第47話 主人公との再会と






 次男とは、あれから話をしていない。

 夕食の場でも視線すら合わなくて、父と長男はそれに気づいているようだけど、とりあえずは関与せずに見守ることに決めたようだ。


 俺もお互い頭を冷やした方がいいと思っているので、自分から話しかける気は無い。



 古城と天王寺に素っ気なくするのと、山梔子の心のケアと、三千歌との情報交換をするという目標がある。

 でも俺は今日、別のことをしようとしている。

 もし父達にバレたら、怒られるだけじゃ済まされないだろう。


 今度こそ勘当されてしまう可能性もあった。

 そうだとしても、俺は止める気は無かった。



「高坂は席を外してくれていいんだぞ。もしバレた時に、全く知らなかったで通せる」


「いえ。不測の事態が起こった時のためにも、ここにいさせてください」


「怒られても知らないからな」


「相お坊ちゃまに引き離される方が、私にとっては辛いので構いません」



 どうして、こんなに俺大好きになったのか。

 命令だったら命を落とすのも厭わないんじゃないかというぐらいで、その忠誠心が恐ろしくもあった。



「まあ、手を回してもらっている時点で、もう手遅れか」



 俺一人では呼び出すどころか、連絡をとることさえも難しかっただろう。

 どういうツテを使ったかは教えてくれないが、高坂に出来ないことはない気がする。


 しばらく会うことは無いと考えていた。

 でも、逃げてばかりでは駄目だと考え直した。



「喜んでくれるかな」



 おもてなしの準備は、今まで以上に気を遣った。

 完璧だと思うのだけど、確認すればするほど心配になってくる。



「絶対に喜んでいただけますよ」



 高坂の言う通り喜んではくれるだろうけど、それだけでは足りない。

 だから大丈夫だとは分かっていても、何度も確認してしまうのだ。



「そろそろお時間ですね。お出迎えに行ってまいります」


「よろしく」



 約束の時間、十分前。

 他の人にバレないように、高坂が出迎えに行ってくれる。

 一人残された俺は、テーブルに肘をつき窓の外を眺める。


 こうやって交流を広げていくのは、正解なのだろうか。全く分からない。

 でも一人で戦うと決めていた頃と比べれば、寂しさや辛さが少なくなっている。

 もっと関わりを増やしていけば、安心出来るかもしれない。


 そこでふと次男の顔を思い出して、慌てて頭を振りながら姿勢を正した。

 余計なことを考えるのは止めておこう。


 それよりも重要なのは、



「相お坊ちゃま、お客様をお連れ致しました」


「入ってくれ」


「失礼いたします」



 高坂と共に入ってきた姿は、この前見た時と変わっている様子はない。

 少し緊張しているようで、動きがぎこちなかった。



「お、ひさしぶりです。……相、君」


「お久しぶりです。……月ヶ瀬」



 愛、と名前では呼べなかった。

 まるで自分が偽物だと、突きつけられるような気持ちになるから。別に月ヶ瀬のせいでははない。

 でも勘違いさせてしまったようで、悲しげに目をふせる。



「きょ、今日はおまねきいただき、ありがとうございます。これ、よろしかったら、どうぞ」



 ぎこちないまま手渡されたのは、有名店のロゴが入っている紙袋だった。

 こういう気遣いをするのは親だが、なかなか趣味がいい。



「お気遣いいただき、ありがとうございます。開けてもいいですか?」


「はい!」



 この前のような気楽さがなくなって寂しいが、今すぐには直らないだろう。

 さっそく紙袋の中を見てみると、美味しそうなプリンが箱に入っていた。



「とても美味しそうですね。高坂、こちらも一緒に用意して」


「かしこまりました」



 俺の方でもデザートは用意していたが、こちらを先に食べるべきだ。

 高坂に頼んでテーブルに置いてもらうと、所在なさげに立っている月ヶ瀬に座るように促した。



「お元気にしていましたか?」


「は、はい。相君は?」


「元気でしたよ。この間は、お見苦しいところを申し訳ありませんでした」


「え。い、いや、そんな」



 月ヶ瀬には、父に思いきり叩かれたところを見られて、そして今まで連絡すらとっていなかった。

 あんな場面を見せられて、どう思ったのか気になるところだ。



「あの。大丈夫でしたか? ほっぺ」


「ああ、別にそこまで大きな怪我では無かったので。あんなふうな別れ方になってしまったから、気になるのも仕方ないですよね」


「えっと……はい」



 あそこまで勢いよく人が叩かれるところなんて、普通は見ることも少ない。

 驚かせてしまった申し訳なさに、もっと早めにフォローするべきだったと反省する。



「月ヶ瀬は、あの後無事に帰れましたか?」


「僕達は平気です。でも……」



 月ヶ瀬の立場からすれば、たまに会っていた人達が怒る姿を初めて見たのだ。

 父や兄は、月ヶ瀬に対しては優しく接していただろうし、その変化についていけないのも分かる。

 どちらが本当の姿なのかと、混乱しているのだろう。



「月ヶ瀬がどこまで説明されたのか知りませんが、あの人達は俺の家族です」


「でも、それなら、なんで」


「俺が怒られるようなことをしてしまったせいです。……月ヶ瀬は、あの人達と何回ぐらい会ったことがありますか?」



 ここまで聞く気はなかったけど、俺はいつの間にか質問していた。

 傷つくと分かっていたのにである。




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