気が触れて、我に返って、また気に触れる1
始業式が終わり、担任からお叱りを受けた後、俺と新藤は遅れて体育館を後にした。
「あはは――あはははッ! そっか! 俺がモテなかった理由はいつも隣にラブコメの主人公がいたからかッ! そりゃ彼女もできないよできるわけがないよッ! だってモブだもん! 俺モブだもん! 奏多君、いや包茎君、あれどっちが本当の名前だっけ? あ、いけないいけない細かいことを気にしちゃうのはダメなんだよね! ……あれ、君は誰だっけ? というかここどこだっけ? あはは――うひゃひゃひゃひゃひゃッ!」
誰? はこっちのセリフだった。
朝までは至って普通だった俺の友人。それが今では悪霊に憑りつかれてしまったかのように狂ってしまっている。気が触れまくっている……とてもじゃないが言語でコミュニケーションを図れる状態ではない。
悪い冗談ならさっさとやめてもらいたい。本気で精神に異常をきたしてしまっているのなら……コイツの両親に合わせる顔がない。
「あ! おちっこしたい! おちっこしたいよ俺!」
ついにはデリカシーさえも失ってしまったようで、新藤はもじもじしながら股間を押さえ、尿が近いことを大声で表明した。少し離れて前を歩いている小鳥遊達が足を止め、引きつった顔をこっちに向けている。
「そ、そうか……じゃあ体育館に戻るか? 俺もちょうどしてーなって思ってたとこなんだよ」
なんて言っておきながら、実のところ尿意はない。これは新藤の尊厳を守るための提案だ。
「――ええッ⁉ 君、異性だけじゃなく同性もいける雑食系主人公だったの? どんだけ範囲が広いんだよ怖いよ――――キャアアッ、奏多君に襲われちゃうよおおおおおおおおッ!」
が、新藤は察してくれず、守るように自分の身体抱いて後ずさった。
小鳥遊達が早足で去って行くのを視界の端で捉える。関わりたくないってことだろう。
新藤の尊厳を守るための提案が、自分の尊厳を危うくしてしまったってことか。
「あ……ごめん、やっぱ今のなしで。ここで待ってるから、一人で行ってきてくれ」
***
用を足しに体育館へと戻っいった新藤を外で待っている間、俺は澄んだ空を呆然と見上げていた。お昼前には帰れる今日、外はやたら風が強い。
そんな風が俺の耳に運んできたのは人の声。本棟へと続く渡り廊下の方からじゃない。その反対、体育館の入り口を背に立つ俺の左側から聞こえてきた。
始業式が終わったからといって帰れるわけじゃない。まだ各クラスでホームルームが残っている。故にここに残っているのは俺と新藤だけかとばかり。
皆が教室に戻っていく中、人気のない体育館裏から人の声……怪しい。エッチな匂いがプンプンしやがる。
性的好奇心に駆られた俺は、壁伝いに足を進めて行き、そして気付かれないよう顔をひょこっと出し覗く。
緑のラインが入った体育館シューズ……1年生か……ってあれ、緑川もいるじゃんか。
男と女がハッスルかましているとかではなかった。女子が4人、その中には緑川もいる。
ただ、仲良しこよしってわけではなさそうだ。パッと見ただけでもわかる……壁際に立たされ囲まれている緑川の歯噛みする表情がそう語っているから。
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