温もりを求める冷たい幽霊と〝性〟なる夜を5

「……………………へ?」


 不意打ちと呼ぶに相応しい告白だった。そのせいで俺の口から間抜けな声が零れてしまう。


 ハッキリと聞き取れたはずなのに、幻聴だったのでは? と受け入れようとしない自分がいる。


 こっちには羽崎に好意を持たれる理由がない。どころか、これまで関りすらなかった……嬉しいよりも先に不信感を抱くのは当たり前じゃないか。


 だっつーのに、どうしてか羽崎の瞳がキラキラ輝いているように見えてしまう。普段のなに考えてるかわからん眼とは大違い……これはあれか? 好きなんて打ち明けられたせいで変なフィルターがかかっちゃってるのか?


 とにかく、真に受けるのはよろしくない。いくら見た目が可愛いからと言っても羽崎だ、打算的な考えがあっての発言かもしれない……たとえば、美人局つつもたせとか。


「聞こえなかったの? 私が言ったこと」


「ああいや、ちゃんと聞こえてたけど……その、冗談なのかなと」


「冗談なんかじゃないわ。嘘偽りない私の気持ちよ」


「……そう言えと誰かから命令されてるとか? 前もって伝えておくけど……俺、ふんだくれるほどの金持ってないぞ?」


邪推じゃすいね。よく考えて? 金銭が目的だとしたらわざわざ同じ高校の生徒を狙う? 高校生のお財布事情なんてたかが知れているし、悪事が晒されるリスクを考慮すれば普通狙わないでしょ? どうせやるなら妻子持ちの金持ちをターゲットにするわ。相手の弱みを握れるもの」


 羽崎の論は最もだった。だからといって納得できるかと問われればそれはまた別。


「まぁそうだけどよ……でもほら、好かれる理由がないというか……これまで絡みという絡みも今までなかったわけだし」


「一目見て惚れたという可能性だってあるじゃない?」


「……………………」


「まったく信じていない様子ね。まあいいわ、理由はちゃんとあるの……それは、〝めぐろん〟があなただと特定できた話にもつながってくるわ」


 すっかり忘れていた。そうだ、どうして彼女が俺を〝めぐろん〟だと知っていたか、それを聞き出すことが先決だったはずだ。


 誘惑に翻弄されていたせいで、たったそれだけのことすらも頭の中からすっぽ抜けていた。不甲斐ないことこの上ない。


 しかしそれがどう繋がってくるというのか? 皆目見当もつかない俺は無言のまま羽崎に続きを促す。


 すると羽崎は口の端を上げ、僅かに弾ませた声で訊ねてきた。


「――今流行りの〝フォーペックス〟ってゲーム、知っているでしょ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る