(読み切り版)異世界巨大生物VS元アスリート

トム・ブラウンみちお

第1話

―パルクール世界大会元王者でフリークライマー・高月聖一の体は、輸血で感染症にかかり、今では歩く事もままならなかった―



「グゥゥッ!………もう歩行器無しじゃ無理か」



ついこの前まで走り回っていた聖一の体は今では歩行器無しでは歩けない体になってしまっていた。


体が、手が、足が痛い。




希望を失っていた。しかし、心のどこかで何かを諦めきれない。




そんな時に医者から告げられたのは

「余命半年です。」

……残酷な言葉であった。



病状の説明をしている医者の声が右の耳から左の耳へ通り抜けている。



その日は聖一の40才の誕生日であった。



―『死』という圧倒的恐怖―



瞳からは涙がこぼれていた。





医者との話のあと、病院の庭に向かい、

雪が降るのも気にとめず、


遠くをボーっと見つめていた。



ふと、遠くの公道に目をやると風船を追いかける男の子。


その向こうには除雪機!


「……え」


止まったと思っていた心臓がドクドクと鼓動を打ち始めた。


(こ、子供を助けなければ!)


そう考え、聖一は走り出そうとするが、やはり体は言うことを聞かない!!


歩行器を力一杯に押してスピードを出そうとするが、歩行器がパワーに耐えきれずにネジが飛んで崩れる。


倒れ込む聖一。


「ゲホゲホッ!はぁはぁ…


…んなくそぉー!!!!」


精神力が奇跡を起こす!


立ち上がり2歩3歩と走る!


膝の崩壊するような音が聞こえる!!だが!


この命をあの男の子を助けるために使うと決めた聖一は、走る!!





しかし!



ギリギリ男の子に追いつくも助けることはできず、2人とも除雪機に巻き込まれバラバラになってしまう。


「ぐがごごごんぎゃぁー!!」


雪と共に細かく截断されていく。止めどなく痛みと血が溢れだしていく。


綺麗な白い雪に真っ赤な血が飛び散っていた。


驚いている子供の母親の顔には、子供のものか聖一のものか分からない血が付いていた。





その時!!


本来、除雪機にたどり着くことも出来ないであろう運命であったため、時空の歪みが生じブラックホールが生まれた。


雪を排雪する噴射口から出た二人のバラバラの肉片が吸い込まれていく。


ブラックホールの中で肉片が溶け合っていく。






「……」


ブラックホールの中


意識だけが暗闇に浮かんでいる。



かすかに聞こえる優しい声



「……私の世界を助けて」


優しい声は続ける


「…ビッグバンベヒーモスを倒し……て…ほしい。…あなたに…少しだけパワーをあ…げる」




そこからプツンと意識が途絶える。






ザザ


ザザザ


バチィン!!




スイッチが入ったように意識が戻る。


(なんだ?どうなった?ここは?草原か?)


ここはどこだ?死んだはずじゃ?と辺りを見回す。ふと何の気なしに空を見る聖一


「た、たた、太陽の周りに土星の輪っかみたいなのが付いてるぅぅー!」


思わず出る声


そこで暗闇の中で優しい声に言われた事をハッと思い出す。


「ハッ!」


なぜか口に出す聖一。


テンションが上がっている。それもそのはず体が動くのだ。




しかも全盛期以上にみなぎるエネルギー!


「なんだこれ!体が軽い!」ジャンプする聖一


「しかも強い!!」体をバンバン叩く聖一


はしゃぐ聖一





いきなり頭がズキンと痛む。


…僕はお母さんに抱っこされていたの…


…風船が飛んだから追いかけたの…


…そしたら雪かきをする車が来て…


…おじさんが来てくれたけど死んじゃったの…





…という声が脳に浮かぶ。


(これは?)


考えてすぐ結論に至る聖一


「…そうか。よろしく。メインの意識は俺なのか」



ブラックホールの中で肉片が溶け合い、子供と聖一は合体したのである。




(そうか。だから俺は体も思考も若返ったのか)


聖一は妙に納得する。


少し違和感のあった意識も混ざりあい、1人の人間の人格になっていく。


(でも病気は何故無くなったんだろ……そうか……あの優しい声の人か。…ありがとう)



感慨にふけっていた自分の体にエネルギーが走るのが分かる聖一


(ん、この力は………??)




聖一が与えられたパワー。


それは身体能力向上。鍛えれば鍛えるほど身体能力が人知を越えていくパワー。


そして



ブラックホール。物を吸い込み、暗闇に保管しておいたり、逆に吐き出すこともできるパワー。


そして



力場。空中で好きな形の足場を作り出すパワー。


(力場、1度に1回しか使えなくて次に使えるまで5分。パワーアップすれば回数が増えたりするのか)


聖一は空に感謝を仰ぐ。


(…ありがとう優しい声の人)





歩き出す聖一



堂々と歩いていく聖一



この男、全裸である。




左足

真ん中ブラーん

右足

真ん中ブラーん

左足

真ん中ブラーん



実に堂々としている。



―――――


人生の希望を無くした男が、命を投げ出して子供を助けようとするが間に合わず、何故か2人が合体して異世界に来たようだ。


―――――




突如、悲鳴が鳴り響く。




悲鳴に向けて走り出す聖一!






木々を抜けていく。



開けた草原に出る。



一軒家ほどの岩の巨人がそびえ立っている。


(な、なんだありゃ)





馬車がある。傍らには、


ゲームのRPGで言うところの商人のような格好をしたお爺さんと、18才前後の若い娘が腰を抜かしている。



前方には兵士の死体であろうものが2体、その少し後ろには杖を持った女が腰を抜かして後ずさりをしている。



あの巨体に押し潰されたのか、死体は所々圧縮されてグチャグチャになっている。






助けなければ。


どうしよう。全裸だけど。でも!命あっての物種だから。と覚悟を決めて姿を表す聖一。


「おい、あんたら大丈夫か?」

「はい!あなたは?え?全裸?」

「助けてくだ、さ、キャー!変態!」


お爺さんはまじまじと俺の股間を凝視しているし、若い娘は目を覆いしゃがみこんでしまった。


まずい。やはりダメだったか。ええい!

「すまん、水浴びをしていたら悲鳴が聞こえたので服も着ずに助けにきてしまった!」


「あ、ああ!そういうことだったんで、す、、ね!」とお爺さんは苦笑いをうかべながら答える。

若い娘はかがんで目をおおったまま、「へ、変態ですぅー」


(くっ!!まあいい!例え変態扱いされても構わない!!この二人、そして前方にいる杖を持った女を助ける!!!)


「おい!お爺さん!この岩の化物はなんなんだ?どうやって倒す?」


「はい。こいつはロックゴーレム岩のモンスターです!青く光る目の部分が魔水晶で、あの魔水晶を壊すか、むしり取れば倒せますじゃ!」


「OKありがとう!」


ロックゴーレムに向かって駆け出す。


「え?ロックゴーレムは建物級のモンスター!普通の人間には無理じゃ!」


じじいが吠える!





ロックゴーレムと杖を持った女の間に入る。



ロックゴーレムは俺の事を品定めするように見ている。


拳には圧死させた人間の血液と肉がこびりついている。


途中杖を持った女に声をかける。「おい、下がってろ」


「へ?はだか?」


「下がってろと言っているんだ!!!」


「は、はい!」


腰が抜けたまま、ずるずると女が後方に下がる。





すると、ようやく獲物を追い詰めたのを邪魔されて腹がたったのか、6mほどの巨体が右拳を振り上げる。



聖一は身の危険を感じてロックゴーレムの拳の外側方向に横っ飛びでかわす。


拳が空を切り地面に着弾。ドゴゴゴォン!と轟音が響き砂煙があがる。


冷や汗を背中が伝う。


若返った身体能力と心。それにより舞い上がっていた気持ちが急速に冷えていく。



「当たったら死ぬ。ハハッ笑えねぇ。」




呟きながら、駆け出してそのまま回り込み、岩が突き出てお尻のようになっている所があるので、それをめがけてジャンプ、飛び出た岩をがっしり指で掴む。


振り払おうと体を振り回すロックゴーレム


聖一の体は振り子のように振り回される。





股間も余計ブランブランしている。




ロックゴーレムが聖一を振り払う為の溜めを作る。聖一はつかんでいた腕を引き寄せて突き出ている岩に足を乗せる。






体を振り回すと同時に垂直跳びをしてロックゴーレムの腕に体ごとしがみつき、勢いを利用して逆上がりの要領で腕の上に降り立つ。


そのまま顔の方に向かって走る。



しかしロックゴーレムはもう片方の手で聖一を払いのける。


吹き飛ばされる聖一。



「ガハッ!………り、力場!!!」




吹き飛ばされ、空中に舞い上がったところで力場を発動させる。



そこを足場にして踏み込みロックゴーレムに勢いよく飛びかかる。



「おんどりゃゃー!!!」



勢いのまま右手を青く光る瞳に突き出す。


つるつるしたソフトボール大の玉のような感触がしたのでつかみ引き剥がす。


岩の巨人はガタガタと音をたてて崩れていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る