第50話 主人公とラスボスの出会い






「相君と……この子は誰かな」



 古城は月ヶ瀬を見ながら、俺に尋ねてくる。

 まさかこんな形で会うはめになるとは、こうなることも予想出来ていたのだから、どうにか帰しておくべきだった。


 舌打ちをしたい気分だったが、たくさんの目があるので抑えた。



「相お坊ちゃま申し訳ありません。入ることは出来ないとお伝えしたのですが」


「謝らなくていい。高坂はよくやってくれた」



 高坂よりも、今回は古城が一枚上手だっただけだ。

 深く頭を下げているから大丈夫だという意味を込めて手を軽く振った。



「今日は客人が来ているので、それにお約束していなかったでしょう。だから会うのは別の日にしてもらうつもりだったんです」


「そうなんだ。避けられているかと思った」


「そんなことないです」



 避けていたというよりは、月ヶ瀬と会わせたくなかっただけだ。

 でも本当のことは言えず、俺は古城の視線から隠そうと体を動かす。

 そんな俺の動きを目で追いながら、一瞬だけ眉間にしわが寄るのが見えた。



「それで、その子の紹介はいつしてもらえるのかな?」



 やっぱり見逃してはもらえないか。

 ごまかすのも無理そうだと、月ヶ瀬の姿が見えるように横にずれた。



「こちらは月ヶ瀬。俺の友達です。えっと、こちらは古城お、兄様……友達ですかね?」



 古城の呼び方と紹介が難しくて、途切れてしまったがなんとか最後まで言いきった。



「月ヶ瀬、愛です。よろしくお願いします」


「相君と同じ名前なんだね。僕は古城空亜。よろしく」



 握手をする二人を、微妙な気持ちで眺める。

 仲良くなってしまうのだろうか。古城は、月ヶ瀬のことをターゲットして定めてしまったのだろうか。

 怖い。けど怖がっている場合じゃないのも分かっている。



「古城お兄様、見ての通り俺は月ヶ瀬と話があるので、また日を改めて来てもらえないでしょうか」



 紹介は終わったのだから、これ以上関係性を作られる前に引き離さなくては。

 俺はまた二人の間に入るようにして、古城に帰るようにはっきりと伝える。

 視線で高坂に合図を送れば、すぐに察してくれた。



「古城様、私がお見送りを」


「もし良かったら、僕もお茶会に参加させてくれないかな?」



 はい?

 一体何を言い出したんだ、この人は。

 俺は驚いて顔を見たが、冗談を言っているようではない。そっちの方が困る。



「えっと、古城お兄様。ちょっとそれは」


「駄目かな。相君の友達と話をしてみたかったんだけど、迷惑だって言うのなら」



 よく使ってくる手だが、こちらが断りづらい状況に持っていくのが本当に上手い。

 ここで断ったら、月ヶ瀬の俺に対する評価が下がる可能性がある。古城も同様だ。

 出来る限りは好感度を下げたくない。そうなると、古城を受け入れるしかないのか。


 古城がこの屋敷に来た時点で、すでに俺は負けていたのだ。

 もうとにかく、後は仲良くならないように邪魔をしよう。


 覚悟を決めて招き入れようとしたのだが、そんな俺の前に人が入ってきた。



「月ヶ瀬?」



 後ろ姿だから、どんな表情を浮かべているのか俺からは見えない。

 でもなんとなく、友好的なものでは無いと感じた。



「だめです」



 古城を見上げながら、月ヶ瀬ははっきりとそう言った。

 まさか断るとは思っておらず、俺は固まってしまう。



「今日は僕と相君がお話するんです。二人きりがいいから、諦めてください」



 月ヶ瀬なら、みんなで仲良く話をしようと言うかと思った。

 でも完全に反対のことを言っている。

 なにかあったのか、聞きたいが今は邪魔出来ない。


 断られた古城は、月ヶ瀬を無表情で上から下まで眺めた。

 品定めをする視線に、俺がやられているわけでもないのに寒気がする。



「そうかあ、邪魔してごめんね。今日のところは帰るよ」



 もしかしてキレるのか。

 そう心配していたが、古城はパッと笑顔になって、あっさりと諦めた。



「確かに、急に来た僕が悪かったね。それじゃあ相君。また会いに来るよ」


「あ、はい。大したお構いも出来ずにすみません」


「いいよいいよ。それじゃあ、月ヶ瀬君もまたどこかで会えたら、その時はよろしくね」



 あんなに頑なだったからこそ、急な心境の変化についていけない。

 それでも月ヶ瀬に対して、またという言葉を使ったから油断はできないことだけは確かだ。


 帰っていく古城と、その後ろからついていく高坂を見送りながら、一気に疲れが体にのしかかる。

 良かった、とは言えない。

 古城と月ヶ瀬は出会ってしまった。しかも、本来よりもずっとずっと早く。


 これがどんな影響を及ぼすのか、とても恐ろしいところだ。

 知らず知らずのうちにため息をついていると、強く手を握りしめられる。



「あ、ごめん。色々と驚かせて」



 とにかく、まずは月ヶ瀬に謝らないと。

 そう思って謝罪したのだが、俺の答えは違っていたらしい。

 口をへの字に曲げて、そして握る力が強くなった。



「月ヶ瀬?」


「僕が守るから!」


「へ?」



 突然の守る宣言。

 俺は意味が分からなかったが、言って満足した月ヶ瀬はすでに自分の世界に入ってしまっていた。



「どんな人からも、相君のことを守らなきゃ。そのためには、もっともっと強くなろう」



 どういうことか不明だが、強くなりたいというのは同意だ。

 もっと強くなろう。

 俺は俺で、そう決意した。






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