第7話 寝たきりの日々

 クリスマスに心療内科を受診してからしばらくはほぼ寝たきりの日々だった。通院や結婚式の準備がある時は頑張って寝床から這い出ていた。

 毎日ずっとベッドにいて、とりあえずスマホをいじっていた。あんなに毎日何をしていたのだろうか。文章を読むことが全くできなかったので大好きな漫画すら読むのは厳しかった。何かしているようで何もしていなかったのかもしれない。

 その日々を思い出す時はいつもドラマの『逃げ恥』と『ウルトラマンゼット』が浮かぶ。

 前者は年末年始に特番がやっていた。私は星野源さんのファンだ。夫が気を利かせてチャンネルをそれにしていてくれた。夫に勧められ、なんとか寝床から這い出て視聴した。けれどヒロインの自己肯定感の低さや賃金の話で勝手に辛くなってしまい離脱した。その辺の問題が片付いた頃に夫が、今はもう大丈夫な話だよと教えてくれたが見る勇気はなかった。そんな理由で未だに『逃げ恥』という文言を見ると少しだけ苦しくなる。その後の『逃げ恥婚』というワードは星野源さんロスとも重なり、私を祝福と苦しさの板挟みに追い込んだものだった。

 後者は夫が撮りためていたのをこの時期に見ていたからだ。『D4レイを撃つんだ~』という台詞がなぜかとても印象に残っている。何を見ているんだろうと思いながらこの台詞を聞いていた。この作品がきっかけで夫のウルトラマン熱が復活し、のちに私もウルトラに足を踏み入れることとなった。ウルトラマンにハマった今、なぜ1番最初に覚えたのが先の台詞なのかは全く分からない。

 これが夫と暮らすようになって初めて迎えたクリスマス、年末年始だった。生まれて初めてのホールケーキがないクリスマスだった。代わりに夫がコンビニで売っているディズニーの小さいケーキを買ってきてくれた。プレゼントもあの年はなかった気がする。数日前まで働いていたのにどうして何も用意していなかったのか不思議で仕方がない。そんな余裕すらなかったのだろうか。思い返す度に、夫には申し訳なさしかない。この年末年始、夫は帰省する予定がなくずっと一緒にいてくれた。夫の食事はどうしていたのか思い出せない。私は多分フルーツグラノーラだろう。

 実は今年もクリスマスに心療内科を受診することになっている。それもあり、あの日々に頻繁に思いを馳せている。今年は夫がクリスマスケーキを予約してくれた。プレゼントはなしということになっているがこっそりと用意した。年末年始はウルトラマンのイベントがある。初診から数年経ち進捗がないなと思う部分は沢山あるが、きっとあの年のクリスマスより私は日々を楽しめていると思う。

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