小悪魔チックな後輩ちゃんと偽りの契約3

 〝絶対に惚れない〟。その発言で彼女を焚きつけてしまったんだと、デートの途中で俺は気付いた。


 あれからカフェを後にした俺達は、デート映えしそうなスポットを巡った。場所選びはすべて緑川のチョイスだ。


 日が日だけに多くのカップルがいた。それが唯一の救いだったかもしれない……なんでもない平日だったら、冷めた視線のまととなっていたはずだ。


 彼女の『思う存分楽しむ』という発言の意味は、人の目を気にせずイチャイチャ♡すること、もっと言えば俺を困らせることだと思う。いや、確信したと強く出てもいい。


 俗に言うバカップル。傍から見ればそう映っていただろう。いくらカップルが多くても、悪い意味で頭一つ抜けていた。煙たがれていた自信はある。


 恥ずかしいったらありゃしない。それは今もだ。


「――それじゃセンパイ! 撮りますよ~」


「え、あ、おう」


 緑川は俺に抱きついたままスマホを掲げ、クリスマスツリーをバックに一枚パシャリ。


「ふっふ~ん! いい感じの写真がまた一枚! どうです? センパイ――これ、いいでしょ?」


 そう言って緑川は撮りたてホヤホヤの写真を俺に見せてきた。ふむふむ、こういったイチャラブに慣れていない感が嫌というほど伝わってくる顔してんな、俺。


 良いかどうかは俺が判断することじゃない。彼女が良いと思うならそれでいい。それよりも――。


「これ、俺の顔が普通に写っちゃってるんだけど?」


「あ、その辺は心配しなくても大丈夫です。今の時代、どうとにでもなるんで!」


「あ、そう? じゃあそれはいいとして…………いい加減、離れてくれない?」


「ええー、どうしてですかぁ? こうしてる方があったかくていいじゃないですかぁ」


「いや、でもほら……人の目とかあるし、それにずっとここを占領してるわけにもいかないだろ」


「いやです! いやですぅ! もうちょっとだけこのままでいましょうよぅ!」


 緑川は顔を俺の胸に埋めて、いやいやと首を横に振る。


 やめてくれ――もうす――っごい恥ずかしいから今すぐやめてくれえええええええッ!


「なぁ、俺達もあれ、やってみるか?」


「ちょ、さすがに無理だって~。恥ずかしいもん」


「だよな!」


 通りすがりのカップルがこっちを見ながらクスクスと笑う。いけない、俺の顔面が噴火してしまいそうだ。


「わかった! もうちょっとだけこのままいてやるから、そのグリグリするのを今すぐやめろ!」


 早々に心折らされた俺が白旗を振ると、彼女はパッと動きを止め、顔を上げる。


「……最初からそう言っていれば、いらない恥をかかずに済んだのに……ねぇ、センパイ?」


 あぁ……悪そうな顔が本当に似合うなこの子は。いや、悪そうじゃなくて悪い、だな。わざとやってたみたいだし。


 怖いよ……小悪魔系女子。


 ――――――――――――。


「いやぁ、絶対に! 惚れないってわかってると遠慮なく――じゃなくて、安心していれますね!」


 わざわざ言い直さなくても、遠慮なく俺を困らせようとしてたのは丸わかりだからね?


 俺は心の中でそうツッコミを入れつつ、パスタをフォークでクルクル巻き、口に運ぶ。


 時刻は13:30。緑川が指定してきた終了時間まで残り30分を切ったところだ。


『お腹、空いてきましたね。ここらで昼食にしません? ウチ、いいお店知ってるんすよ!』


 緑川の提案に、同じくぺこぺこだった俺は二つ返事で承諾。そして今に至る。


 いい店知ってると言うだけあって飯が美味い。内観もシャレてるし店内の雰囲気も落ち着いている。


 この店は覚えておいて損はないな。いつか、俺に彼女ができたら『いい店知ってんだよね★』と自信満々にここを紹介しよう……できるかわかんないけど。


「写真もたくさん撮れたし、良かった良かった!」


 対面に座っている緑川はご満悦の様子。スマホを眺めながら頬を緩ませている。


 満足そうでなにより。ただ、緑川の考えには肝心な〝大前提〟が抜けている……一応、サービスの一環として伝えておくか。


「なあ、緑川。写真をSNSに載せても、特定の人間に見られなきゃ意味ないんだが……その辺は大丈夫なのか?」


「問題なしです! 全員ウチのフォロワーなので! ウチがなにかしら投稿すれば速攻で絡んでくるので、確実に――絶対に! 目にするはずです!」


「そうか」


 絶対にと強調した部分には触れず、俺は短く返した。抜かりはないということだ。


「あのぅ……一つ、センパイにお願いがあるんですけどぉ……」


 と、緑川は窺うような視線を俺に向け、人差し指同士をツンツンとさせながらそう口にした。言いにくいお願いだということが一発でわかる態度だ。


「なに?」


「えっとですねぇ…………また、彼氏役を頼んでもいいですか?」


「いや、目的は果たしたんだし、もう頼む必要なくないか?」


「そうなんですけど……よくよく考えたら今日だけってのはちょっと、効果が薄いんじゃないかと思いまして」


「……つまり、定期的にデートっぽい写真をアップしたいと」


「そういうことです! もちろんその都度お金は払います…………だからどうか、お願いできませんかね?」


 彼女の言は理に適っている。それっきりよりも定期的の方が効果はあるし、なにより不自然じゃない。本物のカップルだったら、これから先もツーショット写真を撮る機会がたくさんあるのだから。


 ただ単に俺を困らせたいというわけではなさそうだ。が、従う義理はない。ここは断る一択!


 …………なのだが、安易に口にできない。何故なら――、


「断ったら、どうするつもりだ?」


「……この場で『他の女の子と寝るなんて酷い! 浮気者!』って大声で泣き叫びます』


 こうなるからだ。


 というかコイツ、申し訳なさそうな顔しながらなにとんでもねーこと考えてんだよホントに! 肝が冷えるってレベルを余裕で超えてるからねそれ? ここにいる全員が俺の敵になるわ!


 断らなくて良かったと安堵する自分がいる。本来なら然るべき態度ってもんがあるんだろうが……。


「はぁ……わかったよ」


「――ありがとうございます! あ、じゃあじゃあ! LINE交換しましょうよ! LINE!」


「はいはい」


 俺はスマホを取り出し、すっかりご機嫌な緑川とLINE交換を済ませる。


 あ、こっちも★みどみの★なのね。


「えへっ、センパイのLINE――ゲットだぜ♡」


 スマホを口元に当てた緑川の、遠慮を知らないあざとさを前に、俺は溜息をつくことしかできなかった。


 こういう人間が、出世への階段を着実にのぼっていくんだろうなぁ……怖い怖い、社会怖い。




――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転です。


突然ですがなぞかけしま~す。


お父さんの入った後のトイレとかけまして、話のストックがないザコ物書きとときます。


そのこころは――――いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんあんあんあんあんああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!


お後がよろしいようで。

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