第32話 誕生日パーティー?




 とうとう誕生日当日になってしまった。

 最後まで俺には、直接何も言ってこなくて、そのくせスケジュールは押さえられていた。


 どことなくそわそわとしている周りの様子に気づかないふりをして、俺は高坂にプレゼントの偵察をしてもらった。

 でも敵もなかなかで、俺達が繋がっている可能性があると、誰もはっきりとしたことを言わなかったらしい。



「私の力不足で申し訳ありません」



 なんの情報も得られなくて落ち込んでいたが、頑張ってくれていたのは知っていたから責めたりはしなかった。



「……家じゃなきゃ、それでいいよ」



 権利書なんて渡されたら、その場で破いてしまいそうだから絶対に止めてほしい。

 切実な願いを口にすれば、高坂は何も言わなかった。

 それは俺の言葉がありえないと呆れているのか、それがありえるから口にしないのか分からなかった。後者じゃないことを本気で願う。



「相お坊ちゃま、そろそろ準備をなさった方が」


「ああ、分かっている」



 別館の自分の部屋から出られないけど、外の騒がしさは感じ取れた。

 知っているから不思議に思わないけど、何も知らない状態だったら、変なことを企んでいると疑っていただろう。



「突然準備しろって言うのも変だよな。普通は、もっと上手く出来たんじゃないのか」


「そこら辺は、いい方法が思いつかなかったのかもしれませんね」


「あの三人が集まって、思いつかないなんてありえるのか」


「相お坊ちゃまに関することならば、それもありえるのかもしれませんね」



 そんなものか。

 やったことはないけどサプライズというのは、随分と大変みたいだ。

 本人にバレないようにというのも、規模が大きくなれば大きくなるほど難しくなるだろう。


 今回の場合は俺が知ってしまったから、新鮮に驚けるかどうか頑張りどころだ。

 反応が薄いと、仕掛けた方も残念な気持ちになるし、周りも気を遣う結果になる。


 そう思って驚く練習もしてみたけど、高坂にそっと首を振られた。俺の演技力はあまりどころか、全くないのかもしれない。



「高坂も一緒にいてくれるんだろう」


「出来る限りはお傍にいますが、命令されてしまえば離れる時もあるかもしれません。私がずっと傍にいるのを、嫌がる可能性もあります」


「ピンチの時は駆けつけてくれればいいよ。いてくれれば心強いけど、俺だって一人でも頑張れるから」


「緊急の場合以外は、お傍を離れません」


「どうした急に。無理しなくていいからな」



 急にやる気になった高坂は、いつもより何倍も早いスピードで支度が終わった。






 なんかヒラヒラしている。

 俺は腕を持ち上げたり下げたり、何回もその場で回転したりして、着慣れない服の具合を確認した。


 こういう服を着ている人は見たことある。

 確かに今の俺だったら、こんなヒラヒラしたレースやフリルをふんだんに使った服も似合うかもしれない。

 でも言いたくはないけど、まるで女の子が着る洋服みたいに思える。


 高坂はとても似合うと言ってくれた。俺の容姿なら似合うのは分かっていても、なんだか恥ずかしさの方が勝った。



「なんかなあ」



 主役って感じが強すぎる。

 青を基調としているから、まだいいと思おう。

 高坂は本館の方に俺の準備が出来たと伝えに行って、部屋で一人待っている状況だ。


 あと少ししたら戻ってきて、俺は何も知らないふりをして会場に行く。

 顔が勝手に表情を出しそうだから、意識して引き締める必要がある。



 正直に言うと、いまだに純粋にパーティーを開いてもらえるのか信じられない気持ちがどこかにあった。

 ネガティブがしつこいけど、ずっとそういう待遇だったのだ。素直に信じられない。



 それに、俺はあのお墓参り事件以外で、この家の敷地から一歩も出たことがなかった。古城と三千歌以外、外の人間とも関わりがない。

 だから、どういうふうに思われているのか、最新の情報を知ることが出来ていないのだ。

 高坂に尋ねても気を遣ってくれているようで、詳しくは教えてくれなかった。



「これで何時間いなきゃいけないのかな」



 着慣れない服で、知らない人達に囲まれて、終わるまで長い時間、愛想良く対応しなきゃいけない。

 この家で頑張ると決めたから、立場を悪くさせるような言動や、隙を見せられなかった。



「やっぱり、高坂にはずっと傍にいてもらおう」



 一人で決意をしていると、部屋の扉がノックされる。

 高坂が戻ってきたのかと思い、すぐに入室の許可を出す。



「失礼する」


「お、父様?」



 完全に油断していた俺は、驚いて目を見開く。


 入ってきたのは父だった。

 夕食は一度食べているが、二人きりになるのは久しぶりだ。


 お互いに緊張していて視線が合わない。

 たぶん俺を迎えに来たのだろうけど、どうしたらいいのかと慣れていなくて戸惑っているのだろう。

 俺も突然のことに頭が真っ白になってしまって、同じように固まった。


 数分ぐらいその状態になっていたが、それは駄目だと話しかけた。



「お父様? えっと、何をしに来られたんですか?」



 そんなに小さい声じゃなかったはずなのに、聞こえなかったのか固まったままだ。

 これじゃ埒が明かないと、俺は父の元に近づいた。近づく俺に気づいたようで、ようやく視線が合う。



「お父様、聞いておられますか?」


「……綺麗だ」


「はっ?」






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