死に戻り、三回目
「……‼︎」
カトリーヌは再び自室で目を覚ました。
また今日の朝に戻っているのだと感覚的に分かる。
無意識に脇腹を撫でたけれど、もちろん傷はなかった。
(どうしてワームルース侯爵が? あれはなに? どうしてわたくしは殺されたの?)
疑問が次々に湧いてくる。
朝食に向かう支度をし、四度目の食卓を前にして、カトリーヌは父親に尋ねてみることにした。
「お父様、ワームルース侯爵は第二王子と何か関係があったかしら?」
「どうした急に」
「いえ、その……夢に、わたくしにあまり馴染みのないワームルース侯爵様が出てきたものだから」
「あの男の夢を見たのか? それは嫌な夢だったろう、ほら、お前の好きなブドウをお食べ」
「は、はい」
カトリーヌは大人しくブドウを食べ、父の言葉を待った。
「あそこの一人娘のオリヴィア絡みじゃないか? お前が心配なのは」
ワームルース侯爵の一人娘、オリヴィアは社交界でも有名だった。
ただし、悪い意味で。
自分より爵位の高い男性に見境なく言い寄る彼女には、いくつもの噂が飛び交っている。
「あぁ、そういえば王子に見初められたとお話ししていたことがありましたわね」
かなり前の話であり、あまりにも信憑性がなかったために失念していたが、カトリーヌも聞いたことがあった。
第二王子が社交界デビューした時、オリヴィア自身が周囲にそう触れ回っていたのだ。
誰も信じなかったからか、それとも不敬だからと窘められたのかはしらないが、その噂はすぐに消えた。
それに第二王子がヴァイオレッタに一目惚れし、猛烈なアプローチの末にお付き合いを始めたことを一番近くで見ていたのはカトリーヌなのだ。
オリヴィアのことなどすっかり記憶から締め出していたのだった。
(けれど、今まで忘れていたくらいにオリヴィア様は何もしていなかったのに……なぜ今になって?)
早い時間に王城へ行き、エドワードに真実を話すまでは前回と同じ行動を取った。
やはりエドワードは信じてくれて、警備兵に男を任せることも変わらなかった。
それに加え、今回はワームルース侯爵にも気を配る。
(どうしてわたくしが殺されなければならなかったのかは分からないけれど、どうせ殺されるのなら何か手がかりを得て死にたいわ)
何度も死に戻りを繰り返すうち、カトリーヌの中に奇妙な感情が芽生えていた。
他の人は何も覚えていないのに、カトリーヌだけが覚えている。
その事実が、この事態を何とかしなくてはいけないという使命感めいたものを抱かせたのだった。
(ワームルース侯爵はもしかしたら全て覚えていて、だからこそヴァイオレッタを殺す邪魔をしたわたくしを……?)
前回よりも早く、そして慎重に短剣を持った男を取り押さえることができた。
そのせいか、男が取り押さえられた時、カトリーヌのそばにはワームルース侯爵の姿はなかった。
少し離れた場所で狼狽えている侯爵の姿を見付けたカトリーヌは、その手がジャケットの内側に隠した短剣に伸びるのを見て駆け出した。
男を取り押さえられたことで気の抜けていたエドワードはカトリーヌを止められず、何が起きたのかと視線で追い掛けることしかできない。
ワームルース侯爵が近くにいた令嬢を刺そうと手に力を込めた瞬間、カトリーヌは自らの腹部でその刃を飲み込んだ。
幾度となく体感している痛みに耐えつつも薄れゆく意識の中、ワームルース侯爵の呟きが耳に入る。
「どうして自分から……?」
(ああ、あの時計、きっと誰の命を使ってもいいのだわ)
自分だけが全ての記憶を有していると確信したカトリーヌは、ゆっくりと闇に沈んでいった。
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