死に戻り、四回目
「流石にもう、慣れたわ」
カトリーヌは落ち着いたまま目を覚まし、五度目の朝食を迎えた。
同じ言い分で王城へ早めに向かい、エドワードに全てを話す。
まるで人が変わったようなカトリーヌに驚きながらも、エドワードはやはりカトリーヌの話を信じ、警備兵を呼んだ。
まだワームルース侯爵家が城へ到着していないと聞いたカトリーヌは、彼の身体検査を念入りにするように頼もうとして言い淀んだ。
懐中時計は取り上げられないだろうが、せめて短剣はと思ったのだが、それでは侯爵の罪を暴けないかもしれないと気付いたのだ。
彼が短剣を使おうとしてこそ、主犯が彼なのだと周囲に信じてもらえるに違いない。
カトリーヌは、あの男が取り押さえられる時、侯爵の一番近くにいる令嬢になろうと密かに決心した。
「エドワード様、もし刃物を突き立てられた時、刺さらないようにするためにはどうするのがいいかしら?」
「カトリーヌ⁉︎ 滅多なことを言わないでくれ、男は取り押さえられるんだ、きみに危害を加える者が他にもいるのか⁉︎」
「念の為ですわ」
すると、その話を聞いていた警備兵が壊れた鎧の胸当てがあると言った。
訓練で使いすぎて真っ二つに割れてしまい、使い物にならなくなったものが転がっていると。
カトリーヌはそれを譲り受け、連れてきていた侍女と別室へと向かった。
コルセットを一度外し、左の脇腹を守るように胸当てだったものを充てがう。
覆えなかった部分には一緒に借りたタオルを巻き付け、その上から無理やりコルセットを締め上げた。
流石に違和感なく仕上げることはできなかったが、何とかドレスが着られるくらいには整えられたので良しとする。
内臓が飛び出るかと思ったが、大怪我をするよりはマシである。
気合いを入れて部屋に戻ったカトリーヌを、エドワードが不安げに迎え入れた。
「無茶はしないでくれ、頼むから」
「えぇ、大丈夫ですわ」
右腕をしっかりとエドワードの腕に絡ませ、カトリーヌは大広間へと向かうのだった。
◆
ワームルース侯爵にさりげなく近付きながら、カトリーヌは男を示した。
カトリーヌ以外の人物の動きは、五回とも全て同じである。
前回はカトリーヌの動くタイミングが悪く、ワームルース侯爵は別の令嬢をターゲットに選んでしまったが、今回はそうならないように慎重に行動する。
男が取り押さえられた瞬間、彼の一番近くにいる令嬢は狙い通りカトリーヌだった。
カトリーヌは、まるで誘い込むように無防備な左の脇腹を侯爵に晒した。
(お願い、ここを刺して……!)
前々回、刺された場所。
前回、侯爵が短剣を構えていた高さ。
カトリーヌが予想した通りの場所に、ワームルース侯爵は短剣を突き立てた。
その刃がドレスを切り裂いた時、カトリーヌは叫び声を上げた。
「きゃあああああ‼︎」
「カトリーヌ⁉︎ ……っ侯爵を取り押さえろ!」
刃物を持った男に集中していた警備兵たちが、カトリーヌの元へ駆け寄ってくる。
すぐさまワームルース侯爵は取り押さえられ、カトリーヌの怪我を心配した両親も駆けつけた。
カトリーヌには怪我はなかったが、鎧を仕込んでいることを知っていたエドワードでさえ顔色を悪くしている。
申し訳なくなり、精一杯元気だと言ってみるが、どうにも上手くいかなかった。
拘束されたワームルース侯爵は、悪魔と契約をしたのだと喚いていた。
悪魔にヴァイオレッタの魂を捧げれば、その見返りとしてオリヴィアが第二王子の妻になるはずだったのだと。
もしもヴァイオレッタの殺害に失敗しても、同じ時をやり直せる道具も得たのだと。
オリヴィアも、侯爵夫人も承知の事実であったのか、侯爵の発言に顔色を変えることもなく、平然とその場に立っている。
オリヴィアの瞳は熱を孕んで第二王子を見つめていて、底知れぬ狂気に背筋が凍った。
てっきり第二王子を諦めたものだと思っていたが、どうやら水面下で画策していたらしい。
それが悪魔というオカルトじみたものであったとは、誰も想像していなかったが。
兵士たちに身柄を拘束されて引き立てられる最中も、オリヴィアたちの顔から笑みが消えることはなく、貴族たちを震え上がらせた。
悪魔との契約が事実であるかは確認できなかったものの、侯爵家からは血液で書かれた魔法陣や、転がる家畜の死骸などが見付かり、悪魔召喚を試みたことは間違いないようだった。
侯爵の持っていた懐中時計は押収されたが、どんな研究者が調査しても時を戻す力が本当にあるのか確かめることはできなかったそうだ。
カトリーヌだけが、その時計が本物であること、そしてどうすれば時を戻すことができるのかを知っていた。
誰にもその事実を話すつもりはなかったが。
王族の婚約発表の場で起きた凶行に、ワームルース家は爵位剥奪の上、侯爵は処刑台へ、夫人とオリヴィアは国外追放となった。
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