第49話 予想外の
「すき、だよ」
どうしてか、声が上手く出せなかった。
途切れた変な言い方になってしまって、もう一度言い直そうとする。
でもその前に、月ヶ瀬が飛びこんできた。
「うれしい!」
どうやら嬉しさから、俺に抱きついてきたらしい。感情を素直にだせるところは、自分には出来ないことだから尊敬する
「これからも相君と会いたいな!」
「まあ、出来る限りなら」
父達にバレないように呼び出すのも苦労するし、俺が遊びに行くのも難しい。
頻度は高くないが、それで満足してくれなさそうだ。
「連絡先を交換しましょう」
会うのは難しいけど、連絡を内緒で取り合うことなら出来る。
テレビ電話だってあるから、満足感はあるはずだ。
「相君がそう言うのなら。でもいつでもいいから会ってくれる?」
「タイミングが合えば」
「それでもいいよ」
出来れば社交辞令にしたいところだけど、月ヶ瀬の危うさから考えると、会う機会は必ず作る必要がありそうだ。
「連絡先教えて」
「分かった」
この前使ったメモ帳を取りだし、連絡先を書いていると誰かがこちらに向かってくる気配を感じた。
俺の部屋にまっすぐに来るようだ。もしかして、月ヶ瀬がここにいることがバレたか。
父なら知った途端、この部屋に来るだろう。
また叩かれるかもしれないと、俺は身構えた。
扉の前にいるはずの高坂が、上手くごまかしてくれれば一番良いのだが。
「ごめん、少しだけ静かに」
「わかった」
俺が外に集中しているのを分かってくれて、月ヶ瀬は口を押さえて静かにしてくれる。
そのまま外の様子を窺っていると、話し声が聞こえてきた。
内容までは聞き取れないが、片方は高坂の声で、もう片方は父では無さそうだ。兄達とも違う気がする。
それなら誰だ。
扉の方に近づくと、後ろから月ヶ瀬もついてきた。
その顔は好奇心が抑えきれないといった感じで、この状況にわくわくしているようだ。
俺と目が合うと、口元に立てた人差し指を当てて笑う。
「……しー、でしょ?」
聞き分けはいいが、もし中に入ってきたら月ヶ瀬の存在は隠さないといけない。
もしもの時は、どこに隠れてもらおうか。
すぐに思いつくのはクローゼットだが、まっさきに探されてしまいそうだ。
バルコニーも、外から他の誰かに見られる可能性があるから除外する。
やはり中に入れないのが、一番の解決方法だろう。
頑張れ高坂。
扉の前で応対している高坂に、エールを送る。
俺が出て行ってもいいのだが、その時に無理やり中に入られてしまえばおしまいだ。
この部屋の中には誰もいないと思って、諦めてもらいたい。
未だに話し声が聞こえてきて、高坂にしては手こずっている。
もしかして、なんとなく外にいる人の予想がついてしまった。
これは、絶対に中にはいれられない。
誰だか分かったことで、警戒度が上がった。
来るなんて連絡はなかったし、いつもの間隔よりも今日は早い。
まるで月ヶ瀬が来ることがバレていて、嫌がらせをされているみたいだ。
それがありえるからタチが悪い。
「誰が来たの?」
「俺のお客さんみたい。でも月ヶ瀬を優先したいから、今日は帰ってもらおうと思う」
興味を持たれて会いたいと言われたら大変だから、月ヶ瀬には誰が来たのかを言わない。
たぶん名前を言っても分からないだろうけど、念には念を込めてだ。
「そっか。僕を優先してくれるんだ」
俺の言葉に喜んだ月ヶ瀬が、体をくっつけるように近寄ってくる。
その方が小声で話しやすいけど、かなり近い気がする。
もはや抱きつかれていると言っても過言じゃないぐらいの距離感に、これは別の意味でも見られるわけにいかなくなった。
「僕ね。相君と会った時から、ずっと思っていたんだ」
「うん」
外の様子を確認しつつだと、月ヶ瀬の話に完全に集中出来なかった。それでも外の警戒を緩められないから、申し訳ないが話半分に聞く。
「お父さんからずっと聞いてた。好きな人は最初からキラキラ輝いて見えるんだって」
「へー」
「お父さんもそうだったから、僕もキラキラって見えるの楽しみにしてたんだ」
「そうか」
「だから本当にキラキラしててびっくりした」
「それは良かったな」
外が騒がしくなった。
高坂の声が大きい。冷静沈着の彼にしては珍しい。
そっちに集中していたせいで、ほとんど月ヶ瀬の話を理解せずに相槌だけ打っていた。
「うん、良かった。キラキラしている人は、人生で一人しか現れないかもしれないから、お父さんは大事にしなよって言ってた。だから大事にするよ、相君のこと」
「うん」
「ははっ!」
小さな声で話していたはずなのに、急に大きな声で笑いだしたから、意識を月ヶ瀬に戻した。
扉に近いということは、この声は絶対に外まで漏れている。
注意するよりも口を塞いだ方が早いかと、手を伸ばした俺の後ろで扉が開く音が聞こえた。
「やっぱりいるじゃないですか。相君」
高坂の制止を振り切って、中へと入ってきた古城は俺達を見下ろしながら口角を上げた。
その視線は、俺よりも月ヶ瀬に強く向いているようだった。
止めようとしていたのに、とうとう出会ってしまった、俺は二人の顔を交互に見ながらと絶望に似たものを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます