どこかの誰かとごはんの話。

むぎ

ケーキをワンホール食べる話

 ケーキをワンホール食べる。これは甘党なら誰もが一度は夢見ることではないだろうか。もちろん私も夢に見ていた。ここ数年、しょっちゅう言っていた。ケーキを一人でワンホール食べてみたい、と。

 ただ、それを叶えようと思ってもなかなか難しい。この願いを叶えるのに一番大きい壁は、カロリー。いや、ケーキは脂質も糖質の量もすごいからそれだけではないか。私はなるべく太りたくないのだ。そう思いながら日々を過ごしていると、一人でケーキをワンホールを買う踏ん切りがつかないのだ。

 しかし、今日。私はそれを乗り越えた。今、自分のちっぽけで大きい夢を叶えようとしている。目の前にはケーキワンホール。そしてそのさらに奥には友人の姿。

「ワンホール、やっぱりいいね。夢があるわ」

「うん、いい。すごく良い」

 シンプルなイチゴのショートケーキを目の前に二人で目を輝かせる。ワンホールだと踏ん切りがつかないが、半ホールならいいじゃないかという結論に至ったのだ。あれだけ足踏みしていたのに、半分なら、と二人で悠々と目の前のハードルと飛び越えた。半分にしたところで、カロリーや脂質、糖質はかなりの量なのだが、それは考えないことにした。

「切って皿に盛る?」

「うーん、せっかくだしそのままフォークで食べちゃわない?」

 いいねえ、いいねえ。互いに笑い合う。いたずらをたくらむ子供のように。

 じゃあ、いただきます。

 ホールのケーキに直接フォークをさした。それだけのことになんだか特別感を感じて胸が高鳴る。大きく、ぱくりと一口。

「うわ、おいしい」

「めっちゃおいしいね」

「生クリームが全然くどくない」

「その分スポンジに甘みがあってちょうどよいね」

「うん、でもスポンジも甘すぎるわけじゃない」

「ね、めちゃくちゃおいしい」

 それに、なんといっても。

「「しあわせだー……」」

 なんだろう、この幸福感は。カロリーを考えたらやっぱりすごく罪なことをしている気分になるけど、最高に幸せだ。いや、カロリーなんてもはやどうでも良い。幸せ、すごく幸せ。幸福をまるごと食べている感じ。二人そろって顔を綻ばせた。

「特別感、すごいね」

「わかるわかる」

 量は半分だが、幸せは確かに二倍になっていた。

「またやりたいね」

「いいねえ。定期開催しちゃう?ケーキ食べる会」

 しよう、しよう、だなんて。数年夢見ながらも躊躇っていたくせに、一度やってしまえばこうも簡単にできてしまえるものなのか。

「今のうちしかできないもんねえ。何年かしたらもうこんなに食べれないよ。胃が持もたれちゃう」

「えー、そうかな。私たちかなりの甘党だし、食べられちゃうかもよ」

「そうかなあ」

「そうかもよ」

 一緒になってくすくす笑う。

「でもあんまり開催頻度高いと特別感なくなっちゃうから。適度に、ね」

「そうだね、適度に」

 うん、いいね、楽しみだ。この幸福感を、もう一度。一度とは言わず、できるうちにたくさん。

 だっていいじゃないか、人生には限りがある。どんなにちっぽけなことでも、やってみたいことはどんどんやっていこう。

 人生はやったもん勝ちなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どこかの誰かとごはんの話。 むぎ @panngasuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ