第31話 誕生日パーティへ向けて





 高坂の情報いわく、パーティーは誕生日当日に行われるらしい。

 そうなると、あと一ヶ月もなかった。


 会場は本館のホール。その広さを考えると、どれぐらいの人数を呼ぶつもりなのだろう。その規模が恐ろしい。

 そして、プレゼントも用意が進められているというのも嫌だった。


 それはプレゼントが嫌だというわけではなくて、もらって自分がどんな反応をするのか。喜べるのかが怖かった。



「相お坊ちゃまは考えすぎですよ。当日までどんと構えておられればいいんですから。それよりも他のことを考えましょう」



 高坂はそう言うけど、落ち着いて構えられるわけがなかった。

 俺の気持ちを誰かに共感してもらいたくて、三千歌にも相談することにした。



『誕生日パーティを計画されているんだけど、どうしたらいい?』



 そんな感じの文面で送ってみたら、向こうからはこう返ってきた。



『家でもプレゼントしてもらえばいいんじゃない?』



 違う。俺が求めているのは、そういう答えじゃない。

 家なんて買ってもらったところで使い道は無いし、第一プレゼントで家を買ってもらうなんてどういうことなんだ。


 今はお金持ちだとしても、俺の金銭感覚は庶民的なのだ。プレゼントの金額の規模が違いすぎる。


 ……まさか家をプレゼントしようなんて思ってないよな。

 絶対にありえないとは切り捨てられないところが、なんとも恐ろしい。


 高坂にそれとなく探ってもらうことにしよう。そしてもしも、高価なプレゼントを買おうとしているのならば、絶対に阻止してもらおう。


 考えなくてはいけないこと、やらなくてはいけないことが山積みだ。




「……はあ」


「どうしたの? さっきから、ため息ばかりだね」


「あ、すみません」


「なにか悩み事かな?」


「えっと……まあ、そんなところです」



 危ない危ない。

 気づかないうちに、ぼーっとしていたみたいだ。しかも無意識にため息まで吐いていたなんて。

 この人の前では常に気を張っているつもりだったから、何をしているんだと自分を怒った。


 古城とは友達以上に親しくなるために、定期的にお茶会を開くことになっていた。

 今日は、何度目かのお茶会の日だったのだ。



「僕に話してみたら、すっきりするかもよ?」


「……でも」


「それとも僕じゃ力不足かな?」



 その聞き方はずるい。全く油断のならない人だ。

 これじゃあ相談しないといけない流れになっている。



「相談したらいいものか迷っていたんですけど、聞いてくれるのなら」



 誕生日パーティーのことは教えられないけど、今の状況を話してもみたかった。



「人に好意を向けられるのに慣れていなくて。素直に受け止めればいいって分かってはいるんですけど。自分にその資格があるとは、どうしても思えなくて」



 俺は純粋な五十嵐相じゃない。

 もし家族との関係性が改善したとしても、俺はどうしても異物である。

 元の五十嵐相に体を返せるのなら、いくらでも頑張って受け入れるんだけど。コンタクトを取れたことは一度もないから、たぶんこれからも無理だ。余計な期待を持ってはいけない。



「相君って、本当に変わったよね。昔はもっと自信満々だったのに」


「……現実を見るようになっただけだ。俺はわがままを言えるような立場じゃない」


「僕からすると、言える立場だと思うけどな。もっと欲張りになっていいんだよ」


「欲張りに」



 俺にそんな価値なんてあるだろうか。

 自信満々に言ってくるせいで、なんだかその気になってくる。



「だから僕に対しても、もっと色々と言ってくれないかな?」


「わがままで迷惑をかけたのに、そんなことは出来ないだろ」


「相君が言うのなら、俺にとってわがままじゃないよ。むしろ頼ってくれた感じがして嬉しいんだけどな」


「……善処する」


「それ、する気ないでしょ。相君、絶対遠慮して何も言ってこないよね」



 不満げな顔をされたって、俺自身がやり方を分からないから無理だ。



「よし、決めた。これから毎日、なにか俺に一つ頼み事をして」


「頼み事?」


「そう。大きくても小さくてもなんでもいいから」


「え、嫌だ」



 見返りを求められそうで、俺は食い気味に拒否した。でも向こうは笑みを浮かべたまま、話を続けてくる。



「嫌なの? それは悲しいなあ。もし相君に断られたら、僕はとんでもないことをしてしまうかもしれないね。でも気にしないで。僕が勝手にしたことで、相君が悪くは無いから」


「……せめて、月に一度じゃ駄目か」


「それは少なすぎるよ。三日に一度」


「二週間に一度」


「五日に一度」


「頼む。週に一度で」


「しょうがないなあ。そこまで言うのなら、週に一度にしようか」



 気がつけば、完全に古城の思い通りの結果になっていた。

 断るつもりだったのに、週に一度は頼み事をしなくてはいけないと決まっていて、俺はその流れる手際の良さにあっけに取られるしかなかった。



「さっそく今から、頼み事してくれてもいいんだよ?」


「……すぐに思い浮かばないから、それは勘弁してくれ」



 完全に振り回される結果になったし、困ったことに考えなきゃいけないものがさらに増えた。







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