第38話:喫茶店での勉強会、2日目
『早めに言っておくけれど、テストの後の土日は、部活やります。今日から部活禁止でテスト勉強も大変だろうけど、皆、台本も出来るだけ読み込んで来てね。地区大会が終わる迄、……それを勝ち上がれたら県大会が終わる迄は、皆の時間を私に下さい』
信行と、それに最近仲良くなったクラスメートの皆と話していた2限後の休み時間も終わり掛けた頃、アプリの演劇部のグループトークルームに、そんな中村先輩のメッセージが送られて来た。
やっぱり、昨日麻実とことりが話していた遊びに行くのには、僕は参加出来ないか。
何だかんだで麻実とは一緒に出掛けられていなかったし……外出先で少し合流した事は有ったけど……楽しみにしていたのに。
残念だけど、切り替えて僕に出来る事に専念して行こう。特に、大会の結果は、僕の出来に因る処が大きいのだろうし。
それにしてもことり、さっきの
この学校の人で麻実と知り合いって言うと、ミモと中村先輩と信行とことり、……と、昨日会ったから一応飛島さんもか。尚、門の所で麻実を取り囲んで恐怖を与えていた面々は除くものとする。
そう考えると、誘いに行っていたのはミモと中村先輩かな?
中村先輩と僕と信行は部活で行けないから、大分人数が減ってしまいそうだ。
麻実が悲しまないと良いけど。大会が終わったら、どこかに誘ってみようかな。
○○〇
「ねえねえ、ことりぃ」
3限の授業が終わるなり、窓際の席で飛島さんが前に座ることりに掛けている声が聞こえて来る。
ことりも振り向いて応対し、何事か話している。飛島さんの声と比べて、ことりの声は全く聞こえて来ない。
次の授業の数学の教科書を出して、前回の授業の続きで昨日予習しておいたやるであろう箇所をペラペラ開いて見ていると、机の上に出しっ放しにしていたスマホが、また震えた。
新しいメッセージが届いていて、差出人は、ことり。
『今日からテスト前の部活禁止期間だよね? 授業後にユズが昨日の今日でまた勉強会をしたいって言っているけど、どう? 良かったら、清須君も誘っておいてね』
……特に予定は無いし、断る理由は無いな。
「信行、今日も勉強会をするって言っているけど、どうする?」
「あ、俺は先約が有るからパスで。また今度誘ってって言っといて」
振り返ってそう言った信行は、また何だかほくそ笑んでいる。……なんで?
「分かった、そう伝えておく」
気を取り直して、スマホに向かい合う。
『僕は良いけど、信行は先約が有るから今日はパスだけど、また誘って欲しいって』
送って直ぐに既読が付いたので暫く机に置いて待っていたけど、返事が来る前にチャイムが鳴ってそれと共に4限のゲン先生が教室に入って来たので、電源を落として鞄のポケットに入れた。
○○〇
「こうして、美浜君と
喫茶店の4人席で向かい座る大口さんが、肩程まで伸ばしている髪を弄りながら言った。
今日の勉強会のメンバーは、僕とことりと飛島さんと、それに
高校に入ってからの、ことりと仲が良いクラスメートだ。
こうしてことりと仲が良い人と知り合えるのは嬉しいけれど、男が僕1人と云う事で、少し肩身が狭い。
今日来ているのは、いつも利用している喫茶店チェーンの本店で、休みの日にモーニングで利用するのは、街道沿いに在るこの店。昨日も勉強会をした店舗は、イオンに合わせてなのか開店時間が少し遅いから、直ぐ近くに在るこっちの店を利用している。
僕とことり、それに
「まあ、入学してから、余り接点が無かったからね」
僕と大口さんの共通の知り合いと言えば勿論ことりだけだったけど、それも最近になる迄僕がことりと疎遠になっていた所為で、無いのも同然だった。
「まあ、それを言うなら私もだよね。守君と初めてちゃんと話したのも、昨日の勉強会でだし」
大口さんの隣に座る飛島さんが、身を乗り出して会話に入って来た。
「え? だって2人、同中だったんでしょ? 話したのは昨日が初めてって、ずっとクラス違ったの?」
これは、当然起こる疑問だよね。
「んにゃ、3年間一緒だったよ? ね、守君! ことりは2年の時は違ったけど」
「うん、そうだったっけね」
「そうだね」
僕に続いて隣の席のことりも、澄ました顔で頷く。
「でも、話してなかったの?」
「うん、守君、暗かったもん」
「暗かったね」
「うん、暗かった」
これは僕も否定出来ないので、あっさりと言い放った飛島さんとことりに乗っておく。
「って美浜君、自分で言っちゃうの? ウケるんだけど!」
「ウケを狙った訳じゃ無いんだけど、事実だし……」
「でもさ、急に何だか明るくなったよね、美浜君。何か有ったの?」
「それは……」
追及する大口さんの目から逃れる様に視線を逸らした。が、逸らす方向を間違えて、ことりと目が合ってしまった。
「何か有ったのぉ? ことりぃ?」
「べ、別に何も無いよ? まあ……守、小学校高学年迄は明るかったから、昔に戻ったんじゃないの?!」
意地悪な笑みを浮かべて問う飛島さんに、途端に慌てて弁明しようとすることり。
僕が顔を向けた方が良くなかったけど、……白状している様な物だな、これ。
「さ、お喋りはこれ位にして、今日はちゃんと勉強するよ!」
「あ、誤魔化した」
「まあ、ことりが言いたくないのなら、追及はしないであげるけどさ。そう云う事なら、負けないからね?」
「……もう」
突然の飛島さんからの宣言に、ことりは頬を赤くして膨らませた。でも、負けないって、何の事だろう。
「でもさ、誘われたから来たけど、私ここに来て良かったのかな?」
笑いながらそう言ったのは、大口さん。
「何でよっ?!」
「だって私、あくまで部活メインで、テストは補習受けたり落第しない位で良いかなって感じだし」
声を荒げたことりは、不意に虚を突かれた様に押し黙った。……良く分からないけど、さっきの飛島さんの発言の流れで考えていたのかな?
「えっと、大口さんはバレー部だったっけ?」
「うん、そう、女バレ。未だ補欠だけどね。……ねえ、ことりは何で美術部なの? あんなに動けるのに」
「えっと、それは……」
「まあ、それを言うなら私だって、ことりは当然女バスに入るものだと思ってたんだけど! ……まあ、仕方が無いんだけどさ」
そう言って一点を見詰める、飛島さん。
それに釣られて、大口さんの視線もそこに移る。
「……ああ、そっか。前に男子と体育館を半々に分けてやっていた時、酷かったよね……」
「ちょっと、2人共、どこ見てるの!」
ことりは慌てて、両腕で胸を隠して体を外側に逸らした。
……さて、僕はどこを見ていれば良いのかな。
「あ、あの時叫んだ男子って、そう言えば美浜君だったよね」
「『先生、バスケがしたいです!』ってね。その後、綺麗なシュートを決めてたよね。あれカッコ良かったな」
「えっ?」
飛島さんの突然の発言に、今度は僕が顔を赤らめる番だった。
「だけど、手足がだいぶ震えてたし、ビシッとは決まってなかったんだけどね」
……ははは……。
「決まってなかった、はずなんだけどねぇ」
……………………ん?
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