温もりを求める冷たい幽霊と〝性〟なる夜を3
結論から言うと、羽崎の目指していた場所はやはりラブが付くホテルだった。
一年に一度の性夜祭である今日、ラブがつくホテルはどこもかしこも満員御礼かとばかり思っていた……が、案外空き室はあった。まあでも、この後すぐに埋まるんだろうけど。
ホテル〝ユートピア〟。名前からしてビジネスではないと区別がつくそのホテルの一室にて、俺は一人、ベッドに腰かけ『考える人』とのポーズを決め込んでいた。
浴室から聞こえてくるシャワーの音が遠慮なく思考をかき乱してくるが、それでも俺は必死に考える。誰が浴びているかは言うまでもないだろう。
正直、ここに来るまでの間ずっと心がフワフワしていた……俺がここにいる以上、そう認めざるを得ない。
チ〇ポジを正すことに成功し、安堵感に包まれていた俺はさながらタンポポの綿毛だった。風に吹かれて空に追い出され、風の向くままに宙を泳ぎ、抵抗すらせずここに流れ着いてしまった。
……今しがた、ようやっと冷静と後悔が俺の元にやってきたところだ。
ここまできたら、もう断言できる。羽崎の目的は――――合体だ。
つまり彼女はクールな仮面の下に変態を隠してたということ……人は見かけによらずとはよく言ったもんだチキショウ。
「……しかし困ったなぁ」
そう独り言を漏らして俺はベッドに体を預ける。照明がやたらエロい。
合体の経験とかねーよ俺……そりゃ、映像作品ならしょっちゅうお世話になっていますよ? けどほら、画面越しでと実際に体験するんじゃ全然違うわけで……あーもう自信ねーよこんなの……。
俺は足をベッド外に放りだした状態で寝返りを打ち、仰向けになる。シャワーの音はもう聞こえてこない。
やっぱこういうのは男の俺がリードすべきだよなぁ……嫌だなぁそれ。『下手くそね』とか冷めた目で見られそうだもん、羽崎のヤツ経験豊富そうだし…………いやぁでもやっぱ男の俺が――ってッ!
俺は飛び起きる勢いで上体を反らし――そして、
ち・が・う・だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!
このハゲエエエエエエエエッ! と額をベッドに何度も打ちつけた。
なにを合体する前提で悩んでるんだ俺はッ! 好きでもない相手と合体なんぞあってはならないッ! 『初めては絶対好きな相手と』って心に固く誓ったのをもう忘れたのかッ! ……確か、4年前ぐらいに、純愛映画かなんかを観た時に。
残念ながら心に決めた相手はまだ見つかっていないが……いつか目の前に現れてくれると信じている。その時まで、俺は童貞を取っておかなければならないッ! だからここで、ピノキオを晒すわけにはいかないんだッ!
「ふぅ……危うく自分を見失うとこだったぜ」
俺は再びベッドに座り直す。スマートなやり方とは程遠かったが、なんとか欲を抑えることができた。
かなり暴れてしまったが羽崎は気付いていないよう。髪を乾かしているみたいだから、そのおかげだろう。
やがてドライヤーの音も消える。室内を満たすのは控えめに流れているヒーリング系のBGMのみだ。
程なくして、キイィ……と洗面所に繋がる扉が開かれた。
「……待った?」
不覚にも俺は見惚れてしまう。バスローブ姿の羽崎は私服を身に纏っていた時よりも肌の露出が多く、彼女の透明感をひと際よく感じさせている。
髪型も普段と違って後ろでまとめられており、綺麗に整った顔は風呂上がりのせいかほんのりと赤い。
あ、あれ? この人――こんな可愛かったっけ?
「ふふ、どうしたの? 目黒川君……そんなに私を見つめて」
「――べ、別に? 見つめてなんかいませんけど?」
「それはさすがに、無理があるというものでしょ」
ベッドが弾み、いい香りがふわっと広がる。彼女は今、俺の隣にいる。
「――シャワー……浴びてこなくていいの?」
甘くとろけてしまいそうな声で
「ねぇ……聞いてるの?」
「え? あ、おう……シャワー、な……浴びる浴びる」
不思議だ……もうそれだけ力を入れてつねっても、太ももに痛みをまったく感じない。
違うな、痛いは痛いけど――もうそんなことはどうでもよくなっているんだ、俺は。
――――――――――――。
どうも、深谷花びら大回転です。
皆さんはクリスマスイブをどうお過ごしになられましたか? 彼女と? 友達と? 家族と? それともクリぼっち?
人それぞれの一日だったと思いますが、わたくしは大切な彼女と過ごしました(煽)
彼女の了承を得て、近況ノート『きっとクリぼっちであろう読者の皆様に告ぐ』で写真の方を載せてありますので、気になる人はご覧になってください。わたくしの彼女、めちゃくちゃ可愛いですよ?(煽)
というわけで、今回は珍しく自慢全開の後書きとなりましたがくれぐれも嫉妬のないよう、お願いしますね?(ざまぁ)
では。
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