キノコ娘達とのさらなる触れ合い
「まおー、さま、これみて」
「どれどれ……ほほぉ! こりゃ珍しい薬効じゃのお。ニューや、よく見つけたのぉ!」
「えへん」
まだ様付けで呼ぶのに慣れないニューだったが、後付けではあるものの、忘れずに付けて呼ぶことはできているようだ。そしてニューの見つけたものであるが、変わった薬効を持った植物の発見についてであったらしい。それも博識のはずの魔王をして、珍しいと言わしめる代物であった。
「こういう薬効があるということは勿論知ってはおったが、このありふれた薬草からも抽出されるとは思わなんだ。でかしたぞ」
「ん。でもふしぎ。このやくそうには、もともと、ほかのやっこうがある」
「そうじゃのう。これは別の薬効を持ってるはずじゃ。……むぅ、種が違うんかいの? それとも環境かの?」
「10しゅるいのマナのうどに、10しゅるいのおんどと、10しゅるいのどじょう、10しゅるいのたかさ? でじっけんした。うち、このやっこうがあらわれたのは10%。みためもかわった。かんきょうせつ、あるとおもう」
「ほほぅ……っちゅーか、一万種類もの実験を行ったのか! お主、やるのぉ」
「ふふん。なでてもい……ふぁああ」
ニューが撫でて良いと言い切らぬ内にキノコをなでるお子さ魔王。にしてもこのキノコ娘達、魔王に撫でられると恍惚の表情を浮かべるが、なにかやばい薬でも手に塗ってるんでしょうかね? ちなみに高さとは標高のことであり、気圧のことと置き換えて良い。
「で、導き出される結論は?」
「あふぁ……。ん……ひきょうとよばれる、それもかこくなかんきょうかで、ぐうぜんならみつかるかのうせいがある。まおー、さま、このめずらしいほうのやっこうと、おなじこうかをもつやくそう、ない? こんなやつにへんかしたんだけど」
「うむ、あるぞ。わしはそれが生えておる場所へ行くのに苦労せぬ故、まさか環境の違いで違う薬効が出るとは思わなんだが……うむ、たしかにこの薬草じゃ。見てくれまでもが、環境の違いでこうも変わるとはのぉ。元の薬草は広く良く知られておるありふれたもんじゃのにのぉ。これは大発見じゃな! でかしたぞ、ニュー」
「えっへ……むふわぁぁ〜」
胸を張ろうとするニューに構わず撫でくりまわすお子さ魔王。……蕩けているニューは大丈夫だろうか。
「この調子でどんどん実験をしておくれ。足りぬものがあればすぐ用意するでの! 新たな発見を楽しみにしておるぞ!」
「へうぅ……。りょうかいした。そしてまたなでてもらう」
「ふむ? 頭を撫でるくらい、いつでも構わんぞ?」
魔王の漏らした悪魔の囁きに、ニューが難しい顔を作る。
「むうぅ、それはとてもみりょくてきなひびき。しかしありがたみがうすれる。ほめてもらうときにおねがいする」
「よしよし、こころえた。では励むんじゃぞ」
「らじゃー」
ニューは誘惑に打ち勝った! 一方の魔王はすごすごと退散した! ……や、これは気分的なものです。
――リフィサイド
一方、コピアに伴って食料庫にやってきていたリフィは、在庫の状態を確認していた。食料庫の奥には保存庫があり、保存庫に収められた……というか適当に突っ込まれたものは、魔王の魔法によって腐食すること無く保存されている。中には以前、朽ちかけの骨のオブジェと化していた獣のように、仕留めてそのままになったものも数多くある。リフィは時折食料庫に補充する目的で引っ張り出してきたりしていた。
「あーこれも適当に突っ込まれたものですねー」
「そうですねー」
「後で解体して、余分な所は
「分かりましたーお姉さまー」
こうして二人は、魔王の食べない部分を処理していくのだが、ある意味これがコピアがよく育っている理由かも知れない。もちろん他の姉妹達にも、こういった部分は分配されてはいるのだが……。ちなみにリフィの分身であるキノコ娘達は、本来なら子供と言うべき存在であるのだが、全員呼び方は多少違うものの姉と呼ばせ……呼んでいる。
「ところでー、お姉さまー」
「なんですかぁ?」
「ドロシーはー、上で楽しそうにしてますかー?」
「ええ、毎日楽しそうですよー?」
「……そうですかー」
仲の良いドロシーのことを訪ねたコピアは、少し悲しそうな顔をする。リフィは思わず問いかけた。
「あの子、余りこちらには来てくれないんですかぁ?」
「ええ、そーなんですー。食べることに夢中な割にー、余りがっついていないんですよねー。ご主人様からはドロシーがやってきたら自由に食べさせて良いと仰って頂いてるのですがー」
ドロシーに甘々のお子さ魔王は、腹を空かせてくるようならたらふく食わせていいと言っているようだ。……以前の貴族の孫娘がふくふくころころに育っていた際、その元凶達を責めるかのような目で見つめていた自分を思い出してもらいたいものである。最も、お子さ魔王が甘々なのは、ドロシーに限った話ではないが……。
「……寂しいですかぁ?」
「寂しい? ……ああ、そうですねー。これは寂しい、っていう感情ですねー」
「ふふふ……私はそんなあなたを誇りに思いますよぉ」
「?? 何故ですかー?」
「ふふふ……内緒ですぅ」
「そうですかー」
姉? に誇りに思われたことは嬉しくもあるが、その理由は分からずじまいでぼやかされたコピア。こうなるとちゃんと教えてもらうことはできないだろうと分かっているらしく、追求はすぐ諦めるのだった。するとそこにお子さ魔王が現れた。
「む? 何じゃ、どうしたコピアよ。かように沈んだ顔をして」
「あら、魔王様いらっしゃいませぇ」
「ご主人様、いらっしゃいませー」
そしてお子様王はことのあらましを二人から聞いて、思案げに頷くのだった。
「なるほどのぉ。ドロシーのことが気になるのに、余り顔を出さん、ということか」
「少しだけー、ニュアンスが違いますがー、概ねそのとおりですー」
少し誤解のある伝わり方だったが、訂正するのは面倒なのか放置するコピア。この辺りもリフィに似ているか。
「ではちょくちょく連れてくるとしようかの。儂がここに来るといえば、ドロシーもついて来ようからの」
「良いんですか!?」
「おおう……やっぱりというか、お主もリフィに良く似とるのぉ」
食いつき気味にぐいっと寄ってくる何処かで見た反応に腰が引けながら、魔王が呟く。そして寄ってきていたコピアの頭のキノコを撫でる。
「仲の良いドロシーと引き離して悪かったの」
「うっふぁああ……そんなことー、ないですー」
うっとりと、でも嬉しそうにコピアが蕩ける。……見た目の年齢的に? ちょっと絵面がやばい感じです。そして……
「……」
「……なんじゃいリフィ。そんな顔せんでも、お主の頭も撫ででやるわい。っつーか、前かがみに並んでおる時点で撫でろと言うとるようなもんじゃろうが」
「あらあらうふふぅ」
そこにもちゃっかり混じる、リフィなのであった。
――ドロシーサイド
「まんっ……まー!!」
「おお! やるなドロシー! だがおれもまけちゃいないぞっ!」
……追いかけっこの最中だろうか? ドロシーは追い詰められるも、いきなり壁と天井を使って三角跳びを披露し、詰め寄るマヤを躱して走り去る。マヤも負けじとその後ろを、方向転換ついでに壁走りなどを決めながら追従していく。なおこの際に開いていた扉などは、二人が近づいたその都度、ひっそりついていってるイリスが閉めていたりする。下手に突っ込んでいったら怪我……したりするのかな? まぁ少なくとも、二人が突っ込んでいった部屋の中は大惨事にはなるであろうから、イリスは良い配慮をしていると言える。というか、先回りして閉めたりできる辺り、二人より動きが早いのだろうか?
そしてそこに現れたるはお子さ魔王達、この全力全開追いかけっこを目の当たりにして、目をまん丸にしてその様子を見つめていた。
「こりゃまた……凄いことになっとるのぉ。追いかけっこかの?」
「そうですねぇ……恐らく」
「!? まんまー!」
「ひぇっ!? まおーさま!」
魔王に気付いたドロシーが追いかけっこを中断し、魔王目掛けて一目散に飛んでいって抱きつく。一方のマヤは、石化したかのようにその場で固まった。いたずら現場を目撃された子供のようである! ……あ、ちなみにマヤの現在位置は地面です。壁だったら落ちちゃってるからね。
(どどど、どーしよう!? あばれんぼうっておもわれたかな!? がさつなこ……はまちがってないか。とにかく! げんめつされちゃったかな!?)
「ん? どした? マヤもこっちゃ来んか」
「へっ?」
魔王の呼びかけで、いつの間にかイリスまで魔王の側に居るのを発見したマヤは、もにょっとした顔になる。イリスは何時もマヤのアシストをしてくれるが、こういう時に要領が良いのもイリスであった。
「マヤはドロシーと遊んでくれておったのじゃろ? 儂ではドロシーについて行けぬことが多くてのぅ。代わりに遊んでくれるのはとても助かっておるんじゃ」
「そ、そーなんです、か?」
マヤはおずおずと魔王に近づいていく。すると不意に頭のキノコを撫でられた。
「ふぉわっ!?」
「さっきも言ったが、何時も助かっておるよ。ありがとうな」
「ふぇっ、うぇへへぇ……♪」
……お子さ魔王のその手は本当に安全なんですかね? まぁそれはともかく、キノコ娘が複数居る中で一人を撫でれば行列ができるのは必至。
「……まぁ良いがの。……イリスや、地下施設のことや二人を慮ってくれてありがとうな」
「えへ、えへへへぇ……♪」
イリスが二人の遊びで何か起こらないよう気を配っていたことを、魔王はちゃあんと把握しているのだった。
「ドロシー。十分遊んだか?」
「あいっ! まんまぁ……♪」
朝の雪山で付き合わなかったので魔王は気にしていたものの、先程のような全力追いかけっこができていた位なので、満足はしただろうとホッとする。そして……
「……お主さっきも撫でられるのに混じってたろうに。3回めじゃぞ? またなのか? ニューですら、撫でられるのは褒められる時だけにすると辞退したんじゃぞ?」
「それはそれ、これはこれ、ですぅ〜」
誰あろう、いやまたしてもリフィなのであった。最終的にお子さ魔王には出された頭を撫でないという選択肢は無いだろうが、今現在も先程もリフィには撫でられる理由がないのも事実。となれば……
「あー! さっきもってなんだ! おねえ! ずるいぞ! なんだい3かいめって!」
「お姉様? 流石にそれはどうかと思うのです」
「まんま?」
「あらあら、うふふぅ」
妹達? が抗議するのも当然であった。しかしいかな抗議を受けようとも、リフィがその撫で撫でを辞退することは無かったという。リフィはニューと違い、誘惑は全て平らげる所存のようであります。
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