温もりを求める冷たい幽霊と〝性〟なる夜を1
時刻は21:00。○○駅、テテール前。俺は最後の利用客である
揃いも揃って同じ場所を指定してきた……というのは些細なこと、羽崎に関しては別のツッコミどころがある。
3人の中で唯一だ――互いに会う前から正体を知っているのは。
何故、羽崎が趣味垢から俺だと特定できたのか……彼女に問い詰めなくては。
「――あら、随分と険しい顔してるじゃない。なにか嫌なことでもあったのかしら?」
噂をすればなんとやらってわけじゃないが……〝幽霊さん〟のご登場だ。
幽霊というのはあくまで俺が持つ
艶のある黒髪は腰の辺りまで伸びていて、色褪せた黒い瞳はなにを考えているかまるでわからない。肌は雪のように白く鮮明で、触れれば
だからか、羽織っている白いコートはお世辞抜きで似合っていた。彼女にピッタリだ。
「嫌なことは別に……ただ、不思議に思うことがあってな」
「不思議に思うこと? それはなに? 私に関係あること?」
羽崎は冷笑を浮かべたまま首を傾げる。白々しいったらありゃしない。
「どうして〝めぐろん〟が俺だとわかった?」
「ああ、そのことね……立ち話もなんだし、とりあえず暖を取れる場所に行きましょ? 訳はそこで説明するわ」
淡々とした口調でそう言ってきた羽崎は、俺の前に白い手を伸ばしてくる。
「行ってみたいところがあるの。そこまで手を繋いで行きましょ? もちろん、恋人繋ぎで」
「……意外とノリ気だな」
「ええ、ノリノリよ。そして、とてもワクワクしているわ。こういうの初めてだし」
まったくもってワクワクしているように見えないが……感情を表に出すの下手そうだし、案外言葉通りなのかもな。
これまで接点という接点がなかっただけに驚きだったが、まあ彼女も心は女の子だったということだろう。愛だの恋だのに一定の興味があるらしい。
俺が羽崎の手を取ると、彼女はすぐに指を絡めてきてあっという間に恋人繋ぎに。
「行きましょ」
「ああ」
そして俺と羽崎はテテールを後にする。
「ふふ、目黒川君の手、温かいわ」
「いや、お前の手が冷たすぎるんじゃね? これ」
「代行サービスとは思えない正直っぷりね。まあ事実だからしょうがないけど…………私、人より平熱が低いのよね」
――んなッ⁉
羽崎は温もりを求めるように身を寄せてきた。歩きづらいという物理的な問題よりもドキドキの方が俺の中で先行している。
普段の羽崎からは想像もつかない大胆さ。そのギャップが不意打ちとなって俺の心臓をバクつかせる
お、落ち着け、俺。この状況は代行という前提があるから成り立っているわけで、羽崎もそれを理解しているから積極的になっているだけ。くれぐれも勘違いしないように!
これは代行これは代行……と俺は心の中で念仏のように唱える。すると――あら不思議! 速くなっていた動悸が、
「――だから、手だけじゃなくて体全部を温めてもらいたいのよね」
更に加速する。
か、体全部をだとッ⁉ そ、それってつまりエッ――――い、いやいやッ、深い意味はないはずだ。いくらクリスマスイブだからって、いくら〝性の時間〟に突入したからって、羽崎が羽を休めるためにそういう感じの場所に行って羽を伸ばすなんて絶対にあり得ない!
性の時間、それはクリスマスイブ限定で訪れる確率変動。俺含めた童貞共、又は彼女いない寂しい男の嫉妬の対象。この日、この時間帯だけは皆、性に
だからといって、性の時間の法則を羽崎に当てはめてはならない。言語道断、そういう考えが浮かんでしまうこと自体がもう気持ち悪い。気持ち悪すぎるぞ! 俺!
俺は邪念を振り払い、羽崎に言葉を返す。
「え、えっと……ハグとかをご所望で?」
すると羽崎は妖しい微笑を浮かべ、
「そんな可愛らしいものじゃなくて……もっと激しく、そして――大人なやり方をご所望です」
そう色っぽい声で俺を惑わせてきた。
え、え、え――――エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
――――――――――――。
どうも、深谷花びら大回転でエンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
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