三年後
第51話 ゲーム開始まで
あれから三年ほどの月日が経ち、ゲーム開始まで残り一年になった。
そして俺は今日、桜小路学園に入学する。
白を基調とした制服は、汚れが目立ちそうで気を遣う。見ている分には綺麗だが、実際に着るとなると面倒なことの方が多い。
これを三年間着ると考えたら、少しだけ気分が下がった。着るなら、普通の制服がいい。
あれから生活習慣と筋トレをきちんとやっていたおかげで、身長と筋肉が理想に近づいていた。
百七十センチに体脂肪率十パーセント以下を維持していて、細マッチョと呼べる体形になっている。
俺の目標は、誰しもがマッチョと呼べるぐらいだから、これからも頑張っている必要があった。
この学園に通うことに決めてから、今日に来るまでネガティブなことは考えないようにしていた。
考えてしまえば逃げ出したくなると思った。
でも昨日はさすがに、不安でよく眠れなかった。
少し眠い。いや、かなり眠いかもしれない。
でもあくびをしたら他の生徒に見られてしまう。印象は大事だし、なんとか口の中で嚙み殺す。
この三年の間に、俺のわがままという噂は無くなっていた。
たくさんの人と関わるようになり、いつも通りにふるまっていれば自然とそういうことを言われなくなった。
まあ、陰ではどう言われているかは分からないけど。
ゲームのシナリオ関係なく自分の思うままに行動していたが、本当にこれで良かったのかと考える時が何度もあった。
特に今、それを強く感じている。
「ねえねえ、相君。制服すごく似合っているね。格好いい」
「ああ、ありがとう。月ケ瀬は来年、楽しみだな」
「うん!」
「……俺は?」
「去年から思っていたけど、秀平も似合っている。格好いい」
「ん」
どうしてこうなった。
左に月ケ瀬、右隣に山梔子。
両手に花と冗談を考えてみたが、全く笑えなかった。
同級生の知り合いを作るつもりだったのに、気がつけばこの三人で行動することが多くなった。
月ヶ瀬も山梔子も、少し目を離すだけでトラブルを引き起こしそうな危うさがあったせいだ。
最初は一人一人と会っていたけど、途中で面倒になっていつの間にか一緒に過ごすようになった。父達も会っていることはしっていたが、何も言わなかったので好きにさせてもらった。
二人とも敵意むき出しの状態から、なんとか必要最低限の会話をさせられるようになったのは自分でもよくやったと褒めたい。
まあ結局、俺が間にいなかったら壊れる関係なので、そこまで褒められるものでもないか。
今日は俺だけの入学式で、二人は違うのだが家まで迎えに来たから、こうして一緒に会場に向かっている。
在校生も俺と同じ新入生も、俺達の組み合わせが気になって視線を向けてきていた。
山梔子は順調に成長して、見上げるぐらいの大きさになっていた。
たぶんもう百九十センチ近くなったはずだ。羨ましい限りである。無いものねだりになっているが、俺はここまでは伸びないだろうから、思うだけでも許してほしい。
月ケ瀬は主人公だからか、身長は伸び悩んでいるようだ。
俺よりも大きくなりたいといって牛乳を飲んで体調を壊していた時は、山梔子と一緒に止めた。
その後は高坂おすすめの食事メニューを教えて、今も継続しているらしい。
毎日のようにはかって報告してくれるが、これ以上の成長は難しいかもしれない。本人には絶対に言えないけど。
二人とも、随分と立派になって。
まるで親戚のような気持になって、感慨深い。
これでいいのかとは何度も思ったけど、こうして一緒にいる時間は決して嫌なものではなかった。
「あーあ、どうして僕は相君と同い年じゃないんだろう。そうすれば、一緒に授業を受けたり、ご飯を食べたり、寮だって同じ部屋になれたかもしれないのに。……いや、待って。今からでも詐称をすれば」
「待て待て。変なことを考えるな。あと一年の辛抱だから、ちゃんと正規で入学しような」
「ぶー」
「そうだ。俺だって何度留年しようかと考えていたけど、ちゃんと我慢したんだからな」
「もう、絶対にそんなことは考えないでくれよ。心臓に悪いから」
「分かっている」
それぞれ一つずつ俺と学年が違うことが本気で嫌なようで、少しでも俺が別のことにかまけて構わないと、変なことを考え出すから苦労した。
隙あらば飛び級と留年を狙っていて、何度も説得させられた。
今日を迎えるまでに、片手じゃ数え切れないほどだったから、生半可な気持ちではなかっただろう。でもさすがに、そこまでの改変は何が起こるか分からないので、俺の方も必死に止めた。
「それにしても、相君は本当にその制服似合っているよね、王子様みたい」
「それはないだろ。どちらかというと悪役みたいだ」
実際に悪役だし。
元いた世界では黒髪黒目は普通だけど、この世界だとどちらかというと暗い色だ。
顔も昔の可愛かった頃と比べて、目つきが悪くなってしまった気がする。
怖がられることはありえるから、王子様という言葉は全く似合わない。
謙遜ではなく本心で言ったのに、二人からは微妙な表情を向けられた。
「相君って、そういうところ鈍感だよね」
「確かに」
「まあ、勘違いしてくれている方が余計な心配しなくてもいいかあ」
「確かに」
二人だけで納得しているようだけど、俺に関することならきちんと教えてほしい。
そう思ったのに、誤魔化すように笑うだけで、結局説明してくれなかった。
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