年越しのじゃないよ? カウントダウン2

「――よ、よお。待った?」


「あ、センパ~イ♡ 全然待ってないですよ~」


 ――まずいッ⁉


 俺の姿を捉えるや否や、緑川は手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


 この軌道はまさか――俺の腕にしがみついてくるつもりかッ⁉


 そうはさせまいッ! と俺は体を一回転させ、迫ってきた緑川をひらりとかわした。


 勢いを止めきれなかった緑川は俺の横を通り過ぎ、少しして急停止。即座に身をひるがえして文句をぶつけてくる。


「ちょ――センパイッ! どうして避けるんですかッ! 危うくこけちゃうとこでしたよ! もうッ!」


「す、すまん。小石につまずいちゃってな、他意はない。だからそれ以上何も言わずにこっちに来てくれ」


「むぅ。なんですかそれ……雑に扱われてる感が凄く嫌なんですけどぉ」


 頬を膨らませ不満を口にした緑川は、渋々といった感じで戻ってくる。


「……目黒川君、緑川さんとは知り合いだったのね」


 羽崎が意外そうな口振りでボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


 俺はサッと移動して羽崎と小鳥遊の前に立つ。そして緑川に聞こえないよう小声で説明する。


「彼女、新藤と仲が良くてな。これまでにもちょいちょい会う機会があって、それでだよ」


「へぇ~……てかあんた、なんで小声で喋ってんのよ。もっとはっきり大きな声で話しなさいよ」


「細かいことは気にするな。友達いなくなるぞ?」


「い、いなくなるわけないじゃないッ! バカッ!」


 顔を真っ赤にして憤慨ふんがいする小鳥遊。コイツに関してはよっぽど下手打たない限りバレなさそうだな。


 となると、注意すべきなのは二人……羽崎と緑川か。


「……ちょっとぉ。なに皆でコソコソしてるんですかぁ……ウチだけ置いてけぼりなんて酷いですよぉ……」


 羽崎達から離れ緑川の元に高速移動。拗ねた様子の彼女を宥めるべく、それっぽいことを口にする。


「二人に緑川の彼氏だってことを伝えてきたんだよ。ただそれだけ、信じてくれ」


「いや、信じますけど……なんで小声なんですか?」


瑣末さまつなことを気にするな!」


「……はあ」


 訝しげな視線を送ってくる緑川だったが、それ以上深くは突っ込んでこなかった。


 開幕早々デッドエンド往きのポイントがいくつかあったが、とりあえずどうにかなった。


 だが、油断するにはまだ早い。この綱渡りのような状況を渡りきるまでは、気を緩めちゃいけない。


 各人が自分の彼氏だと名乗るのを待っているのだろうか、3人分の視線が俺に集まる。当然、誰か一人を限定するわけにはいかない。全員平等に、且つ違和感のないよう名乗らなければ。


「んんッ! え~改めまして――――の彼氏の目黒川ですッ! 見知った顔しかいませんが、とりあえずよろしくッ!」


 教育テレビに出演しているお兄さんが子供たちに呼び掛ける要領で俺は3人にそう挨拶をした。手応えは……、


「「「……………………」」」


 正直まったくない。


 いや無理、違和感ないようになんて無理、どうやったって粗が出ちゃうよ。その証拠にほら、3人ともポカンとしちゃってるし。


 どうする? 強引に話題を変えてこのなんとも言えない空気を壊すか? いや、それだと逆に怪しまれてしまうかもしれないし……なら、このまま反応を待つ?


「ちょっと、目黒川!」


 考えあぐねている俺に対し、一番に反応したのは小鳥遊だった。


「肝心な部分がなに言ってるかさっぱりだったんだけど! ちゃんとハッキリ言いなさいよ! あたしのかれ――」


「――た、小鳥遊ッ!」


「ひゃいッ⁉」


 最後まで言わせちゃいけない! と俺は咄嗟に小鳥遊の両肩を掴み、顔を近づける。顔をゆでだこのように真っ赤にして恥ずかしがっている彼女だが、そんなの気にしていられない。


「……小鳥遊、クレープが食べたい」


「く、クレープ? ……が、食べたいの?」


「ああ。めちゃくちゃ食べたい」


「そ、そう……じゃ、じゃあ……一緒に、買いに行く?」


「いや、お前一人で買いに行ってきてくれ。俺のはチョコバナナクリームでいいから」


「う、うん……わかった――――って! それただのパシリじゃないッ! しかもさらっとメニューまで伝えてきたし。い、一緒に行けばいいじゃない……と、というか――一緒に行きましょうよ!」


 ごねる小鳥遊に俺は更に接近する。彼女の顔は目と鼻の先だ。


「お願いだ小鳥遊……この借りはいつか絶対に返すから、買ってきてくれ」


「あわ、あわわ――あわわわわわッ――――か――買ってくりゅうううううううッ!」


 とうとう羞恥が限界を迎えたか、小鳥遊は俺の手を振り払い、向きを変えて一目散に駆け出していった。


「ふぅ……」


 安堵の息が俺の口から漏れた。爆発寸前だった時限爆弾、そのカウントダウンを無理矢理引き延ばすことに成功した。


 危なかったぁ……小鳥遊のヤツ、完全に『あたしの彼氏』って言いかけてたからな。冷や冷やさせんなよまったく。


 人混みを縫うように駆けてく小鳥遊の背を見つめがら胸を撫で下ろしていると、羽崎と緑川が示し合わせたかのように俺の前に。


「「……………………」」


 二人の目には軽蔑の色が浮かんでいた。



――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転です。


昨日記したカクヨム様(笑)からの警告は作品を非公開にすることでなんとか許されましたので、一応報告しておきます。


それはさておき……わたくしこと深谷花びら大回転、カクヨムに登録して約2年が経ちました。最初の一年とちょっとは登録してるだけでやっていないも同然だったのですが。

ここまでやってこれたのも皆様のおかげです。これからもわたくしを愛してくださいね?


んで、今更ながら知ったんですが、このカクヨムというサイトが出来立てほやほやの頃に〝オレオ事件〟なるものがあったそうですね。

前々から目にしたワードではあったんですが、詳細はまったく知らなかったんですね。そいで昨日調べてみたら……ああ、こりゃ名を残すまでになるわなと納得したわけなんです。

〝オレオ〟の作者さんが今尚カクヨムにて息をしているかはわかりません。ただ、一言送りたい――頭いいですねと送りたい。


作品はまだ残っているので、知らない方は是非。誰にでもできる作品ですが、天才でなければ先駆者になれない、そんな作品ですんで。

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