第34話 兄達のプレゼントと嫉妬
攻略対象に会っておきたかったが、その前に先に行かなきゃいけないところがあった。
先ほどからこちらを見てくる視線の中で、一番と言っていいぐらい強いもの。
「はじめお兄様、暁二お兄様」
俺は父に下ろしてもらうと、視線を向けてくる二人の元に行った。
こちらを強い視線で見てきていたくせに、近づくと戸惑った顔をされた。
どうせ勝手に気まずくなっているのだろう。
「お兄様達は、今日のことを知っていたんですか?」
「あ、ああ」
長男が俺をじっと見たまま固まっている。その姿は、まるで父のようだった。
この人も、綺麗だとか言い出さないよな。
「誕生日パーティーは初めてだから、とても嬉しいです」
ヒラヒラの服には慣れてきて、俺は袖で口元を隠しながら笑った。
「そろそろ同世代の友達を作った方がいいというのは、賛成だったからな。プレゼントは後で用意したものを渡す」
「ぷ!? 家じゃないですよね?」
「家?」
父からのプレゼントのことは忘れたかったけど、まさか個別で用意しているとは思わなかった。
本気でもう家は止めてほしいと思って聞くと、戸惑った表情になる。
良かった。この反応は家じゃないみたいだ。
「家は父さんが用意してくれただろう? 別で用意してある。土地の権利書だ」
「とっ!?」
「上に何かを建ててもいいし、好きに使ってくれ。必要なら、その分の資金は出す」
「は、はははは」
もう笑うしかない。
それでも、一縷の望みをかけて次男の方を見た。
父や長男は駄目だったけど、次男なら可愛らしいプレゼントにしてくれているはずだ。
近づいてからずっと顔をそむけているが、俺のその強い望みが通じたようで、こちらをようやく見てくれる。
頼む。可愛らしくて、予算千円以内で収まるものにしてほしい。
期待の眼差しを向けていると、次男は顔を真っ赤にさせて何かを突き出してきた。
書類の束に嫌なものしか感じない。
「えーっと、これは?」
ただの紙切れであってくれ。
内心で冷や汗をかく俺の心を知ってか知らずか、次男は顔を赤くさせたまま早口で言う。
「この前発見された星の、権利と名付けをするために必要なら書類だ。別にお前のためにわざわざ用意したわけじゃなくて、たまたまタイミングよく手元にあったんだ。それだけだからな」
ごまかしているつもりしれないが、表情を含めて全くごまかしきれていない。
星って。
規模が宇宙まで飛んでしまった。
これは現実か?
俺は考えるのを放棄して、ありがたく受け取ることにした。
「ありがとうございます!」
書類を胸に抱きしめて笑う。
星に名前を付けるなんて、人生でめったにない経験だ。
どんな名前をつけようかと考えていると、長男といつの間にか近くにいた父が険しい表情を浮かべた。
「どうしましたか?」
「……高坂。星の権利、いや惑星の権利を今すぐ買い取ってこい」
「はっ!?」
急にどうした。何を言い出したんだ。
俺は下がろうとする高坂を止めて、父と長男を見た。
惑星の権利なんて。どうしたのかと思ったが、思い当たる理由はあった。
全く、子供か。
予想が当たっているとするのならば、なんともまあ呆れてしまう理由である。
おかしな言動を止める方法は一つ。
俺は書類を高坂に預けると、片手で父と長男の手を握った。
「お父様とはじめお兄様のプレゼントも、とーっても嬉しいです」
たぶん、次男のプレゼントを大げさに喜んだから嫉妬している。
だから二人にも感謝を伝えた。
これ以上プレゼントをもらっても、絶対に手に負えない。
それを回避するために、俺の精一杯の愛想を振りまいた。
そうすれば二人の顔が緩んだように見えた。
「他の方にも挨拶しようと思うので、終わったらまたお話ししましょうね」
「ああ」
よしよし。
これでプレゼントのことは、頭から消えたはずだ。
一礼して俺は、会場の一段高いところまで行く。そして全員に顔が見えるような位置に立った。
すぐに高坂がマイクを差し出してきてくれたから、それをありがたく受け取ってスイッチを入れる。
『あ、あー。みなさん、大変お待たせ致しまして申し訳ありません。本日は俺のためにパーティーに来ていただき、誠にありがとうございます。初めて会う方も多いですが、楽しんでいただければ幸いです』
挨拶はこれぐらいでいいか。
俺は会場を口元に笑みを浮かべながら見渡し、そして乾杯の合図をした。
まだ未成年だから、ノンアルコールのシャンパンだ。でも喉元を通る炭酸が心地いい。
これから、来てくれた客人の一人一人に挨拶をしていく。そのために喉を潤しておきたかった。
さて、まずは誰から話をしようか。
全員に挨拶をする必要があるから、長く話をしたい人は最後の方にした方がいいかもしれない。
それなら、あまり話をしたくない人を先にしよう。
「古城お兄様こんにちは。今日は来ていただき、ありがとうございます」
今は人の目がある。だから素は隠して話しかけた。
「相君。今日はお招きいただきありがとう。その服とても似合っているよ」
「本当ですか? いつもは着ない服だから不安だったんです。でも古城お兄様が褒めてくれたから大丈夫ですね。ふふ。それじゃあ楽しんでください」
これで話は終わりにして、違う人のところに行こう。
俺は流れのままに、その場から離れようとした。
でも古城が、そう簡単に許してくれるわけがなかった。
「まあまあ。もう少し話をしよう」
そう言われたら逃げることが出来ず、古城の相手を続けることになった。
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