第28話 別の出会いを求めて






 高坂以外に、俺の味方を増やしたい。

 出来れば学校関係者がいい。近くで守ってくれる人が欲しかった。


 でも問題は、どこでどう誰を見つけるかだ。

 一番大事なのは、誰を選ぶかである。俺の味方になってくれなければ、なんの意味もない。

 ということは、出来れば月ヶ瀬に会う前に先に俺が出会いたい。


 父や兄達、そして古城は除外だ。問題外とも言う。

 ゲーム内で、月ヶ瀬にほのかな恋心ぐらいのレベルがちょうどいい。

 ガチ恋だと、乗り換えられてしまう危険性があった。


 久しぶりにファイルを開けた俺は、リストの中から候補となる人物を探す。

 月ヶ瀬が主人公の恋愛ゲームだから、大半が除外された。もちろんまっさきに攻略対象を消した。



 そうなると残りは片手で数えるぐらいしかいなくて、俺は紙をテーブルの上に広げて腕を組んだ。



「……誰がいいだろうな」



 こうして悩んでいるのは、誰もが決定打に欠けるせいである。その原因として、情報の少なさもあった。

 ゲーム内で描かれるのは、月ヶ瀬と攻略対象達の恋愛模様がメインだ。だからモブに近いキャラの情報が、ほとんど出ないのも当たり前の事だった。


 俺の味方になってくれるだろうか。それを判断する材料がなく悩み続けてさらに数十分。考えることを放棄した。



「よし。あみだくじで決めよう」



 自分の味方を決める大事な決断を、あみだくじで決めていいのかと思われるかもしれないが、逆にそれで選ばれた人なら味方になってくれそうな根拠の無い自信があった。



「やるか」



 リストをぐちゃぐちゃにしておいて、そしてあみだくじを始めた。するすると指でなぞっていき、最後までいくと選んだそれを裏返した。



「……この人か」



 書類を目にして、少しだけ、いやものすごく嫌な表情になってしまった。

 もう一回やり直そうかと考えたけど、でもそれではあみだくじをやった必要が無くなる。



「……よし、会うか」



 とりあえずまずはアポイントをとろうと、俺は部屋の受話器を取り外した。








 もう少しで、協力者がここに来る。


 心臓が騒いでいて、倒れてしまいそうだ。

 お茶の用意、デザートの用意は出来ている。何度も高坂に確認したから完璧なはずだ。


 今から友達になろうとしている。やり方なんて知らない。というか仲間なんて、どうやって作るんだ。

 まるで、なりたての冒険者のような気持ちになる。

 お茶に手をつけようか迷っては止め、迷っては止め、変な行動を繰り返していた。


 約束の時間までは、あと三十分ほどはある。

 さすがに早すぎたか。来るとしたら十分前か、早くても十五分前だろう。


 それまで、このよく分からない時間を待たなくてはならないのか。でも急いで準備をした俺が悪いのだ。待つのは仕方がない。



 そわそわとしていた俺は、ノックの音に体を跳ねさせた。



「は、はい」


「相お坊ちゃま、お客様がお見えになられました。お通し致しますか」


「ああ。頼む」



 高坂の声とともに、待ち構えていた人物が中へと入ってきた。

 その人は、俺のことを探るような目つきで見てきた。自分がどうして招待されたのか、分からなくて不安なんだろう。

 逆の立場だったとすれば、俺も同じことを思うはずだ。


 ここまで連れてきてくれた高坂には下がるように伝えて、そして客人には席に座るように促す。



「招待に応じていただき、感謝致します」


「い、いえ。こちらこそお招きいただきありがとうございます」



 お互いぎこちなく頭を下げて、そして同時にお茶を飲む。どちらか先に声をかけるか探りあって、そして固まっている。

 この気まずすぎる状況に、俺は小さく息を吐いた。



「俺は、五十嵐相と言います」


「えっと……知っています」



 それもそうか。

 五十嵐家のわがまま末っ子の話は、その界隈では有名な話だ。この人が知っていてもおかしくはない。

 軽く自己紹介を済ませると、早速本題に入った。



「それなら話は早いですね。今回呼び出した理由はですね。一つ頼みたいことがあるんです」


「頼みたいこと?」



 俺に何を頼まれるのかと、緊張しているのが伝わってくる。無理難題でも押し付けられると思っているのかもしれない。



「ええ。あなたにしか頼めないことです」


「俺にしか頼めないこと、ですか」


「そんな怖い顔をしないでください。難しい話じゃありませんから」



 そうは言っても、不安でいっぱいだろう。

 だから俺は警戒心を抱かせないために、出来る限りの優しい表情を浮かべた。

 上手く表情を作れたようで、見とれるような気配を感じる。



「どうか、俺と友達になってもらえませんか?」


「へっ、友達?」


「そうです、友達です。駄目、ですか?」


「いやいやいや。全然。……そっか、友達か」



 慌てる姿は、なんとなくだけど好感がもてた。だから俺は、さらに仲良くなるために彼に近づく。



「あの、あなたのこと、もっともっと知りたいんです。だから、お互い話をしましょう」


「お、はなし」


「はい。友達って、なんでも話せる仲じゃないといけないじゃないですか。隠していること、全部教えてくれませんか?」



 顔を覗き込んで、唇が触れそうな距離まで顔を近づける。



「駄目ですか? 三千歌みちかさん?」



 学園の保険医、三千歌みちか雄瑠たける

 彼には秘密があり、それをまだ表には出していない。







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