第23話 一応の収まる形
父の口から、俺を息子だと認めたのと変わらない言葉が出た。
それは絶対にありえないと思っていた。だからこそ、本当のことを言っている。そう信じたくなった。
「……今まで放っておいていたくせに、相お坊ちゃまの気持ちを考えたことありますか」
高坂は、未だに威嚇し続けていた。
むしろ父の言葉に、さらに怒りを増幅させたようにも感じる。
「相お坊ちゃまがここにいたら悪影響だと、私はそう思います。一度距離を置いておくのも、一つの案ではないでしょうか」
あくまで高坂は、俺をこの家に置いておきたくないらしい。
母がいた頃から、死んでからも、ずっと俺のそばにいてくれた。だからこそ心配する気持ちも大きいのだろう。
「高坂、俺のために自分の立場を悪くするな。俺は大丈夫だから」
俺を庇ってくれるのはいいが、ここを辞めるのは駄目だ。頭を冷やさせれるためにも、そっと腕を叩いて外してもらった。
全く世話がやける。
「お父様、養子の件は一応保留にしておきます。もう少し俺達には会話をする必要があるみたいですから」
「止めはしないのか」
「それは結果次第ですかね」
いくらお互いが歩み寄ろうとしていたって、俺達の間には大きな壁が立ち塞がっている。それを壊すのもこえるのも、時間と努力が必要だ。
今は仲良くしようと思っていても、その壁の高さに、いつか嫌気がさす時が来るかもしれない。
そうなった時のために、選択肢は多く残しておいた方がいいだろう。
それに、俺が父に心を許す未来が想像出来なかった。
「……今すぐ出て行くと言うよりはマシだと思うか」
「父さん!」
「私が決められるものではない。駄々をこねる前に、やるべきことがあるのが分からないのか」
納得のいっていない次男に、父が挑発するようにたしなめる。それにハッとした表情になって、次男と長男までも一緒に俺のところに近づいてきた。
後ろには高坂がいるから避けられない。
すぐ目の前にいる。その圧迫感に、俺は顔が引きつった。
「え、えっと」
「今まで悪かった」
「へ?」
「ほら、暁二も」
「…………悪い」
その謝罪を聞いて、まっさきに思ったのは謝ることが出来るんだという、結構失礼な感想だった。
でも向こうがこうして謝ってきているのに、無視するのは性格が悪くなる。
「俺もわがままばかり言って、迷惑かけてごめんなさい。これから仲良く出来るといいです」
俺はそっと、二人に手を伸ばした。
じっと手を見つめてくるから、さらに近づける。
「握手をと思って。……まだ触りたくないのならいいですけど」
さすがに接触は早すぎたか。抱きしめてきたから、触るのも平気かと思ったんだけど。
ずっと差し出しているのもあれだから、手を引っ込めようとしたが、その前に両手を握られた。
「……これでいいか」
顔が真っ赤だけど、それを言ったらすぐに離されてしまいそうだ。
なんだかくすぐったい気持ちになって、こんな状況なのに笑ってしまった。
笑っていたらまた怒られると、顔を引きしめたら、何故か不満げになった。
「なんですぐに止めるんだ。もっと笑ってくれ」
「笑えと言われても、急には笑えませんよ」
「そうか」
長男と次男とそれぞれ手を繋ぎながら、見た目だけなら仲良し兄弟のようだった。
これから、二人とは仲良くなれるのだろうか。その未来では、俺は勘当されずに生きていけるのだろうか。
まだまだゲーム開始までは時間がある。こうして、少しずつでも話を変えていければいい。希望が見えてきた気がした。
でもまずは、未だに怒っている後ろの高坂の機嫌を直してもらうことを、まっさきにする必要がありそうだ。
家族との関係性改善の希望は、まだ残っている。
主人公とも、今回だけかもしれないけど関係性を持った。
どうせ物語の強制力が働くだろうと思って諦めかけていたから、もうちょっとだけ頑張ってみるかという気持ちにしてくれた。
それならば、俺にはもう一人変えられるかもしれない人がいる。
避けて通りたいと思っても、その人を攻略することによって生存率がほぼ百パーセントになるのだ。これを逃すのは、愚か者のすることである。
「でもなあ、会いたくないんだよ」
ファイルを前にして、俺は頭を抱えていた。
会いたいけど会いたくない。そんな矛盾な気持ちを抱かせる相手は、もちろんラスボスである古城空亜だった。
味方にすればこれほど心強い人はいないが、この前会った時にすでに性格がひん曲がっているのを確認している。
つまり俺は、嫌われている可能性が高い。そこから好感度を死なない程度に上げるには、相手を考えるとハードモードと言えるだろう。
「会う約束もしているからなあ。出来れば、当たり障りなく好感度を上げたいよなあ」
「好感度を上げたい。それは一体誰のかな」
「決まっているでしょ、そんなの。古城のだよ」
「へー」
……ちょっと待ってくれ。
高坂はいないのに、俺は一体誰と会話をしているんだ。
記憶に間違いがないなら、どう考えても聞き覚えのある声だった。記憶違いであることを本気で願いたい。
まるで油の切れたロボットのように、ぎこちなくゆっくりと顔を上げた俺は、この世界には神様はいないと悟った。
「やあ、相君。話をしに来たよ」
まさか本人の登場なんて。
死亡フラグに近づく音が、どこかから聞こえてきた。
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