第58話 いざ新聞部……





 新聞部は、普段使用しているところとは、別の校舎の隅にあった。

 場所を知らなかったせいで、教師にまで場所を聞く羽目になった。


 しかもわざとなのか知らないが、とてつもなく分かりづらい場所にある。

 その部屋にも新聞部というプレートはかかっていないから、教えてもらわなければ見つけられなかっただろう。



 勢いでここまで来たはいいけど、どうするつもりなのか全く考えていない。

 最低限の目標とすれば、とにかくあの記事を訂正してもらうことである。


 それ以外に報復しようとか、部を廃止に追い込もうとか、物騒なことをするつもりは無い。相手の出方次第では、覚悟の上だが。



「とりあえず中に入るか」



 中に誰か部員がいなければ、訂正してもらうことすら出来ない。

 今こうして扉の前にいるが、中から気配を感じないのだ。


 もし誰もいなかったら、その時は古城か長男に頼んで、部員が誰なのかを教えてもらうか。

 でもそうなると、新聞の件を説明しなくてはいけなくなる。二人のどちらにも、知られたくはなかった。


 どうか一人でもいいから、中に誰かいてくれ。

 そう願いつつ、扉をノックした。



 中から返事はない。

 聞こえなかった可能性を考えて、今度は強めに叩く。



「誰かいますか?」



 声をかけても返事はなかった。

 留守のようだ。アポをとらずに来たから、それも仕方の無いことか。


 古城と長男、どちらに頼もう。

 選択肢としては最悪で、気が重くなりながら戻ることにした。






「なんだって。もう一度言ってみろ」



 選択肢間違えたか。

 目の前の歪んだ表情を見て、俺は今すぐこの場から離れたくなった。

 でも相談をしてしまったから、もう取り消せない。


 古城か長男か悩んで、結局長男に話をした。

 一応家族であるので、優先して伝えた方がいいと考えた結果だ。



 話を聞いてもらえるか最初は心配していたが、尋ねてきた俺を拒否せずに機嫌も良かった。これなら、簡単に教えてくれるかもしれない。そう期待しつつ、経緯を説明し始める。


 でも話を進めていくにつれて、長男の機嫌はどんどん悪くなっていった。


 そして終わる頃には、黒いオーラが見えるぐらいの怒気をまとっていた。

 開口一番にそう言われても、もう一度話が出来るほど鈍感じゃない。



「えっと。すぐに処理しますので、部員の人の情報だけ教えてもらえればいいのですが……」



 俺が一人で処理出来なかったから、呆れてこんな風に怒っているのだ。

 でも入学してきたばかりで、なんの情報源も持っていない。そういうのは、これから作っていこうと考えていたが、長男からすれば遅すぎたのか。



「申し訳ありません。今回だけは、手を貸してもらえないでしょうか」



 自分の力でなんとかしようとしたら、時間がかなりかかってしまう。

 俺だけならいいけど、西寺も巻き込まれているのだ。早めに解決したい。

 色々と言われてもいいから、何がなんでも協力してもらう。


 頼みごとをするのだ。それなりの態度が必要になる。

 俺の覚悟を知ってもらうために、深く頭を下げた。



「顔を上げろ」



 低い声が聞こえてくる。

 これはどっちだ。いいのか悪いのか、まだ読み取れないが、ゆっくりと顔を上げた。


 顔を上げた先の、長男の表情はしかめられたままである。

 でも、どこか困惑している感じにも見えた。



「どうして謝るんだ。お前が謝ることじゃない」


「いえ。でも俺が不甲斐ないばかりに、こんな事態になってしまっているので。自分で解決出来れば、そうしたのですが……まだ入学したばかりで、学園のことを把握しきれていなくて」



 言い訳をしたら怒られるかとも思ったが、勝手に口に出していた。

 長男の様子を見ると、困惑の感情が強くなっている。



「……俺は別にお前に怒っているわけじゃない。躾のなっていない奴らに我慢ならないだけだ」



 大きなため息を吐いて、背もたれに完全に寄りかかった。



「早急に対処する。……早くしないと騒ぎが大きくなりそうだからな」


「申し訳ありません」


「お前のせいじゃない。それに、俺に頼ったのは正解だ。他に頼んでいたら、大変なことになっていただろう」


「大変なこととは?」


「面倒な性格が、この学園には大勢いるだけだ」


「面倒な性格の人……」



 すぐに古城の顔が思い浮かんだ。

 もしも相談相手に選んでいたら、どうなっていただろう。

 面白がって場をかき回すために、新聞部に手を貸していた可能性がある。


 別の人だったらどうだろう。

 三千花は、話してすぐは絶対に大爆笑する。

 そして自分で解決しろと、叱咤してくるだろう。


 山梔子だったら、一緒に悩んで解決方法を考えてくれる。


 次男だったら、そんなことに巻き込まれるなんてと馬鹿にしてきて、きっとそのあとは興味が無くなる。


 高坂は……冷静に対処してくれるか、新聞部に乗り込みそうな気がする。絶対にバレてはいけない。



 やっぱり長男が一番無難な選択だった。

 一人で勝手に納得していると、外の方が突然騒がしくなる。

 俺の聞き間違いでなければ、爆発音のようなものも響いている。



「……バレたな」



 長男はすぐに何か分かったようで、額に手を当ててまた、先ほどよりも大きくため息を吐いた。





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