第41話 三千歌の考え
「それは恋じゃないの?」
「違う。高坂とはそんな関係じゃない」
「へー、そうなの。話を聞く限りでは、一番いい相手だと思ったのに。残念。私が狙っちゃおうかしら」
「駄目だ」
「そう言っておいて嫉妬じゃないなら、他になにがあるのよ」
「俺の執事」
呆れたような顔をしている三千歌は、用意しておいたケーキを小さく分けて食べる。
「ん、美味しい。これ、ここのシェフが作ったの?腕がいいわね」
「ありがとう。本人に伝えておく」
昨日の夕食を残してしまったから、喜ぶようなことを伝えておきたい。
「それにしても会わないうちに、随分と面白いことになっているじゃない。あのパーティー、私も招待してもらっていたけど用事があって行けなかったのよね。でもそんなに面白いことになっていたのなら、無理にでも行けば良かったかしら」
「絶対楽しんでいるだろ」
「当たり前じゃない。結局他人事だもの」
冷たく突き放しているように見えて、実は心配してくれていたのを知っている。
そうじゃなきゃ、急遽決まったお茶会に二つ返事で参加してくれたり、来てすぐに俺に怪我が無いか確認したりしないだろう。
今日は三千歌だけを招待していて、高坂には頼みこんで席を外してもらっている。
「でも結婚する気があるなんて驚きだわ」
「そんな積極的にするつもりは無いけど、これから先も生きていくとしたら、いつかはすることになるかもしれないとは思う」
「現実的なのね。候補はもう決めているかしら」
「だから積極的にするつもりはないって。もしそういう人が見つかって、結婚したいと思ったらする。でもそれは、まず前提として生きている必要があるだろう」
「結構、生存率上がっていると思うけど。候補を続々増やすつもりなら止めないけど」
ため息を吐いた三千歌は、ケーキをフォークで突き刺した。
「この世界は恋愛ゲームなんでしょ。それなら、あなたがたくさんの人に好かれる未来もあるんじゃないの」
「それはない。この世界は全て主人公のためにあるから、好かれるのは主人公だけなんだ。誰もがみんな好きになる。それは変えられない」
「へー、そう」
「興味無さそうだな」
「実際、興味無いもの。だって、その中には私も含まれているんでしょう」
先程よりも大きく切り分けたケーキを、勢いよく口に入れる。
そしてそれを飲み込むと、テーブルを軽く叩いた。
「私の気持ちを勝手に決められるなんて、ものすごく不愉快だわ。だってあなたは、こうしてお友達になったのに、主人公に会ったら私がそっちに行くと思っているのでしょう」
「……あ」
そうだ。
三千歌もこのゲームの登場人物だ。
そして前に話した時に、月ヶ瀬に好意を抱くキャラだったとも話している。
俺はそれが絶対に起こる未来だと決めつけて、三千歌の気持ちを完全に無視していた。
なんて酷いことをしていたのか。
「……悪い」
「良いわ。あなたの状況を考えれば、人を簡単に信じられないのも分かるもの。でも、私の気持ちを二度と勝手に決めないで。もし次やったら、その時は……」
「その時は?」
「うふふ。やらなきゃいいのよ」
くすくすと笑う三千歌は、とてつもなく恐ろしかった。その顔を見て、絶対にやらないと心に誓う。
「私はあなたの味方よ。そして弱味を見せられる唯一の相手。もしもゲームと同じ展開が起こっても、あなただけは助けると約束するわ」
「……ありがとう」
「お礼を言うのは、こっちの方よ。私を選んでくれてありがとう」
カップを片手に首を傾げる姿は、とても綺麗だった。
あの時、三千歌を選んだのは運命だったのだ。俺はとても幸運な人間だ。
「俺、三千歌と結婚したら幸せになれる気がする」
「私は嫌よ。あなたと結婚したら、心配事で夜も眠れなくなりそうだわ」
俺のことも知っているから、いいパートナーになってくれると思ったのに、考える間もなく即答で拒否されてしまった。
「あなたにはもっと、大きな優しい愛で包み込んでくれるような、そんな人がお似合いよ。私のおすすめは、あの執事ね」
「どうして、そんなに俺と高坂をくっつけようとするんだ」
「だって、私以外に心を許せる相手なんでしょ。しかも初めての味方。年の差なんて関係なく、応援したくなるってものよ」
「完全に他人事だな」
「恋バナって良いわよね。一度やってみたかったのよ。あなただと話題に事欠かなさそうだわ」
「楽しむな。……話の対象に高坂を入れないのなら、まだ我慢して付き合うけど」
「えー。一番の推しなのに」
まあ確かに三千歌とは、恋人よりも親友という関係性の方がいいのかもしれない。
「もしも俺が結婚する時は、友人代表のスピーチを頼む」
「分かっているわ。ちゃんと生まれた子供に、みちちゃんと呼ばせる準備も出来ているから」
「いくらなんでも気が早すぎる」
でもそれは、とても幸せな結末なのだろう。
一つ新たな未来の可能性が出来て、俺はこの世界での生きる希望がまた増えた。
「ありがとうな」
「いいのよ。だって私達、親友じゃない」
くだらないことを言って二人で笑い合えば、自分が最強になったような気がした。
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