3話 女であることを満たすこと
毎日同じ仕事が続く生活、しかし幸子にはそれすらうまくこなせない。新人でさえもしでかさないような凡ミスに、先輩や上司も指導を半ば諦めてしまった。このとき幸子はせいせいした気持ちで過ごしていたが、まだ指導の言葉をかけられるだけ幾分ましだったかに気付くのは、もっと後の話である。
食べても食べても満たされない、何をどう着飾っても満足できない。苛立ちとむなしさだけが幸子の生活の軸になっている状況のなか、幸子はふと昔を思い出すのだった。
あれは高校1年生の秋ごろ。幸子は自分も恋人がほしいと思うようになった。思春期ならば珍しくない発想だが、幸子にとって人とのコミュニケーションは得意とはいえないものだったので、友達以上恋人未満のような良好な関係を保つ異性はいなかった。
そこで活用したのが当時流行っていたSNSである。匿名ゆえの気軽さ、危なっかしさはあれど、人付き合いが苦手な幸子にとっては安心できる場所だったのだ。そこで幸子は素敵な男性を見つける。年齢は10も上だったが、もともと同級生と話が合わない幸子にとってはむしろ好都合だった。りりしい眉、くっきりとした目元、同年代にはない男性的な魅力の強さに、すっかりとりこになった。
幸子はこのころ、髪の毛をとかすこともろくにせず、化粧のけの字も知らない高校生。友人がおらず休日に出かけることすらないため、私服の数も少なければ、センスなるものも皆無だった。それでも精一杯よく見えるよう顔の一部の写真を送り、気になる彼とのデートが決まった。
しかしこの行動はのちに、幸子の頭の中から「普通の幸せ」について考える力を奪ってしまう原因になる。
生まれ変われるなら、生まれたくない @mugimugi99
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