第56話 初めての友達作り
本当にこれでいいのだろうか。
俺は校舎の中をウロウロとしながら、不審者になっていた。
こちらを見てくる視線を感じるが、誰も話しかけては来ない。
古城の話が真実ならば、俺に出来た親衛隊が原因だ。
誰が隊長なのか、何人いるか知らないが、本人に許可を取る前に好き勝手しすぎである。
いずれは、粛清をしに行く必要がありそうだ。
でも今はその前に、ものすごく重要なミッションが待ち構えている。
そうじゃなければ、こんな風に不審者みたいな格好はしない。
「まだ来ないのか」
情報ではもうそろそろ、この廊下を通るらしいのだが。それらしき人物が見当たらない。
もしかして古城に一杯食わされたか。
基本的な性格は愉快犯だから、それも無くはない。
もしそうだとしたら、ここにいても時間の無駄だ。
また違う方法で探すか。
俺はなんてことない風を装い、その場から立ち去ろうとした。
でも黄色い悲鳴が聞こえてきて、すぐに止まる。こういう悲鳴が上がるのは、人気のある生徒が近づいているという証だ。
目的の人物かもしれない。
俺は期待を胸に、声がする方向へと向かった。
「……いた」
今日は運がいい。
先ほどまで古城に不信感を抱いていたことなんて忘れて、俺は口角を上げた。
昨日古城が教えてくれたのは、とある生徒の情報だった。
「一般の生徒じゃ、相君に近寄ることも出来ない。それなら、同じ立場の生徒と仲良くなればいいと思うよ」
俺と同じような立場。
それは、すでに親衛隊が結成された生徒のことだ。
そして同学年で、該当する人がいた。
スポーツ推薦で入学してきて、その容姿と人柄の良さから、俺には及ばないらしいがすでに親衛隊の数が二桁になっているらしい。
茶髪に茶色の瞳と、どちらかというと地味な部類だが、爽やかなスポーツマンといった感じで容姿は整っている。
これは親衛隊が出来るのも納得だ。
みんなに愛想を振りまきながら近づいてくる姿を、柱の影から観察して、話しかけるタイミングを窺う。
俺と同じ立場だと聞いていたのに、周りには何人かは集まっている。
性格の違いか。
なんだか納得出来なくて、負のオーラを放ってしまう。
でも向こうを嫌っても意味は無い。むしろ友達候補が減るだけだ。
相手にいい印象を抱いてもらうために、俺は笑顔を作って、勇気を出し近づいた。
俺の存在はとても目立っていたから、すぐに気づかれる。
気づいてはいるみたいだが、まさか自分に用があるとは思っていないみたいだ。
道を開けるために脇に寄ってしまったので、それを追いかけて横にずれた。
「……えっと」
目の前に立ち塞がった俺に、困惑した表情になっている。
困らせていると分かったとしても、目的を果たすために動けなかった。
「俺になにか用かな? 君は確か新入生代表だった」
「五十嵐相だ」
「そうそう五十嵐君。俺は」
「知っている。
友達候補なのだから、名前は把握済みである。仲良くなる第一歩だと思ったが、西寺の表情がひきつる。
「そっか。俺のことを知っていてもらえて嬉しいよ。それで用事は?」
すぐにでもこの場から離れたい。西寺からは、そんな気持ちがビシビシと伝わってくる。警戒心むき出しだ。
俺が何を言うか分からず、戸惑って警戒しているのだろう。
西寺が一人だったら、今すぐにでも要件を伝えるのに。周りには、決して少なくない人がいる。
この中では、さすがに言えない。
「えーっと……話したいことがあるから、裏庭に一緒に来てくれないか?」
「へっ」
とりあえず二人きりになろう。
そう考えてはっきり伝えたら、口を大きく開けて固まった。周りの生徒も同じような表情をしている。
集団催眠にでもかかったか。気味の悪い光景に顔がひきつりそうになったが、今がチャンスだと逆に考える。
「着いてきてくれ」
有無を言わさず、俺は西寺の手首を掴んで裏庭へと向かった。
「それで、話というのは何だろう?」
他の生徒を寄せ付けないようにしながら、ようやく裏庭についた。
西寺は大人しく来てくれて、緊張しながらも警戒心は薄くなっている。
その方が友達になってくれる可能性が高いと、俺は深呼吸をした。
「頼みたいことがあって」
「頼みたいこと?」
「ああ」
上手く言葉が出てこない。
視線を右に左に動かしながら、このままではいけないと覚悟を決めた。
「お、れと、友達になって、ほしいっ」
ちゃんと言えた。
あまりにも必死な感じになってしまったが、その方が本気だと伝わるはずだ。
西寺はどう思っているのだろう。
ものすごく不安になって、そっと様子を見ると、また口を開けて固まっていた。
口の中に虫が入りそうだ。注意しようかと思っていると、突然西寺が壊れたように笑いだした。
「ど、どうした?」
何事かと慌てている俺をよそに、にじんだ涙を拭っている西寺の笑いは止まらなかった。
「いや、ごめんっ。覚悟を決めた自分がっ、馬鹿らしくなって。なんか笑いが、止まらないっ」
途切れ途切れに笑っている理由を教えてくれるが、何を覚悟していたのだろう。
どうしたらいいか分からず、西寺の笑いが収まるまで、俺はただ見ていることしか出来なかった。
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