小悪魔チックな後輩ちゃんと偽りの契約2

「え、そんなんでいいの?」


 無理難題を注文されるのかなと構えていただけに、緑川の要望に俺は拍子抜けする。


「はい! あ、被写体と言ってもセンパイの顔は写さないんで安心してください。男の人と一緒にいるなってわかればいいので」


「あ、そう。まあそれぐらいだったら全然いいけど……なに、SNSかなんかに載せる感じ?」


「そうですよ。でも、クリぼっちなのを誤魔化すため~とか、承認欲求に飢えまくってる~みたいなのじゃないですからね? ちゃんとした目的があるわけですよ!」


「へぇ。てっきり今挙げた二つのどっちかかと思ってたけど……んで、その目的とやらは?」


 俺が問うと、緑川は小さく溜息をつき、頬杖をついて窓の外に視線を移した。さっきまでの小悪魔アイドル感は消え、アンニュイな雰囲気を纏う。『彼女は今、なにを思っているのか』、なんてナレーションが頭の中で勝手に流れるくらい、憂いを帯びている横顔だ。


「……ウチ、見ての通りめっちゃ可愛いじゃないですかぁ……だから、どうしてもモテちゃうんですよねぇ」


「……………………」


 ツッコミ待ちなのか? いやいや、実際に可愛いわけだからボケてるわけじゃないか……ともあれ、可愛げのない性格をしているのは確かだと思う。発言からして間違いない。


 緑川の語りは続く。


「今日だって、たくさんの男の子に誘われてたんですよ。けどウチ、誰とも付き合う気はないんで、全部断ってきたんです。そりゃ、最初の内は悪い気しませんでしたよ? でも、段々と鬱陶うっとおしく感じてきちゃいまして……どうにかできないかな~って悩んでた時に、『これだ!』ってのを見つけたんです」


「それが、俺のあげたツイートだと?」


「まさしく。テキトーに他校の子を利用してとかでもよかったんですけど、惚れられちゃったら面倒じゃないですか。けど、お金が発生してればその辺は割り切ってくれるかなって、それで連絡したんです……同じ高校の先輩だったのは予想外でしたけど」


 緑川は頬杖をついたまま俺に顔を向ける。


「くれぐれも、ウチに惚れないでくださいね? センパイ」


「あ、うん。絶対に惚れないから心配しなくていいよ」


 俺は念押ししてきた彼女に即答した。


『こんな可愛い子の彼氏役を務められるなんて役得だぜ、おい!』と一瞬でも浮かれてしまった自分が恥ずかしい。


 緑川みのり……彼女は他の誰でもない自分に惚れまくっている。略して自惚れだ。


 緑川の言に噓はないだろう。その類いまれな容姿によってたくさんの男を虜にし、めちゃモテアイドル(笑)なスクールライフを送ってるに違いない。


 結果、羞恥心が失せ、自尊心だけが肥大化していった。


 尊大とまではいかなくても、多少の羞恥心は必要なんだなって改めて理解させてくれる。よき反面教師だ。


「……………………」


 顔に驚きの色を示したまま静止している緑川。好意を持たれないのは彼女の条件に適ってるはずだが……はて、一体どうして?


 そう俺が頭を悩ませていると、固まっていた緑川が「あは、あはは」と引きつった笑みを浮かべる。


「み、見事に言い切りましたねえセンパイ。いやぁホント、頼もしい限りで……け、けど、絶対って保障はないですよね?」


「いや、絶対ない」


「んなッ⁉」


 ついには声にまで出して驚愕を表した緑川。


「なにをそんなに驚いてるんだよ。「惚れないでくださいね?」って忠告してきたのはそっちだろ?」


「それは、そうですけど…………絶対にってきっぱり言われちゃうと、ちょっとくるものがあるというか……ムッとしちゃうじゃないですかぁ」


「……ひょっとして、かまってちゃん?」


「かッ――かまってちゃんじゃないしッ! ……じゃなくて、ないです」


 図星だったのか反射的に否定してきた緑川だったが、程なくして敬語に言い直した。申し訳なさそうにも、拗ねているようにも見える。ちゃんとしてんだかしてないんだか、よくわかんないヤツだ。


「そうかそうか。悪いな、見当違いなこと言っちゃって」


「……とりあえず謝っておけばいいだろ感が物凄く伝わってきましたけど、まあいいです……」


 不貞腐ふてくされたように言った緑川は、僅かの沈黙を挟み、挑戦的な笑みを浮かべる。


「センパイは――絶対にッ! 惚れないそうなので、ウチも思う存分やらせてもらいますね?」


「いやいや、思う存分って……デート風景を写真に収めるだけだろ?」


「そうですよ? でもぉ、どうせなら楽しみたいじゃないですかぁ。お金を払うわけですしぃ……顧客の要望には可能な限り応えてくれるんですよねぇ?」


「ま、まあな」


「お客を楽しませるのはぁ、大前提ですよねぇ?」


「そ、そりゃそうだろ。当たり前だ」


「それじゃ、問題ないですね!」


「――あ、ちょ、それ」


 緑川は俺の前に置かれた飲みかけのコーヒーカップを手に取り、俺が口付けた部分に自分の唇を重ねる。


 か、か――――間接キスッ⁉ な、なんで? どしていきなり?


 突然の出来事にどう反応していいかわからず、動揺してしまう。


 そんな俺が滑稽に映ったのか、緑川は「んふ♡」とあざとく微笑み、口を開く。


「よろしくお願いしますね? セ~ンパイ」




――――――――――――

どうもおおお! 深谷~花びら~――大回転でえええええええええええええす!


くるくるくるくるく~るくる、くるくるくるくるく~るくる!


「おお、おお、相変わらずよお回るなぁ、大回転さんは」


ああん! 速い速いよおおおおおおおおおおおお! こんなに速くされたらおかしくなっちゃうううううう!


「お、おい……大回転さん、顔、イッちゃってねーか? あれ」


もっとぉ! もっと速く回してえええええええええええええええええええ!


くるくるくるくるく~るくる、くるくるくるくるく~るくる!


くる狂狂くるく~るくる、狂狂狂狂く~る狂!


……こんな感じの精神状態で執筆してま~す。現場からは以上で~ス。

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