽になる。



「でも、絶対に違うよな」



 その爆発を起こしているのは、まさかの次男だった。ここからでは聞こえないが、何かを叫んでいるようだ。

 俺の知らない間に、ここはバトルゲームの要素も追加されていたのか。


 爆発物は違法だろう。

 それを学園内で、こんな目立つやり方で使うなんて、一体なにがあったんだ。

 どういう仕掛けかは不明だが、様々な場所に設置された爆発をスイッチで起動させている。


 ただ爆発させているわけではない。

 爆発が起こっている地点には、何人かの人間が走っていた。

 最初は余裕そうな表情を浮かべていたが、爆発が本物で数が多いことを察すると、その顔が恐怖に歪んだ。



「本当に、何やっているんだ。あれ」



 あの逃げ惑っている人達は、誰なのだろう。

 標的にされているみたいだから、次男に対して何かをやらかしたはずだ。

 よほどのことをやらかしたのでなければ、さすがにこんなことにはなっていない。


 今まで見たことのないぐらいの怒りに、何をしでかしたのだと相手を見る。


 どちらかというと不良とかそういうのではなく、大人しそうな真面目そうな人達だ。

 体中が煤にまみれていて、爆発に巻き込まれた回数が少なくはないことを感じさせる。


 人数は三人と、そこまで多いわけでもない。

 どういった関係性なのか、ここでは読み取れなかった。


 観察している場合ではなく、そろそろ止めるべきか。いや止めなくては。

 身内に犯罪者を出すのはまずい。すでに手遅れな気もするが。

 どうして怒っているのか、きちんと話を聞いて、相手が悪かった場合は示談に持ち込もう。



 声をかけるために近づこうとした時、新たな人物が登場した。



「あれは……天王寺か?」



 次男に近づいているのは、天王寺だった。顔が見えなくても、髪の色で分かる。

 肩に手を置いて何かを話しかけ始めて、次男もそれで爆発を一旦止めた。


 よし。そのまま説得して止めてくれ。

 期待して待っていると、何故か二人は背中を叩きあっている。


 ものすごく嫌な予感がする。

 そして、その予感は当たった。



「なっ!?」



 爆発が再び始まり、さらに追加でどこからか犬が数匹現れた。そして追跡を始める。

 ドーベルマン、シェパード、ボクサー、ピットブル、すらりとしていて見た目は格好いいが、追いかけられる方からすればたまったものではない。


 本来だったら足が震えていただろうに、止まったら死ぬという恐怖から、勝手に体が動いているのだろう。

 爆発にプラスして犬まで。

 逆に何をしたら、ここまでのことをされるんだ。興味が湧いてくる。


 でも、今はそんな悠長なことを考えている場合じゃない。

 このままだと体力が尽きて、爆発されるか犬に襲われるかのどちらかだ。

 いつから始まったか分からないけど、そろそろ限界を迎える頃だろう。

 早く何とかしよう。



 その時、救世主が現れた。

 山梔子だ。

 爆発や犬を恐れることなく、次男と天王寺の元にたどり着いた。そして二人に向かって、説教をしているのか怒っている。



 今度こそ止めてくれる。

 山梔子は常識人だから、ようやくこの状況が終わりそうだ。

 俺は胸を撫で下ろした。



 でもそれは間違っていた。



「あれ?」



 怒ってくれていたのだと思っていた山梔子が、どこかにスマホを使って連絡をとり始める。


 そしてすぐに、空からヘリが現れた。

 ヘリは上空で止まると、何かを地面に落とした。

 それはジュラルミンケースだった。落ちてきたケースに山梔子が近づき、中から両手で持つような大きな銃を取り出す。



「え……銃?」



 まさか本物では無いよな。

 そんな心配をよそに、山梔子はためらいなく銃を構えて、逃げている人に向かって撃った。

 幸い本物では無かったようで、中から飛び出してきたのは水である。でも威力が強い。地面が少しえぐれているようなのは、気のせいだろうか。


 ここまで来たら、もうカオスだ。

 頼みの綱であるはずの山梔子もこんな様子では、もう止められる人なんていない。


 俺だって、あんなところには入りたくないが、なんとかする必要があった。



「あー、もう!」



 もう俺が行くしかない。

 怪我を覚悟して行こうとした俺だったが、誰かに肩を掴まれる。



「誰だっ……はじめお、先生?」



 俺を止めたのは長男だった。

 教室の前で分かれたから、今までどこに行っていたのか知らない。

 怒っているのだけは、その表情で分かる。



「危ないから、ここにいなさい」


「でも」


「あれの後始末は、こちらでやっておく」



 あれと言いながら顎で指し示したのは、カオスな状況だった。



「でも、危なくないですか。色々と何か、おかしなことになっていますけど」


「大丈夫だ。少し頭に血が上っているだけだから」



 頭に血が上ったというだけで済まされる話か。

 でも何とかしてくれると言ってくれるのなら、任せておいた方が得策だろう。



「そう言うのなら。……でもあの人達は何をしたんですか。あそこまでのことをされるなんて」


「まあ仕方の無いことだ。名誉を傷つけたのだから」


「名誉? 一体誰のでしょう」


「それは……お前のだよ。あそこでああしているのは、新聞部の人間だ」








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