第242話 お地蔵さんが…… ④
そうは言っても、そんな光景はある意味日常。
そして、草壁とゆかりの二人がクラッシックコンサートに行く予定が、翌日と迫ったそんな時、ゆかりの元に弟の長瀬亮作から連絡が入った。
因みに言っておくと、亮作の突然の帰省はやはり「お金」が目当て。前回ゆかりのピアノ教室で盛大に焼肉パーティーをやったことなんか、反省はしていない。またやりたくなったら、この暢気なお坊ちゃんはやらかすだろう。前回、草壁に語った通り、高校の教室で友達と焼肉パーティーと鍋パーティーと手巻き寿司パーティーを連チャンでやらかしたぐらいなのだから。
ただ、もうわざわざ機材持ち込んでまでするのが面倒だから多分もうしない、と思っている程度である。
当然、金をせびるといったって『パチンコでだいぶ擦ったからお金ちょうだい』などと正直なことを言えるわけもなく、”同じゼミの仲間と研修旅行に行く費用が要る”とか”使っているパソコンの調子が悪いから新しいのに買い替える”とかなんとか次から次へとありもしない出費を並べた挙句、そこそこの現金をゲットすることに成功した。
しかし、そんな嘘をつき通すことに神経を集中していたせいか、姉のゆかりと行く約束をしていたコンサートのことをすっかり忘れてしまっていた。
が、このお坊ちゃん、コンサートが明日に迫ったこのタイミングで急にそのことを思い出したのだった。彼は姉のもとへ連絡を入れた。
「ごめんごめん、すっかり忘れた!」
「いいのよ気にしないで」
電話の向こうの姉の声はこの時点ではやさしかった。
「明日のお昼過ぎにはそっち着くようにするから……」
しかし、亮作がここまで言ったとき、姉のゆかりの声が小さく漏れ聞こえた
「ええっ……」
なんだか、ドッ引きのご様子な低いトーン。フランス料理のフルコース頼んだら、卵かけご飯が出てきたみたいな声をしている。
「あんたさ……せっかくそっちに帰ったんだから、そんなこと気にせずゆっくりしたらいいじゃない、私のこと気にする必要はないのよ。ねっそうすれば?」
お姉ちゃん、急になんで帰ってくるなみたいなこと言い出すんだよ?とスマホ片手に亮作は呆気に取られた。
「前からの約束だし、こっちも楽しみにしてたし……もうこれ以上居たくないから、これ口実に帰るよ。チケットも取ってあるから」
ここまで亮作が言ったところで、通話相手はしばしの沈黙。ん?なんかこっち悪いこと言った?と亮作は思うのである。間というか、空気というか、そういう微妙に重い感じがデジタル回線を通じてなぜか伝わるものなのだが……。
「ゆっくりしてればいいのに……」
地蔵が小さく呟いた。
「僕が帰ってきたらダメなのかよ!」
姉の不可解な対応に亮作が思わず叫んだ。
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次いで長瀬亮作は同居人である草壁圭介の元へも同じように連絡を入れた。
「あ、草壁クン!僕ね明日の昼までには帰るから!」
こっちは事務連絡程度の報告。向こうからは「あっそ。お土産よろしくね」ぐらいの軽い言葉が返ってきてくるものと思ってると、急に通話相手が不機嫌になり、突き放すような調子で言い放った。
「いいよ、帰ってこなくて……」
「なんで、お姉ちゃんも、草壁クンも僕が帰るっていうとそうなるんだよ!」
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