第55話 新しい生活






 桜小路学園での新たな生活が始まり、はや一週間。

 俺は友達が一人も出来ていなかった。


 どうしてだ。

 積極的には作ろうとしていなかったが、それでも全く誰一人として話しかけてくれないとは思わなかった。


 入学式の時から遠巻きにされている気配を感じたけど、新入生代表というのは孤立させられるものなのか。

 それにしては、いつも視線が付きまとっている。これが通過儀礼か。あまりにも陰湿だ。


 今は昼休みのたびに、山梔子のところにお邪魔をして相手してもらっている。

 山梔子にも付き合いがあるだろうから、遠慮しようともしたのだけど、むしろ迎えにくるので甘えていた。


 このままだと、ずっと同い年の友達が出来ない。それはまずい。


 そういうわけで、友達作りを目標に動くことにした。




「……嘘だろ」



 動き始めて数日。



「友達って……どうやって作るんだ?」



 俺は完全に追い詰められていた。


 実と言うと、友達なんて簡単に作れるだろうとタカをくくっていた。

 こちらから話しかけて少し一緒にいれば、自然と友達になるだろうと。


 でもまさか、話しかける時点でつまずくとは思ってもみなかった。

 俺が話しかけようとすると、みんな殺人鬼にでもあったのかというぐらいのスピードで逃げていく。


 誰に話しかけようとしても同じで、大掛かりなドッキリでも仕掛けられているのかと思ったぐらいだ。

 これで確信した。俺は他の生徒から避けられていると。


 誰かの差し金か。もしかして兄のどちらかが。

 とてもありえる話だ。夕食を一緒に食べた時にも、それらしきことを言っていた。

 学園でも影響力もあるだろうから、やろうと思えばすぐにでも出来る。


 でもあれは、夕食の時の冗談だと思っていたのに。本当にやるなんて、何を考えているのか。

 理不尽な仕打ちに、段々と怒りが湧いてきた。





「本当、どう思う。古城お兄様」


「それを僕に聞くんだね」


「一番、学園のことに詳しいと思って。違うか?」



 これは一人で解決出来る問題ではないと、俺は相談相手に古城を選んだ。

 この学園では、職員一人一人に部屋が用意されているので、相談するにはもってこいだった。


 放課後押しかけた俺に文句を言わず、お茶を用意してくれるから、つい警戒心を緩めてしまう。

 最近は不穏な動きをしないから余計にだ。



「こういうのは僕じゃなくて、保健医の三千花先生の方が適任だろう?」



 三千花に相談しようかとも考えたけど、たぶん鼻で笑われて終わりな気がする。

 それよりも古城の方が、表面上でも話をきちんと聞いてくれる。そちらを選ぶのは自然なことだ。



「それで、どう思うんだ。いくらなんでも交友関係に口を出すのは、やりすぎだよな」



 俺はテーブルを叩いて、自分の怒りを伝える。



「俺を孤立させて楽しんでいたりして……」



 いい関係を築けていると思っていたのは俺だけで、こんな嫌がらせをするぐらいに嫌われていた。それは、とても胸が痛くなる。

 怒りよりも悲しさが勝ってきて、どんどん目線が下にずれていく。



「うーん」



 小さく唸る古城の表情は分からない。

 出来れば味方になって欲しいが、古城は長男とも仲がいい。

 そのまま自分の拳を眺めていれば、彼にしては珍しく歯切れ悪く答える。



「たぶんだけど、相君が話しかけても上手くいかないのは、はじめや暁二君達のせいじゃないと思う」


「え」


「二人が何かをしたという話は聞かないし、なんとなく避けられている理由は分かる」


「……俺のせいなのか」



 俺が悪いから、みんな近寄ってくれないのか。



「うーん。なんて説明すればいいのかな」


「……はっきり言ってくれ。別に傷つかない」



 知らないうちに、何か遠ざけるようなことをしてしまった。そして嫌われている。

 さらに胸が痛くなって、服の上から爪を立ててごまかした。



「あー、えっと、誤解しているみたいだから、はっきり言おうか。みんなは相君が格好良すぎて近づけないだけだよ」


「…………はい?」



 何を言っているのだ、この人は。

 俺は本気で頭を疑った。



「その顔は信じていないね。でも絶対に合っているはずだよ。きっと相君には、すでに親衛隊が出来ている」


「俺に、親衛隊?」



 俺が親衛隊に入るのではなくてか。生徒会の親衛隊に入るかどうか迷っていたのだが、俺の親衛隊なんて全く信じられない。



「当たり前だろう。新入生代表という能力の高さに、その容姿、今年最速で結成されたって聞いたよ」


「親衛隊が」



 いまだに信じられないけど、古城がそう言うのならばありえるのか。



「親衛隊も出来て、完璧な相君に話しかけられる猛者は今のところ現れていないみたいだね。たとえ話しかけられたとしても、その背後にいる親衛隊が怖くて逃げているって感じかな」


「それじゃあ、俺はどうすればいいんだ」



 向こうから話しかけられる可能性がなくて、こちらから話しかけたとしても逃げられる。

 そんな状態で誰かと仲良くするなんて、到底無理な話だ。

 もう何の希望も無くてうなだれていると、頭の上に手が置かれた。



「あんまりアドバイスしたくないけど、相君が可哀そうだから……俺を信じて出来る?」



 古城を信じる。

 どうしようか迷ったけど、自分では解決策が見つからないから、結局話を聞くことにした。





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